透明な監獄

農村の暮らしは牧歌的に見えて理不尽な因習と村社会特有のしがらみに縛られて都会よりも息苦しい。だから俺は街で一旗揚げて幼馴染を牢獄から救い出した。

掴み取った札束を自由に換えて必死で幸福にしがみ付いた。そんな熱意も一昨日醒めた。潮の香が俺の頬を洗う。

南から流れてくる寒流はとても冷たくて湿気を含んでいない。

砂の鍋底に翡翠色の泉と瀟洒な佇まいがあった。まるで映画のロケセットのような街だ。

どんな土地でも住めば都と古人は言うが俺は連れてこられた晩に逃げ出した。

三日前の明け方。寝室の扉が乱暴に蹴破られた。迷彩服姿の集団が俺を縛り上げた。

罪状はよくわからない。そもそも俺は善良な高額納税者で当局に睨まれる筋合いはない。

銃口の隣で人権の取捨を迫られ、俺は迷わず国籍を捨てた。その結末がこれだ。

俺の他にも身に覚えのない理由で捕らわれた人々が仕方なく住んでいる。

贅を尽くした暮らしに漬かり、何一つ不自由はないし欲しいものは危険物以外は何でも手に入ると言われた。

それでも俺はあいつに会いたい一心で逃亡を企てた。たとえ無数の骸が徒労だと告げていてもだ。

街の周囲に有刺鉄線も高圧線も地雷もない。ただ透明な壁に阻まれる。

週に一度だけ無人の隊商が砂丘を降りてくる。俺は外界への通行手形を得るために人脈を築いた。今は何もない。けれどもあいつは見たことがある。それが俺の罪を物語っている。

暗黒に丸く縁どられた人物。ハンドルを握り激しく振動する。

倍率をあげて見る。

やはりあいつは俺を追ってきた。俺は思った。自分は何もありはしない。

だが、あいつは俺を見つけた。その理由は何か。

俺は見えてしまった。その理由が、その後あいつは何を思い出すか。

バックミラーに映る男を見た。いつものように不細工な面で笑っている。

俺だけだ。

    

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