第60話「一期生との顔合わせ」
ラチカさんとのマイスターコラボが終わったあと、マネージャーの猫島さんからメッセージが届いていた。
マネージャー[お疲れさまです。実は事務所に一期生、二期生のみなさんに案件が届いたので、説明をしたいと思っています。その件で一度事務所にお越しいただけませんか?]
企業の案件?
大手の箱勢がたまにやってるやつかな?
直接見たことがあるのはラチカさんとボア先輩のやつだけなんだが。
……俺はたぶんおまけなんだろうなぁ。
[わかりました。日時はいつなんでしょう? 平日は学校が終わってからになると思うのですが]
マネージャー[先方が土曜日でもかまわないとのことですので、土曜日の午前10時頃、事務所に来ていただけますか?]
[了解です]
返事を終えたあと、同期ふたりに連絡をとってみる。
[マネージャーから連絡来た?]
ラビ[来ました。案件のお話ですよね]
モルモ[何だろうね。先輩たちと合同なのかな? それとも別々?]
モルモの指摘にあっと思った。
[言われてみればどっちかわからないな。わざわざ一期生も呼ぶってことは、合同だろうって思っていたけど]
ラビ[企業は同じだけど、出したい案件が違う可能性はあるかもしれませんね]
考えてもわかんないことは理解できた。
モルモ「案件が来るようになったのはたぶんバードのおかげね]
ラビ[バードくん、出世頭ですからね]
ふたりに言われてそれは何か違うと思ってしまう。
[みんなに来る案件は全員で勝ち取った成果じゃないかな。俺のおかげなんてことはないはずだよ]
モルモ[バードならそう言うわよね]
ラビ[バードくんらして素敵ですね]
あれ? 何かふたりに微笑ましいものを見ているような反応をされている?
コメントでもときどき「これだから鳥は」と言われるのを、実はちょっと気になっているんだよな。
マネージャーからは何も言われてないので、意識しないようにしていたんだけど。
モルモ[土曜日、事務所で会いましょう]
ラビ[当日楽しみですね]
[俺もだよ]
なんて言って配信しているうちに土曜日がやってきた。
メッセージでは楽しみだと言ったものの、実際は緊張する気持ちのほうがいい。
ボア先輩以外の一期生とは初対面なのだ。
他のふたりも女性だから、女性が四人、マネージャーも入れて六人になる。
男が俺だけというのはちょっと居心地がよくない。
他のスタッフや企業の人は男性もいるだろうと考えることにした。
……が、俺の予想は甘かったとほどなくして判明する。
「は、初めまして、ヘーファル・グリーングラスです」
童顔でおっとりとした小柄な黒髪の女性がまず名乗った。
ニットセーターに包まれた果実はボア先輩やラビよりもさらに大きい。
年齢はたしかボア先輩よりちょっと上だと聞いたけど、モルモと同じか年下に見えるくらいだ。
ロングスカートとあわさって清楚なファッションだけど、かえって破壊力を高くしているように思う。
「次にわたしがラミア・ゴールドスケイルよ。よろしくね」
と名乗ったのは長身でモデルみたいなお姉さんだった。
服装はちょっと綺麗な普段着みたいな印象だけど、この人が来てると普通に女性向けファッション誌に載ってそうになる。
「わたしたちの自己紹介はいらないわね」
とボア先輩がモルモ、ラビと一緒に笑う。
最後に俺が
「初めまして。バード・スカイウォークです」
と名乗って先輩たちに頭を下げる。
「先日はゲームでお世話になったわね」
とラミア先輩が微笑む。
「バードさん、とてもお上手でした」
ヘーファル先輩にまで言われて恥ずかしくなってくる。
「バードくん、照れちゃって可愛いわね」
とボア先輩にからかわれてしまう。
「たしかに初々しさが新鮮だわ」
なんて言ってラミア先輩が同調する。
モルモはニヤニヤ、ラビはニコニコしているだけで助けてくれそうにない。
「五分前ですが、みなさん揃いましたね」
と言って月音さんと猫島さんが姿を見せる。
マネージャーのふたりも元芸能人って言われたら信じるレベルだし、女性陣のルックスが強すぎるなと思わざるを得なかった。
「実はすでに企業の方はお見えになってるので、会議室まで来てください」
と猫島さんに言われる。
「あれ、じゃあ俺が最後だったってことですか」
やばいと反射的に思ったが、
「大丈夫ですよ。時間よりすこし早いくらいですから」
猫島さんにフォローしてもらって安心する。
「真面目か」
とボア先輩が笑う。
「この場合は大事ですよ。時間にルーズな方は不安になります」
と月音さんが大真面目に言った。
「みなさんしっかりなさっていますので、面接担当者を正直見直しましたよ」
なんて猫島さんも話す。
そう言えば面接担当は猫島さんたちじゃなかったな。
会社組織がどうなってるのか全然わかんないけど、面接官だった人は普段他の仕事をしているんだろうか?
首をひねりながら会議室に入る。
中で待っていたのは二十代くらいと三十代くらいのスーツ姿の女性たちだった。
先輩と後輩、あるいは部下と上司だろうか?
「初めまして。わたくしたちは~~」
ふたりの女性たちは名刺を取り出しながら名乗る。
株式会社ミンタカの吾妻さんと南村さんか。
「ゲーム会社の方なのですね」
席に座りながらラミア先輩が第一声を放つ。
「はい。わたしたちの新規ソフトが最大八人まで遊べるゲームでして、ぜひみなさまに取り上げていただきたく存じます」
と後輩らしい南村さんがにこやかに説明する。
「どうしてわたしたちなのでしょう? ゲームなら正直ビスケスさんのほうが適任かと思いますが」
疑問を口にしたのはボア先輩だった。
たしかにと俺は思う。
ビスケスはペガサスよりも大手だし、何よりゲーム好きのインフルエンサー・ラチカさんが在籍している。
あの人のツブヤキで俺がバズったくらいだから、あの人に紹介してもらったら一気に知名度は出るはずだ。
「お答えしましょう。まず弊社も中小企業だと申し上げておきます。残念ながらまだまだ大手メーカーさんには及ばない現状です」
と吾妻さんが説明をはじめる。
正直初めて聞いたゲームメーカーだからな。
「失礼ながらペガサスさんも似た立ち位置だと存じます。企業としてこれから成長、発展を目指す者同士シンパシーを感じたからです」
「そうですね。大手と言えばビスケスさんか、七色プロですし……」
と月音さんが応じる。
彼女があげた二つの事務所はどちらもライバーを十数人抱えていて、知名度も売り上げも大きい。
ペガサスはまだ彼らの半分から三分の一程度に過ぎないのだ。
「ペガサスさんには注目が集まりつつあって、今から案件をお願いするのは損のない投資だと判断もあります」
吾妻さんが言ったとき、みんながいっせいに俺を見る。
えっ? 俺ですか?
声には出さなかったものの、思わず自分を指さしてしまった。
「バードくんがいるからね。プロゲーマーの世界からも注目されるかも」
とボア先輩が言うと、
「バードくんがプレイしたゲームなら、たぶんラチカさんも興味を持ちますよね」
とラビが指摘する。
「本音を申し上げるなら、その計算はありますね」
吾妻さんはにこやかに言い切った。
俺としてはむしろ納得の感情が大きい。
「ゲームメーカーとツテが生まれるのは、こちらにとってメリットしかないと社長も判断しております。よい縁に育てていきましょう」
と月音さんがしゃべる。
そうだよな、企業とつながりが生まれるのはメリットだよな。
「相利共生ってやつかしらね」
とラミア先輩が小声でつぶやく。
難しいことはわかんないけど、お互いにメリットがあるならそれでいいと思う。
「プレイしていただきたいゲームですが、【アスレチックジャングル】というタイトルです。資料をご覧ください」
と南村さんが言いながら資料を配る。
さっそく読んでみたら最大八人までが遊べるアクションゲームだという。
プレイヤーができる操作は移動とジャンプの二種類だけで、いろんな地形・トラップがあるステージをクリアしろってものらしい。
「協力プレイと妨害プレイがあるんですね」
とボア先輩が言うと、
「今回は協力プレイがいいと弊社では思っています」
月音さんが考えを口にする。
「まあバードくんが強すぎるってことになりかねないですからね」
とモルモが即答した。
「コンピューター相手ならともかく、人間相手でひとりが強いだけってのはよくないものねー」
ボア先輩が同意する。
「いくら何でもそれは……初めてプレイするゲームですよ?」
いきなり俺だけが上手いなんてことにはならないと思う。
「協力プレイでお願いします」
吾妻さんと南村さんのふたりに優しい笑顔で頼まれてしまったので、うなずくしかなかった。
げせぬ。
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