K&DRO

はじかみ

第1話 美人警官との邂逅

その2人は―――誰しもがその仲を羨む一組の“夫婦”でした。

ですが本当の 彼 と 彼女 は、互いが相容あいいれぬ間柄。


なぜなら女性の方は、彼の地―――「カルフォルニア州」にある、連邦警察地方分署の“署長”であり。


片や男性の方は、名うての“泥棒”―――


つまり……は、この2人の“出会い”は、当然の如くの―――


「待ぁちなさい―――『KAIN』! 今日こそは逮捕よッ!!」

「へへ~~美人の警官さんに追い回されるのなんて、泥棒冥利に尽きる……ってモンだぜw」


「この私の前でそう言っていられるのも、今の内よッ―――!!」



警察ケイ泥棒ドロ……追う者と追われる者―――

それは太古の昔から、変わらない関係。


今も、ロサンゼルスにある銀行に、『泥棒に入られた』……と、通報があった―――。


どうしてこうも、自分達を揶揄うからかうのか……それに、警察を虚仮こけにする態度にもいい加減頭にキテいたので、今度こそは―――と、躍起になっていたのです。


ですが……



「逃げられたぁ?」

「はいっ! ですが……一時は逮捕にまで至ったんですよ? けれど……」


「(……)疲れているようだな、『マリア』―――少し休んだらどうなんだ。」

「ですが、『バルディア』先輩!」


「口を慎め。  確かに私は、お前の先輩としてこれまでにも面倒を見てきたが、今では“州警察”の「本部長」の立場なのだぞ?」

「すみません……。」



どうやら彼の泥棒を、一度は逮捕にまで漕ぎ着けた―――までは良かったものの、護送中に宜しく逃げられてしまったようで……。

その事を、“元”自分の先輩であった、カルフォルニア州警察本部長の、『バルディア』に注意されていたのです。

それに……マリアの失態は、今回の一件だけではなかった。

まるで、どこかの国のアニメの様に、泥棒を逮捕―――までは至るものの、いつも寸での処で逃げられてしまう……。

そうした事を度々繰り返していたのです。


しかし、ここでマリアの弁護をすると、彼女は決してダメな警官ではなく、ポリス・アカデミーでも首席で卒業をし、行く行くは幹部候補として取り立てられても可笑しくはなかったのです。


なのに―――……


同期は次々と出世・昇進を果たしていくなか、なぜが彼女だけは平の「巡査」のままだった―――。


あれ程までに、将来を切望されていたのに……?

けれど、現在の彼女があるのも、実は無理らしからぬ処があったのです。


それと言うのも……新任として配属された署での―――「上官殴打」。

理由の如何いかんにしろ、上司を殴り飛ばしてしまった。

つまりは、そこでマリアの出世の道は、断たれてしまったのです。

{*けれども、現在のマリアが地方の分署とは言え、“女署長”としていられるのは、マリアの先輩バルディアの働きかけがあったからこそだと言える。}


それに実際マリアは、本当の「優秀な警察官」だったのです。

{*アカデミー在籍当時、研修で赴いた署での検挙率はトップ。  その当時マリアに付けられた二ツ名こそが『猟犬』だったという。}

{*また、その署にいたバルディアが、いち早くマリアの能力に目をつけていた……と言えば、少しは判るだろうか。}


その証拠として、やはり当時「神出鬼没」にして、逮捕不可能とさえ言われていた、かの泥棒……『KAIN』を、逮捕できていたのが、マリアだ―――と、したら……?


         * * * * * * * * * * *


「(ヘヘ~ン、警察なんざチョロイもんだぜ―――w)」



その泥棒の手口、“神出鬼没”にして、大胆―――

それに今の警察では、絶対に彼の事を逮捕できるわけがない―――

そうした裏付けに自信があったからこそ、いつも“盗み”に入る前に、警察に対して「予告状」を出す―――。


今も、お目当てである『大粒の宝石が付いた豪華な装飾品』を掻っ攫い、悠々と引き揚げ……



「―――そこまでです。」


「(!!)―――……。」



その泥棒……KAINが中々捕まらなかった理由―――

それこそは、念には念を入れた計画性……侵入や逃走のルートの確保に、セキュリティの沈黙までにかかる所要時間、「お宝エモノ」を頂くまでの所要時間、“万が一”を想定しての次善の策の模索―――

しかもその何れいずれもが“分”単位ではなく“秒”単位で刻まれ、寸分違わずに実行に移せる―――と、こういった具合に。

こと、用意周到さに掛けては、並ぶ者すらいない程―――だった……のに?


今、逃走のルートの一つを選択し、退散しようとしていた処に、待ち伏せに遭ってしまった―――??

しかも相手は、泥棒業界では、美人でもドジで鈍間のろまな女警官……―――



いや……違うな―――こいつは、オイラの逃走ルートをいち早く割り出し、ここで待っていた。

それに見て見りゃ―――なんだ?アレは……

まるで、獲物の咽喉笛のどぶえ一度ひとたび喰らいついたら離さない―――って言う、『猟犬』の眼だ……。

チ……こいつは下手こいたな―――まあここは、大人しく捕まってた方が良さそうだ。

それに……逃げる機会なんて、いくらでもあるし……な。



KAINが、長らく泥棒稼業で生き残れた秘訣……それこそは、生存本能の豊かさと言えました。

動物は、自分が自然界で生き抜いて行く為には、例え絶望的な状況に置かれても、藻掻くもがく……足掻くあがく……。

そして、自分の生命を断つ“牙”―――“爪”から逃れ得た後は、その死を迎えるまで“じっ”としている……。

そこで運良く傷が癒えれば“幸い”―――運悪く傷が癒えず、致命傷だった場合は“それまで”……

けれど人間は“考える”―――果たして今、無駄な抵抗をして銃で撃たれて死ぬか、今のこの場では従順な態度を示し、敢えて捕まり―――収監された先を脱け出すか……。


それに、KAINは知っているのです。

今の連邦警察に、“余裕”などない―――と……


米国のなかでも治安の悪さでは群を抜いている『ロサンゼルス』。

確かに、観光客や富豪達の家は多く建ってはいるものの、それは所詮ブルジョア達の倫理―――自分達“スラム下町”出身とは、遠く縁のない話し。


だから犯罪も少なくなく、いつも警察署の収監施設は“満杯状態”だったのです。

それに、この“活き”がいい女警官以外は、誰しもがヤル気のない者ばかり。

故にこそ、決まってKAINの選択肢とは、いつも“一つ”なのです。


けれど、この女警官が所属している署まで連行されるのに、退屈をしていたKAINが―――……



「どうしたんだい―――お嬢さん。  もっと喜びなよ、誰にも捕まえられなかったオイラを、あんた捕まえたんだ―――。  もっと胸を張るべきだ、それにもしかしたら、念願叶っての“昇進”―――……」


「うるさいっ―――! 泥棒のあんたなんかに……何が判るっての!!」



一体何が気に入らなかったのか、自分の軽口にひどく反応をした。


それも、大粒の泪を流しながら―――。



「おいおい―――どうしたってんだ? ナニが気に入らないって……」




本当は―――私は悔しかった……

アカデミー設立以来の、一番の成績を残し……その将来を切望されたと言うのに……。


なのに―――……


「私―――ほんの少し前、署の上司を殴り倒したの……」


「(!?)」


「でも……だってその上司、私の身体をさわってきたのよ? これって「セク・ハラ」でしょう? なのに……上司はお咎めなし―――代わりに、内部通報をした私は完全に“厄介者”扱い……出世の道は、断たれたのよ―――」

「そいつは気の毒なこって―――」


「あんたも、所詮は男なんだから、こんな身体をしているわたしを、そんな眼で見てるんでしょう?」



確かにマリアは、警官にしておくには勿体ないくらいの美人でありました。

その容貌はモデルでも十分通用し、胸もボリュームある大きさ、なのにウエストは引き締まり、ヒップも胸に劣らないくらいの大きさをしていた……

だからマリアの身体をさわってしまった上司の言い分も、判らなくはないのですが―――……

自身の地位の確保や更なる昇進―――と言う、身の保身のためにマリアを切り捨てにしたのです。


KAINにしてみれば、退屈しのぎに―――と、半ば揶揄いからかいで自分を逮捕したこの美人警官に話しかけてみたのでしたが、そこで思わぬ事実を知ってしまった……。



確かに―――この女警官はオイラを追い詰めた時、一瞬どこが割り切れない……寂しそうな眼をした。

その原因がだったとは……


しかも―――??



「(……)ここで下りて―――」

「(???)はあ? おいおいおい―――冗談キッツイぜえ?まだ署まで随分……」


「“逃げろ”―――って言っているのよ。」

「(!)なんで―――……」


「どうせ私が捕まえたって、手柄は上司のモノになる……。  今の警察ってね、そんな腐り切った所なのよ……。」

「(……)落ち着きなよ―――自棄ヤケ起こしたって、何もならない……」



しかし女警官は、人気ひとけのない場所に今件の容疑者を下ろすと、さっさと車を発車させたのでした。




つづく



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