第五十二話 野外授業1日目 2

 先頭を歩く生徒達から不安な気持ちが感じ取れる。正直先ほど見せられた戦闘は何の役にも立たない。ただ力押しで戦っただけ。それを見て参考にしろと言われても困るだろう。


 暫くの間は魔物との遭遇もなく静かな森の中を歩いているだけだった。そのために、先程まであった緊張感が完全に消えて今は楽しく話している。正直、この授業の間は、緊張感を持ち周りに注意を向けておいて欲しいと思うが、戦闘の経験がない者達ならこんなものなのかもしれないと思う。


 平穏な時間がずっと続くわけではない。今回の授業の目的は戦闘経験を積むこと、この森には多くの魔物がいる。その魔物達がいつ何時襲ってくるかは分からない。そして俺達の監督役は勇者達。信用できない。


 その時がやって来た。


「勇者様!」


 耳元でミリアリアが声を掛けてきた。小さな声だったため、俺が勇者と呼ばれたことは他の生徒には聞こえなかっただろう。


「気づいているよ。ゼルドリス達はまだみたいのようだがな」

「このままでは危険ではありませんか」

「大丈夫だろう。魔物は一体だけだ。それに、低ランクの魔物のようだしな」


 俺は、探索魔法でこちらに向かって来ている魔物を探る。ある程度探索魔法を使い慣れている者ならこの程度のこと朝飯前であろう。


 モンスターとの距離は後三十メートルもない。そろそろ気づいていい頃だが、勇者達は後ろで呑気に話している。


 そのことに対して、


「あいつら本当にバカね」


 アスナがため息交じりに言う。


「そういうな。あいつらは所詮その程度なんだ。それは他の生徒達も分かっているさ」


 俺も流石に勇者達のこの態度はどうかと思う。流石にそろそろ、


「魔物が近くに来ている。皆気を付けるんだ」


 クラスメイト達全員に聞こえるように叫んだ。当然勇者達に聞こえるようにもだ。


「おい! 何を言っているんだ。魔物なんてどこにもいないだろう。お前の目は節穴か?」

「は~あ、勇者、様、もう少し魔力の使い方を学んだ方がいいかもしれないですね。それに、ほら」


 俺は目の前を指さす。そこには、サルの魔物がいた。


「まじかよ」

「スレイブの言った通りだ!」

「勇者様、分からなかったの」


 他から不思議がる声が聞こえてくる。勇者が気づかなかったことに一生徒の俺が気づいた。


「っち! 偶然だよ偶然。見えない魔物が近づいてきているのなんて分かるはずがないだろう」


 俺はその言葉に何も言えなかった。後ろを付いてきている魔法師のクリスなら分かってもいい物だろうと思うのだが、クリスもよく分かっていない様子。どうしようもない。


 そんなことよりも、今は目の前にいるモンスターが優先だ。


 生徒達全員は勇者達の方を見ている。ただ今俺たちがいるのは魔物をはびこる森。こんな所で気を抜きすぎだ。


 サルの魔物が生徒達が集まると所に向かって来ている。そのことに勇者も他の生徒達も気づいていない。


「全員集中しろ! 今は授業だぞ!」


 俺の叫びで生徒達が魔物の方へ視線を向けるが時すでに遅し、魔物は既に目と鼻の先まで来ている。


「スレイブお兄様行きます」


 ミリアリアが動いた。腰に下げている剣から一閃。サルの魔物を一撃で真っ二つにする。


 皆な一安心しているが、


「おい、ゼルドリス! お前は監督役の教師としてきているんだろう! それなのに何をやっているんだ! 生徒達と一緒になって気を抜きやがって! 一つ間違えたらかなりの被害が出ていたかもしれないんだぞ!」

「何を言っているんだスレイブ君。たかがサルの魔物じゃないか。ランクとしては一番下で、初心者用の魔物としても有名なあの魔物如きにやられるわけないだろう」

「お、お前本気で言っているのか」

「ああ、それがどうかしたか?」


 あきれてきた。まさかこいつがここまでアホだとは。どんな魔物であろうと気を抜かずに対処する。これは冒険者としては常識であり、基本。それを忘れてしまっている。もうこいつには何を言っても無駄だな。


 俺が諦めていると、


「おい新入り! 勇者様にその口の利き方はなんだ!」


 俺に対して大声を上げる者がいた。

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