第62話「案件コラボ②」
まずは最初のステージだ。
『原っぱが広がってるねー』
とボア先輩、
『広いですね』
とヘーファル先輩、
「こんな場所なら風が気持ちよさそうね』
とラミア先輩が感想をつぶやく。
個人的にはラミア先輩の意見が一番共感できるけど、俺は周囲を見回す。
「敵はいないな」
と漏らした。
【コメント】
:敵w
:みんな草原の感想を言ってんのに、ひとりだけ違う方向
:これは戦闘民族ですわ
:鳥だからね、自然に対する情緒はまだ育ってないんだよ…
:↑は草
:保護者目線で草
『まあバードくんが警戒してくれるから、あたしたちは安心できるってものだけどねー! ありがとう、バードくん!』
ボア先輩が明るく言ってくれて、コメントの空気が変わる。
【コメント】
:なるほど、役割分担か
:たしかに鳥は戦闘担当
:警戒担当なのはわかる
:鳥はちゃんと仕事しててえらい
『そ、そうですね。バードさんがいてくれると安心です』
『ボアひとりじゃわたしたちの面倒を見るのはキツイでしょうね』
ヘーファル先輩とラミア先輩がそれぞれフォローしてくれた。
「いえ、単なる感性の違いだと思いますが……」
俺は正直に訂正する。
ボア先輩が作ってくれた流れに乗っかったほうが賢いとは思うんだけど、誠実さがちょっと足りない気がしたんだ。
【コメント】
:あーあw
:せっかくのボアちゃんの機転が
:先輩たちのフォローが
:でもまあ鳥さんっぽいよ
:よくも悪くも自分をよく見せようと見栄をはらないよね
:この場合はどっちなんだろうね???
:先輩の厚意を無にしたのは悪いけど、バードウォッチャー的には解釈一致だから難しいところ
『えー? バードくんらしくていいんじゃない? ウソがつけないってところが、お姉さん的にはポイントだよ!』
ボア先輩が明るく笑い飛ばす。
『た、たしかに、誠実で裏表ない人はいいですね』
とヘーファル先輩が同調する。
あれ? 割と本当に先輩たちにウケているのか?
首をかしげると、
『バードくんらしいですものね』
とラビが声を立てて笑う。
『仕方ないわよね』
とモルモも言った。
このふたりについては評価してもらったと言うよりは、受け入れてもらっているという印象が強い。
お泊まりで勉強会もしたしな……他人には言えないけど。
『あらあら』
ラミア先輩は笑うだけでコメントはひかえた。
正直、全員にポジティブな意見を言われるよりは、ひとりくらい中立的な反応をしてもらったほうが、気分的には落ち着く。
【コメント】
:なごやかな空気だな
:いきなり障害や敵が出てくるステージじゃないのか
:ゆるいゲームなのかな?
コメントでもゲームについての予想がはじまっている。
「その疑問に答えられる人がいないのが現状だよな」
すくなくとも俺はこそ練してないので、さっぱりわかんない。
他の人がやったかどうかも教えてもらってないし。
『え、へへへ』
ヘーファル先輩が謎のタイミングで愛想笑いをする。
んん? と疑問に思っていると、
【コメント】
:あっ……
:ヘーファルちゃんはウソをつけないからな……
:ごまかし笑いですませたあたり、成長を感じる
ヘーファル先輩のことを知ってるらしい人たちからコメントが来た。
『ヘーファル、自分からばらしちゃったわね。練習したのはわたしとヘーファルのふたりよ』
とラミア先輩が微笑む。
『おー、じゃあこのあとどうすればいいか、教えてくれない? あたしやリスナーのみんなのためにね!』
とボア先輩が言った。
『え、えーと、人数がいるときはまとまって先に行くことで、敵が出てくるみたいです』
ヘーファル先輩が説明する。
『ええ。まずはまっすぐに進んでみるといいんじゃないかしら』
とラミア先輩が言った。
『じゃあ最初にボアが行くねー』
とボア先輩が進み出す。
「俺は最後になったほうがいいかもしれないですね」
協力プレイも必要になるとは聞いているので、困ってる人のフォローに回ったほうがいいと判断する。
『ボア先輩が先頭でバードくんが最後なら、わたしはバードくんの近くにいたほうがいいですね』
『あたしもバードのそばにいて、いざとなったらヘルプしてもらおうかな』
ラビとモルモのふたりは俺の近くに寄ってきた。
『ならわたしたちはボアのほうがいいかしら』
とラミア先輩は言い、ヘーファル先輩も続く。
何だか1期生と2期生で別れてしまったな。
【コメント】
:あらら、別れちゃったか
:仕方ないと言えば仕方ない。1期生と2期生の本格的な絡み、今日が初めてだろ?
:鳥が前にコラボしたくらいだな
:ボアちゃんと鳥とふたり上手いプレイヤーがいるしな
:同期のほうが頼りやすいっていうのは心理的に理解できるし…
『そうだねー。もうちょっと打ち解けないと難しいよね。きっかけを作るためのゲームコラボなんだけどさ!』
ボア先輩がカラカラと笑う。
微妙な空気になってないのはこの人の存在が大きそうだ。
天性のムードメーカーってやつか。
『このステージが終わったら、組み合わせをシャッフルしてみるのもいいかもしれないわね』
とラピア先輩が発言する。
『いいね。お、敵が出てきた。これジャンプして避けるんだっけ』
とボア先輩が反応しながら転がる岩を避けた。
障害物のように見えるが、二つの目がついてる。
『ええ。敵に当たったらミスになって行動不能になってしまうのよ』
とラミア先輩が教えてくれた。
『でも味方がステージをクリアしてくれたら、残機を減らさずに復活できるんです』
とヘーファル先輩も話す。
『上手な味方がいるかどうかが大事になりそうですね』
とラビが応じた。
『そうなんです。だからボアちゃんとバートくんががいてくれてうれしいです』
ヘーファル先輩はおっとりと微笑む。
【コメント】
:へー、そういうシステムなんか
:誰かがクリアすれば残機減らないのは優しいな
:初心者救済用なのかな?
:上級者はどや顔しつつ、初心者は残機減らさずに練習できるよい制度
:自分の実力に合ってない上級ステージに連れていかれるって側面もあるのでは…
:↑他人とプレイするとどうしても起こりうることだよ
:実力が一致してるプレイヤーとだけしか遊ばないなら別だけどさ
そう、複数でプレイするゲームの宿命みたいなもの。
今回のゲームシステムだってぶっちゃけ人によって評価は分かれると思う。
ひとまず置いておいて、ゲームに集中しよう。
ジャンプして障害物を超えようとする瞬間のモルモのキャラクターに触れると、彼女のキャラはより高くジャンプした。
『わ、何か、すごいことになった』
とモルモも驚いている。
「なるほど、こうやって味方のアシストもできるわけか」
俺は理解したことをつぶやく。
『ああ、バードの仕業なのね』
とモルモが言う。
「仕業って何か犯人っぽいな」
『犯人!? なにそれ! ウケる!!』
俺の答えを聞いたボア先輩が爆笑する。
『は、犯人んん……』
ツボに入ったのか、珍しくヘーファル先輩の笑い声が聞こえた。
【コメント】
:助けたのにえらい言われよう
:↑犯人って言ったのは助けた鳥本人だけどな
:大草原
:こんなやりとり草しかない
:2期生てぇてぇだな
:遠慮ない友達って感じがよき
コメントが意図しないかたちで盛り上がっていく。
『バードくん、恐ろしい子』
なんてラミア先輩が言っている。
何でウケたのか俺、よくわかってないんですけどね。
『おっと、ヘーファル危ないわよ』
笑ってるせいで敵に接触しそうになったヘーファル先輩を、ボア先輩が助けてピンチを脱出する。
こんな風にしてステージは進行していく。
ボア先輩が先にいて参考にできるおかげで、俺はかなり楽にプレイできた。
もちろん第一ステージだから難易度が低いっていうのもあるんだろう。
ひょいひょいと障害物と敵を超えて無事にクリアできた。
『みんながいるとすごい助かりますね』
とヘーファル先輩が感想をもらす。
『ボアとバードくんのふたりがいても無理なら、クリアはできないってあきらめがつくわね』
とラミア先輩が言った。
「ちょっと大げさなような」
いくら何でもそんなことないと俺は思う。
ラミア先輩もヘーファル先輩も、同期たちもけっして下手というわけじゃない。
俺たちが助けるシーンなんてほとんどなかったことが証明している。
『またバードくんったら……そこが長所でもあるんですけど』
とラビにたしなめられた。
【コメント】
:お、ラビちゃんツッコミか?
:何気に珍しいかもしれない
:ツッコミはモルモちゃん担当のイメージだしな
:ツッコミラビちゃんもよい
:鳥が言われるのは変わんないな
:そこはしょうがない。鳥だから
:鳥だもんね
コメントでわいわい言われていることをあえてスルーして、
「基本的には移動とジャンプでステージをクリアを目指すアクションゲームだと言えるだろうな」
プレイしてみた実感を一言で要約する。
【コメント】
:あっ……
:あっ
:ボアちゃん要約を避けていたのに……
:やっちまったか
:鳥はこういうところポン
:意外とポンな鳥
「あっ、しまった……」
案件的にはまずいミスだったかな?
一瞬他の配信者たちも沈黙してしまう。
冷や汗をかいていると、
【コメント】
:ゲーム初心者にもわかりやすい説明ありがとうございます。<ミンタカ公式>
:気軽にプレイしていただくためには、やはり必要かなと。<ミンタカ公式>
:他のみなさまもご配慮いただきましてありがとうございます<ミンタカ公式>
:公式の人いたのか
:まあ告知してたしな…
:公式が喜んでるからセーフ!
:公式がオッケーなので許された
「公式の人いたんだ。来てくださってありがとうございます。それからフォローもありがとうございます」
とりあえずお礼を言っておかなきゃいけない。
ボア先輩すら思わず黙ってたからな。
今後はもっと気をつけよう。
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