第三話 過去
俺、スレイブ=アストレイは、小さな村で生まれた。
父と母、それに妹の四人家族で、決して裕福ではないものの、幸せな生活を送っていた。
この世界に生まれた者は皆スキルを持っている。その数と能力は、皆違う。
俺も生まれると同時に、スキルを授かった。それこそが『聖域』という、あらゆる状態異常を治せると言うスキルである。
時たま、狩りに行った村人たちが毒を受けて戻ってくることがある。俺はその治療を行うことで、村人達からお金をもらっていた。
そんな生活を送りながら俺は十五歳の誕生日を迎えた。この世界では十五歳になると大人として認められる。
俺は誕生日に両親から、「これからどうしたいんだ?」「あなたの好きなようにしていいのよ」と、言われた。
たぶん両親は、この村を出て、自由に生きなさいと言いたかったんだと思う。このままこの村にいても何か変わるわけではない。裕福な生活は送れないだろう。だが、俺の持っているスキルは『聖域』のみで、それ以外には何もない。村人達から剣や弓など最低限の技術は学んだが、その程度で外の世界でやっていくのは難しいだろう。
だから俺は両親に、「このままこの村にいて、畑仕事を手伝うよ」とその時は答えたのだが、まさか数日後にあのような事が起こるなんて予想もしていなかった。
俺の誕生日から一週間ほどが経ったある日のこと、俺はいつも通り両親と一緒に畑へと出ていた。いつもと変わらない畑仕事をしていると、村の方から声が聞こえてくる。いつもこの時間は皆畑に行ったり、山に行ったりしていて人など殆どいないはず。
だが、確かに声が聞こえてくる。そのことには俺だけでなく両親も気づいていた。
俺は両親に、「ちょっと見てくるよ」とそれだけ言って村へと戻っていく。すると、仕事に出向いているはずの村人達は皆、村の中央に集まっていた。
俺は、村人達が何を見ているのかと思い、皆が集まっている場所へと向かう。するとそこには、一つの馬車が停まっていた。馬車自体は珍しくはない。だが、今回この村へと来た馬車は、普段、村へと来ているような物ではなく、貴族が乗っているような高級な馬車であった。何故貴族様がこんな辺境の村に来たのか? 俺には全く見当がつかなかった。
村人達もかなりざわついていた。それは馬車に乗っている者がまだ降りてきておらず、どんな人物は乗っているのかと話していたからだ。
俺が、村の中央へとやって来てから十分程が経過したとき、馬車のトビラが開いた。中より出てきたのは髭を生やしたおじさんと言うのが、俺が国王様に抱いた最初の感想であった。今から思えばかなり失礼なことを思ってしまったと思う。だが、この時の俺は、馬車から降りてきた人物が、俺達の住んでいる国の国王様であることをまだ知らなかった。だから仕方がないと思っておこうと自分に言い聞かせておく。
王様に続き、黒い服を着た白髪に髭を生やした男が降りてくる。
王様は辺りを一度見渡した後、自分がこの国の王であると村人達に言うと、「この村に聖域のスキルを持つ者がいると噂を聞いたのだが知る者はおらんか?」と尋ねた。
王様の言葉に対して村人達は、一瞬ざわつきはしたものの、すぐに俺の名前が出てきた。
近くにいた俺は、「聖域のスキルを持っているのは俺です」と自ら名乗り出た。そこで名を問われたので自分の名を名乗る。すると国王様に両親に会いたいと言われたため俺は、急ぎ両親を呼びに行った。
俺は両親を連れて村へと戻る。すると王様は俺たちの家で話がしたいと言った。両親は少し困惑していたが、王様をこのままにしておくことは出来ないと思ったのか家へと案内する。そこで話されたのは、王様が新しく作る勇者パーティーの一員に俺が選ばれたこと、そして今すぐにでも王都へと一緒に来て欲しいということであった。王様の言葉を聞いた俺は、何の力もない俺が、この国の力になれるのではないかと思い、その話を受けたいと思った。だが、両親がどう考えているのかと思い二人の顔を見る。すると、お互いに顔を見合わせた後、「よろしくお願いいたします」と王様に答えた。
それからすぐの俺は、王都へと向けて出発する。
馬車に揺られること三日、クリセリア王国の王都サキエリアへと到着。目に映る物全てが、初めて見る物ばかりで俺は、人生で一番のテンションになっていた。
馬車から見える王都に夢中になっていた俺であったが、今回王都へと連れてこられたのは、勇者パーティーに入るためであり、王都見学に来たわけではない。そのためすぐに王城へと連れていかれる。城に入った俺は、執事さんに案内されて謁見の間へと通された。
王様の話によると、他に五人の仲間がいると王都へと向かう道中、馬車の中で王様から聞いた。俺は他の五人の中に勇者に選ばれた者がいる。どんな人物なのかワクワクしていたことを今でも鮮明に覚えている。
待つこと一時間で他のメンバーも集まった。男は俺とこの時はまだ名前を知らないゼルドリスの二人のみ。ほかは皆女性であった。勇者パーティーに選ばれる者達だから女性は一人か二人のみだと思っていたが、まさかここまで多いとは思わなかった。
集められた俺たちの前に、王様が現れる。そこで王様は、俺とゼルドリスの方を指さしながら、「君が勇者だ!」と宣言した。俺もそうだし、他のメンバーもゼルドリスが勇者なのだと確信していたため、特に何も言わず納得した。それから俺達は、王様から軍資金を貰い、冒険者登録を済ました。それと全員初顔合わせだということもあり、その場で自己紹介をしお互いのことを知ったのだ。
それから数年間は六人でパーティーを組み、様々な冒険者の依頼をこなしていった。初めの頃はまだ冒険者の仕事にも慣れてなく苦労もあった。状態異常を受けることもあり、俺も皆から頼りにされていた。だが、少しずつ他の皆が力をつけていくにつれて頼られなくなっていった。
そして、昨日ダンジョンでパーティーの追放を告げられることになってしまったのだった。
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