第14話 充実のバスタイム
私たちのツアーがレストランに着いたのは夜8時過ぎ。まだ昼間のような青空だ。外が見える席で、いい気分。
海外のレストランではテーブルに予め置いてあるデキャンタから水を注ぐより、飲み物を注文するほうが安全で美味しいとか。氷は食べないほうが良い。つまり氷が解けないうちに飲めということになる。
何を頼んだか覚えていないが、赤ワインかアイスティーだと思う。
メインディッシュは牛肉の赤ワイン煮だ。名前に反して見た目は黒っぽいが、食べてみればほのかに赤ワインの香りと風味がして美味しかった?
デザートはクレームブリュレ。いつぞやのマカロンではないが、掌よりも一回り大きな器に入ってきたので驚いた。これで1人分。
あまりの大きさに、同じテーブルでは私しかそれがクレームブリュレだと分からなかったが、なんだかんだで完食した。
店を出るころになってもまだ外は明るいが、若干涼しくなった気がする。
バスの走る街並みは徐々に閑静になってゆく。
添乗員さんの話によると
「今日のホテルはパリの中心地から少し離れています。地下鉄を利用する際は、日本ほど治安が良くないので充分に気をつけて」
明日の集合時間に確実に間に合うよう、あまり遠出しないでほしい……と言外に伝えたいようだった。
この添乗員さんは「頼れるし適度に放っておいてくれる人」と同じツアーの人に評価されていて私も同感だ。とはいえ仕事上、お客さんには手に負えない事が起きない範囲にいてほしい……とも思っているんだな。
まあ、それもそうだ。
メルキュール・ポルト・ドルレアン。
幸か不幸か、今夜の私の部屋は部屋着を持って来なかったのが惜しまれるような眺めではなかった。景色については、ビル街の谷間の白い屋上を見下ろしてカーテンを閉めたような、朧気な記憶しかない。
けれど、とても快適だった。
久々に休息するためだけの夜を過ごした。
といっても他に何かしようとせず、お風呂、スキンケア、荷物の整理などを他の日より余裕を持って丁寧にしたというだけの話。たまにはこんな日があってほしいが、しょっちゅうでも困る。
ただ、その滞在時間のうちに退屈も不便も全く感じなかった。ホテルの設備と居心地がとても良かったからだろう。
シャワーは毎日しているが、何日ぶりかでゆったりとお風呂を楽しんだ。
他の日に泊まった大抵のホテル同様ユニットバスなので、バスタブの中に立って髪と身体を洗う。それを昨日や一昨日よりものんびりと、念入りにした。
バスタブの内側についた泡を流してからお湯を溜めるという、自宅なら要らない手間をかけた。
けれど悠々と脚を伸ばせるバスタブの心地良さに比べれば些細なことだ。
浮力を全身に感じながら「パリにいるんだなぁ、私」と思った。
途中で水が止まったり電源が切れたりしないシャワーやドライヤーが、とても有難く感じた。昨日はカラスの行水だった髪が今やカラスの濡羽色だ。
プレス機があったので、2本持ってきたズボンを両方ともプレスした。
最初に履いていた長ズボンと、モン・サン・ミッシェル用の膝下までのズボンだ。
抽斗に入っていたアメニティの石鹸と裁縫セットをもらった。
今回初めて書くが、じつは他のホテルでも個包装された石鹸があれば、記念と備蓄にもらっていた。メルキュール系列のホテルにはドイツでも泊まるため、帰りには同じ石鹸が2個になる。
(コロナ禍に入ってから1個使ってしまった。小さくなってもよく泡立つ、良い石鹸だった)
ツアーの他の人たちがパリの晩をどう過ごしたのかは分からない。
こんなふうに快適で静かな過ごし方もできる日が、旅程の中頃に設けられているのが丁度良かった。
(次回、いよいよドイツへ国境を越える……予定!)
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