海を走る列車

嬌乃湾子

Requiem




電車から降り、駅から数十分歩くと。青い空、広がる海が見えた。


十歳のタオはお休みの日、両親と一緒に海にやって来た。


お母さんは日に焼けるからとずっと浜辺の隅の木陰で座っている。タオはお父さんと浜辺で遊んでいた。


お父さんはじっと海の向こうを眺めると、タオも海の向こうを見た。


波が押し寄せるたびキラキラと光る波を見ながらお父さんは言った。


「タオ、実はな、海を走る列車があるんだよ」


「どこ?」


タオは海の向こうをじっと見たけど何もなかった。


「いないよ。パパ、どうやったら見えるの?」


「それはお父さんには解らない。でもね、何か方法があるんだろう」



そうして家族は帰ったが、タオには何故かこの事が記憶に残っていた。





「タオ、早く準備して。ママ片付けてから仕事行くから」


お母さんは朝から忙しく準備をしている。急かすような声にタオは眠い目を擦りながら階段から降りて来た。朝食を食べた後着替えると、玄関で靴を履いた。


「お弁当持った?」


「ママ、昨日のお弁当昆布が入ってたよね。僕は海苔が良いって言ったのに」


「そうだった?」


「いつもそうだ。あと野菜ばっかりだし、冷凍食品詰めてるだけだからウィンナーとか卵焼きとかも入れてよ」


「わかったわよ。今度そうするから行ってらっしゃい」


お母さんはタオを見送り玄関を閉めた。

タオは反抗気味なのかお母さんの言う事に時々イライラしていた。


次の日の朝、玄関でお弁当を持たせたお母さんにタオは言った。


「ママ、もうお弁当いらない」


「え?何言ってるの」


「ママのお弁当もう飽きた。これで最後にして明日からコンビニでお昼買うからお金ちょうだい」


タオはそう言ってぶっきらぼうに言うとドアを閉めて家を出た。


その日の学校の給食の時間、タオは弁当箱を開けた。


お弁当の中身は卵焼きにウィンナー、ハンバーグが入っていて、おにぎりの具は海苔の佃煮だった。タオはそれを美味しそうに食べた。


帰ったらママにありがとうと言おう、そう思っていた。






その後ママはこの世からいなくなって消えた。



タオは外を見渡し、いつもと違う世界を見て思った。誰かが魔法の世界の破壊の呪文を唱えたんだろうか?



お父さんは空を見ながら悲しそうに言った。


「お母さんは海を走る電車に乗って行ったんだ。たくさんの人が乗っていったんだな」


この日、何列もの海を走る列車はたくさんの人を乗せて海の上を走った。その中にママも乗っていたんだと。



タオは後悔しかなかった。どうしてあんな事を言ったんだろう。そう思うと涙が溢れてきて止まらなかった。

タオはお母さんがいないまま過ごした。





それから十年が経ち、二十歳になったタオは社会人になって彼女もできた。


タオは一人、電車に乗って海へと来た。


スマホからお母さんの好きだったピアノのレクイエムを聴きながら、海沿いの道を走った。


僕だけの魔法。

僕は走った。思いっきり走って走り抜いた。




するとその時、目の前を列車が通った。その中にはタオのお母さんが乗っていた。



タオは足を止め、列車が走るのを目で追う。



お母さんはあの中で生きている。タオはそう思い海の向こうへと消えていく列車をずっと見ていた。




終わり

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海を走る列車 嬌乃湾子 @mira_3300

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