第四十話 学園長の話

 編入初日の放課後、俺達は学園長室へと来ていた。


 当然のごとく、学園長の魔法で部屋には防音結界が張ってある。


「勇者様、わしは肝を冷やしましたぞ」


 今日のゼルドリスとの試合に事について話している。


「申し訳ございません。ですが、結果的に俺達のことはバレずに済みましたよ」


「それはそうだが、ゼルドリス殿達に気づかれたのではないか?」


「そのことについては心配いりませんよ。しっかりと脅しておきましたので」


「脅すとな? まあよいわい。それで何とかなってくれるのならな」


「はい! 心配には及びません」


 凄く疲れた声と、顔で話す学園長。


 そんな学園長とは反対に凄くスッキリとした気持ちでいる俺。


「ですが、もしもの時はよろしくお願いいたしますね。でないと、この国の国王様に合わせる顔が有りませんので」


 そう言えば、俺達の本当の依頼主はこの国の国王様だった。


「それもそうですね」


 軽く答える。


「そんなことよりもです」


「そうですね。本題に入りましょう」


 俺達が学園長室にやって来たのはこんな話をするためではない。


 今回の依頼のことについての話をするためだ。


「今回の依頼は、この学園で起きている不可思議な現象の調査と聞いています。ですが今朝は、いろいろありましてその重要な部分のお話を聞けておりませんでした」


「朝も申しましたが、詳しいことは何も分かっておりません。ただ……」


「ただ、何でしょうか?」


「夜に忘れ物を取りに来た生徒の話によると、誰もいない教室から音を聞いたそうです。ですがこの学園は全寮制で、門限もございます。その生徒が忘れ物を取りに来たのは門限を過ぎた時間だったらしく、学園ないには生徒がいないはずなのです」


「もしかすると、その生徒同様、忘れ物を取りに来た生徒がいたのではないのですか?」


 ミリアリアの考えは俺も考えた。


「その生徒は寮長の許可を取って学園へと来ておりました。その際に、門の警備をする者にも許可証を見せております。その日、その時間に、門を通った者はその生徒のみだったそうです。それに、男子寮と女子寮、両方の寮長に確認したところ、出かけた生徒はその生徒のみでした」


「でも、こっそりと寮を抜けだした生徒がいたかもしれないわよ」


 アスナの意見に対して、


「それは無理です。当学園の寮にはわしの張った結界があります。この結界は、寮の入り口以外からの出入りを出来なくする物です。それに、入り口には警備の者を置いておりその者からもその生徒以外、寮の外に出た者を見ていないそうだ」


 学園長の話を聞いて少し考えてみるも、何も思いつかない。


「もしかすると、生徒ではなく教師、ということはありませんか? 生徒が無理でも教師なら学園に残っていても不思議ではありません」


 ミリアリアの意見に対して、


「それはない。教師もその時間には全員帰宅しておるでな。しかもこの話、これだけではないのじゃ。生徒が遭遇したのはその一回のみじゃが、警備の者が何回も遭遇しておる」


 俺は少し考えながら、


「では学園長、今日の夜、調査のために学園に入らせてもらってもいいですか? このままここで考えていても埒が明きません」


「そうですね。その方が早いと思います」


「少し気味が悪いけど仕方ないわね」


 俺の意見に対して、二人とも二つ返事で答えてくれる。


「分かった。わしの方で入門許可書とそれぞれの寮長に許可を貰っておこう」


『ありがとうございます!』


 三人、声を揃えてお礼を言う。


「わしに出来るのはこれだけです。何が起きるか分かりませんのでお気をつけてください」


「分かりました」


 俺達は、学園長から許可書を貰って寮へと向かうのであった。






 一方その頃、


「ゼルドリスどうしたのよ」


 副学園長室に集まっているゼルドリス達。


「知るかよ!」


 今この場に、副学園長はいない。


「でもあいつってスレイブで間違いないんでしょ!」


「そうだ!」


 ラミアからの問いかけに答えるゼルドリス。


「でも、あいつあんなに戦えたっけ?」


 試合を見ていたときのことを思い出しながら話すクリス。


「俺もそこが不思議なんだ。あいつに戦闘能力はない? そのはずなんだ」


「それにあいつ。アスナも一緒にいたね」


 嫌なことを思い出したような顔をするセルカ。


「もう一人は誰だ? どこかで見たことある顔に見えたが思い出せね~んだよな」


 他の三人も頭を悩ませていると、


「お、思い出した! 神速の姫君よ」


「なんだそれ?」


 ミリアリアのことを思い出したクリス。だが、ミリアリアの二つ名を聞いても思い出せないゼルドリス。


「クリスそれ本当なの?」


 ラミアも気づいたみたいだ。


「たぶんね。私の記憶が間違ってなければだけど」


「でも、それっておかしくない? なんであいつと一緒にいるのよ!」


「おい! 俺にも分かるように話せ! あの娘は誰なんだ!?」


 とうとう、痺れを切らしたゼルドリス。


「た、たぶんだけど、ミリアリア=クリセリア。クリセリア王国のお姫様だと思う」


「なんでそんな奴があんな奴と一緒にこんなところにいるんだ!」


「私が知るはずないでしょ! それに、問題はそれだけじゃないわよ」


 椅子の上で足を組みながら喚き散らすゼルドリス。


「そんなこと知るか! ゼッテエ~許さねー! この俺に恥をかかせたこと後悔させてやる」


 何か企んだ顔をしているゼルドリス。


 そこへ副学園長がやって来たのだった。

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