第十五話 襲撃者
俺達は、村長の案内で今日から泊めてもらう宿へとやってきた。
だが殆ど外から人が来ないこの村に宿と呼べるようなものはなく。民家に泊めてもらうことになったのである。
俺はここに来るまでの間、村人たちの様子を伺っていたが、酷い。その一言に尽きる。
村を襲った男によって食べる物が奪われたことにより、食事に困っているのだろう。それに、一部の者達はそれだけじゃないようだ。この家の者もそうだが、帰って来ていない家族のことを心配してろくに眠れていないようであった。
「ひどいね」
ミリアリアも俺と同じで、村人たちの様子を見ていたようで、自分達の部屋へと着いてすぐにそんなことを口にした。
それに顔を見ると少しぐったりとしている。確かに俺もあの光景には少し気分が滅入った。
「私もそう思ったわ」
アスナもミリアリアの言葉に同調した。
「全員同じ気持ちのようだな。この状況はいち早く解決しないとな」
「そうね。そのために私達がいるんだからね」
「頑張りましょう」
それぞれの気持ちを確認したところで、
「二人とも少しだけ俺のわがままを聞いてもらっていいか」
少し考えていたことを二人に伝えようと思った。
「何?」
「何なのよ!?」
「村を襲ってくる男の相手は俺に任せてくれないか!」
俺は訓練で、ある程度経験を積ませてもらったと言っても、それはたった一週間のこと。しかもあの時のミリアリアは、本気ではなかった。
あの時のミリアリアは明らかに動きにくいドレスを着ていた。それであれほどの戦いが出来る。今は、動きやすい恰好していて全力を出せる状態である。その状態でどのような戦闘をするのか見てみたくもあるが、それ以上に俺が実践でどこまで戦えるかを知りたい。頼れるメンバーが二人もいる。もしもの時には何とかなる。このチャンスを活かしたいのだ。
「私は別にいいわよ。スレイブなら心配ないしね」
「勇者様を一人で戦わせるのは少し心配もあります。ですが、勇者様の意志を尊重したい。それに、もしもの時は私達がいます。だから全力で戦ってください!」
「二人とも助かるよ。まだこの力に目覚めて一週間と少し。その間に訓練は出来たが、実践は積んでこなかった。だからこそやれるときにやっておきたい」
俺の気持ちに二人とも、二つ返事で答えてくれた。
それから俺達は、今後のことについて話し合った。
まずこの村を襲っている男はまだ来ていない。そのために最初に男の件を片付けることになる。一日目はこれで終了となるだろうから村人の捜索作業は二日目からとなる。
二日目、朝一で森へ探索に行くことになった。行方不明になっている人たちは、皆森へ仕事へ行って消えている。それなら森に原因があるかもしれない。そのために森の調査を行うことに。
今後の予定としては、何も見つからなくても昼には一度村へと戻り経過報告をすることに。その後、昼食を済ませてから、また夜まで森へと潜ることになった。
メンバー全員実力がある。ただ、俺の認識としては、アスナは戦闘に参加出来ず、回復役と言う印象だったのだが、
「私、戦闘も出来るよ。さすがに二人ほどとなると無理かもだけど、ゼルドリスくらいなら軽く倒せる程度にはできるかな?」
あれ? それってかなり戦えない? まだ俺、ゼルドリスと直接戦ったことないけど、はたから見ている限り、けっこう強かったと思うんだけど? でもあの時戦ったミリアリアの方がもっと強かったかもな? あれ? それじゃあ、俺も既にゼルドリスより強いってことか。そういえば女神を名乗る女性も俺なら、ゼルドリスを瞬殺出来るって言っていたような気がするな。
「ゼルドリスさんって確か~? 勇者様方が以前所属していたパーティーのリーダーの人ですよね。父の話によれば、この世界でも数少ない剣豪のスキルの使い手と聞いてますが」
「そうだよ。それに、火魔法を使っていたかな? 冒険者の中では負けなしで最強だとか言われていたよ」
「井の中の蛙ってやつよ。実際あいつは自分より下と思うやつとしか戦わない。それに、依頼だってそう。簡単な依頼か、以前クリアしたことのある物しか受けないのよ」
「なんなのですかそれは! 自分のことを勇者と思っている人間のやることではありません! 私が一度説教してあげないとですね」
いつも温厚なミリアリアが顔を真っ赤にして怒り出した。
「無駄よ。あいつは人の言うことなんか聞かない。あいつは自分を慕うやつしか必要としていないのよ。だけどいつか痛い目に合わせてやるわ」
「そうだな。いつかは俺もあいつと戦わないといけないかもな」
少し話がそれてしまった。概これからのことが決まり一息つこうとしたとき、
ッドン!
部屋のトビラが思いっきり開かれると、
「皆様! 村長がお呼びです! かなり緊急のようですが」
俺達はその言葉を聞き、部屋を飛び出した。
村長が俺達を呼びに来る。つまり、男がこの村に現れたということだ。
俺達が玄関へと到着すると、
「現れました! スレイブ様、お願いいたします」
その言葉を聞き、俺達は村へ出て行った。
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