銀行員の異世界転生~なんでも貸します、預かります、ようこそ最後の希望『ホープ』へ~

かぼす

よく来たな、なんでも貸してやるよ

 ここは王都から離れたとある町、町の近くにはダンジョンと呼ばれる洞窟が存在する。


 この世界には魔物と呼ばれる異形の生物が存在し一般市民の脅威となっている、そんな市民を守るべく発足した団体が2つあり。 それはギルドという形式をとって活動している。


 なんでも請け負う『冒険者』と、主にダンジョンに潜りその中の魔物を排除する『探索者』の2つがそれにあたる。


 ダンジョンの外で発生する魔物は通常の動植物が濃い魔素を浴びることで変異したものであり、元となった素材の特性を強化したような変化をしていることが多い、たいていの魔物は高濃度の魔素を浴びた影響で理性を失っており見るものに襲い掛かかる凶暴性を持っているが、倒すと全身そのまま素材として残るため金策の対象として人気がある、さらに元が食肉になる動物なら旨い肉になるので、あえて魔物化させる研究もされているのだとか。


 そしてダンジョンの中で発生する魔物だが、こちらは実は純粋には魔物ではないと長年の研究で分かったようだ。


 ダンジョンそのものが大きな魔核コアを飲み込んだ魔物なのだそうで、その中の魔物は言ってみれば魔核を守る抗体のようなものなのだという、ダンジョンの魔物は魔素を凝縮させて作った魔石を核として生成されるため、倒すと魔石を落としてその体はダンジョンに吸収されてしまう、この魔石が様々な動力に使うことが出来るためこちらも一定の需要を抱えているのが現状だ。


 そしてそんなダンジョン近郊の町で暮らしている俺はというと、冒険者でも探索者でもどちらでもなく、主にその2職をサポートするための職に就いている、完全中立を保つためギルドには所属していない、完全な個人経営だ。


 では、そんな俺の日常の一端を今日は見てもらおうか?


 ◇ 早朝 ◇


 俺の一日は朝早い、冒険者にしろ探索者にしろ朝早く出かけギルドで依頼を受注し我先にと日銭を稼ぎに行くのだ、そんな彼らをサポートする俺が寝坊するわけにはいかない、そうは思わないか?


 そうこうしていると――早速今日もいつもの連中が来たようだ。


「おいっす! 今日もいつもの頼むわ!」


 いつも真面目に探索活動をしている新米3人組パーティのリーダーであるファルだ。


「一応確認は必要なのはわかってるよな、では『契約の説明』を開始するぞ、まず剣士ファルは『身体強化+1』、次に黒術師ネオンは『消費魔力削減+1』、白術師ララは『詠唱短縮+1』だ、これらはそれぞれ担保として10VPとこれから向こう24時間ごとに入手した経験値、もしくはそれと同価値の物を換算し、それの1%を『契約の履行』時に加算して返却すること、24時間を経過して返却できず、その後24時間以内に返却した場合は『複利』で計算することになる、もちろんそれ以後24時間経過時も同じだが、ケガなど事情があって返却に来れない場合はだれか一人、もしくは代理の者に『契約の履行』の申し出をさせること、そいつが来たらそのタイミングで返済は完了とする」


「おう! いつも通りだな、それで問題ねぇ!」

「……うん、オッケー」

「是……」


 本人を目の前に説明し同意確認を取る、これは契約には必須なので毎度毎度面倒でも必要な手順だ。


「じゃ、担保の説明は同一契約時には不要だから省くぞ? 只今を以て『契約の承諾』を履行する――完了だ今日も頑張ってこい」


 そんな感じで俺は彼らに+1という最低効果ではあるがバフ恩恵を貸し与え見送る、そんな生活をこの世界に生まれてから送っているのだ。


 そう、俺はこの世界の人間ではない……いや、なかったと言うほうが正確だな。


 簡単に言うと俺はこの世界に転生した日本人だ、だがただの銀行マン、契約のための外回りを達成不可能なノルマを達成させるために日々走り回るだけの日々、そして久々に新規契約が取れそうな顧客の元に遅刻しないようにするため普段ではすることのない赤信号を無視した結果――気が付くとそこは真っ白な世界、目の前にはくたびれたひげ面の爺さん……あとはわかるだろ? 特にやり取りもなく押し付けられた転生の特典というか無理やり押し付けられた天職『銀行員』を持ってこの世界に降り立った。


 この世界は全員が何かしら天職を持っている、そしてその天職に見合った職に就くのが一般的なのだが、天職を判定する儀式である『開眼の儀』の時『銀行員』が天職であると神父や父母の知ることになったのだが……簡単に言うと捨てられた、なんせ銀行員なんて天職この世界には存在しなかったのだ、そのために忌子とか言われたこともあった。


 その後に何があったのかは語る機会があれば……ということで。


 ◇ そろそろ太陽が昇りきろうかというころ ◇


「おう! 店長! 俺を最強にしやがれ!」


 無理難題を言う輩がいるのは世界共通。


「どのような最強をお求めで?」


 時々こういった客が来るのだが、普通の店なら『どうぞ回れ右おかえりください』一択だろう、だがウチはちがうんだな。


「最強だぞ?! 当然世界一になれるような強大な力だ!」


 はっきり言おう、こういう客はカモなのだ、ある程度自信をつけて僻地では最強と言われ調子に乗った、こういう世間知らずは。


 その後ある程度見栄えの良い、それなりに効果のあるバフやらを貸し与えると自信満々の様子でガキは出て行った、実際今回貸し与えた能力でも十分トップランカークラスの動きはできるはずだ。


 そして、貸すその様子を見ていた常連客の一人はあきれたように俺に声をかけてきた。


「あちゃー! あいつ経験もないのに力だけ借りちゃったのかぁ、しかもかなりしょい込んだみたいだな、おいギンジ? あれ返済の時どうなるんだ?」

「……そうだな、わかっていると思うが俺の貸すものはランク1で24時間につき1%を利息として返済しないといけない、ランク2で3%、ランク3で5%だ……で、さっき貸し出したのはランク7だ、それも複数な」

「あちゃー!! あいつ間違いなく飛んだな、7っていうと手数料は利益の70%を返済か、そっちはまぁだれでも払えたのか?」


「いや、この依頼は元が領主だ、んでさっきのは領主の息子だ、つまり息子に箔をつけさせるための依頼、しっかり担保は・・・用意してくれたさ」

「つまりこのパターンは……あれだな?」


 俺と常連が顔を見合わせて笑う。


「そう……あれだ」


 このパターンの結末を予想した俺たちはいつものように若干黒い笑いを浮かべたのだった。


 ◇ その日の夕方 ◇


 そしてこの日も太陽が沈みかけ、西の空が朱に染まりきったころ。


「おいっす! 店長! 戻ったよ!」


 だいたいいつも通りの時間にファルは帰ってくる、堅実に依頼や魔石回収をこなし孤児院に仕送りするのがこいつの探索者としての活動目的なのだ。


「よし、ではいつも通り『契約の履行』をするぞ?」

「了解だ」

「よしきた」

「了……」


 これも同意があって初めて実行できる、例外としては委任された人経由でも大丈夫だ、ちなみに勝手に赤の他人が履行することは何故かできない、このルールがあってこそのこの商売なのだ。


 履行完了、そうすると俺に利息が入ってくる、そのため今日の彼らの稼ぎがだいたいわかるのだ。


「ほう……? 今日はいつもより稼ぎが良かったみたいだな」

「そうそう、今日もいつものポイントで狩りをしてたんだけどさ、なんか偉そうなやつが横入りしてきたと思ったら『魔寄せの香』なんて炊き始めてな」

「うん、あいつ馬鹿、確かに力はあるみたいだったんだけど動きがちぐはぐでめちゃくちゃ、討伐ランク4のゴブリンジェネラルに攻撃した時なんて力任せに剣を振り回してるだけで、ジェネラルのフックに吹っ飛ばされて気を失ってた」


 黒ちゃん饒舌だね……あいつかな?。


「はい、あれは駄目です、とりあえずジェネラルだけ私たちが討伐、あれは放置、野たれ死ねばいい」


 白ちゃんもうちょっと情報を……!!


「まぁ予想できると思うんだけどさ、いきなりジャンプ力とか走る速度が倍になったら思ったように動けないでしょ? 店長から注意してもらってたけど、今回目の前でヤラカシを見てはっきりわかった、店長ヤバイ……! そしてアドバイスマジで感謝です」

「でも私たちは店長の奴隷、死ぬまで店長に貢ぐ」

「何言ってんだ」

「はい、貢ぐとは言いませんが、お慕い申し上げます」

「お前も! おいファル!」

「ははははは、仕方ないっすよウチの2人店長のこと尊敬しまくってますからね」


 ……はぁ。


「うん、とにかく気を付けて帰れよー」


 ◇ 後日談 ◇


 その後どうなったのか簡単に説明しよう。


 ファル率いる堅実なDランクパーティとして日銭を稼いでいたのだが、身の丈に合った依頼受注、そして先人の助言に耳を向けて行動することが知られており、依頼人の評価が高かった、中堅として評価されるCランクに昇格するのもそう遠くないという風の噂だ。


 そしてあの横暴な冒険者はというと、当日帰らなかったらしい(うちにも来なかったしな)、そしてさすがに領主の息子だということで、ギルドに大金を積み捜索依頼が出されたのだがそれを受注したのもファルのパーティだった。


 その捜索対象だが、結果だけ先に言うと無事3日後に発見され生還した。


 ゴブリンジェネラルに吹っ飛ばされた先がたまたま木のうろだったようで、追撃の目を逃れ奇跡的に隠れて震えて助けを待っていたそうだ。


 伯爵からは多大な報酬がファルたちに送られ、俺はその冒険者に貸し与えた能力とその延滞料金を様々な手段で徴収した。


 やっぱりカモだな、延滞した結果返しきれないとき、俺は価値・・のあるものと等価交換で強制徴収できる。

 それは金だけじゃない、経験やその結果習得した技能までも根こそぎだ。


「もうあいつは探索者はできないだろうな……精神的にも、能力的にも」


 今日は閉店だ、久々に晩酌といこうかな。


「ファル! お前ら今日は俺のおごりだ、貸しじゃないから安心しろ!」

「おっしゃ! 店長の貸しはマジ恐ろしいからな!」

「うん! やっほーい!」

「歓喜……!」


 そんな4人を見送るその店の名は『ホープ』、追い詰められた人を善意? で手助けする、最後の希望だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銀行員の異世界転生~なんでも貸します、預かります、ようこそ最後の希望『ホープ』へ~ かぼす @Lawliet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ