風に舞いあがる僕の恋
溝口仁深
第1話 夏と陽気と君との距離
私の学校の近くには学生のたまり場になっている都会の中にある昭和のにおいが漂うちょっとした駄菓子屋のようなお店がある。
夏休み目前のその駄菓子屋は日曜日の午後ということもあってか、いつもと違い模擬試験を終えた帰宅部の私と同じクラスで部活帰りでバスケ部レギュラーの中岡の2人だけがお客のようだった。
中岡とは結構、テレビや漫画の趣味があうのだが、あまり話すとクラスで微妙な雰囲気になってしまいここのところ距離を置いていた。
そのため、まさかこんなところで2人きり…厳密にはお店のおばちゃんがいたはずだが、「ちょっと夕飯の買い出しに行くから2人とも店を頼むね」と言われて店番を押し付けられ非常に気まずい空気の中、ぼんやりと2人で外を眺める羽目になってしまった。
空は青く、太陽はジリジリと焼けるような日差しを注ぎ、傍にある木ではジージーと気のはやいアブラゼミが鳴いていた。遠くで野球部の練習する声が聞こえる。
会話がない…あまりの気まずさに私は自分から話しかけることにした。私の手のひらにはじわりと汗がにじんでいた。
「あ、ねぇ。中岡…。」私は前のようにできるだけ自然に話すことを心掛け話を切り出した。
「ん?」何とも気のない中岡の返事が返ってきた。嫌、どちらかというと中岡にとってはこれが一番自然な返事なのかもしれない。最近私が話しかけないのも怒っていないようだ。
「あ、あのさ、こないだ夜にさ、中岡の前言ってたロボットみたいなアニメやってたよ。面白かった!」ああ、私は何を言ってるんだ。アニメの名前ぐらい出ろ私!ポンコツめ!急にこんな話しようとしたのが間違いだったのかも、こんなんじゃ話通じないよ…。
「あーっ、それ俺も見た!あれ、主人公が最初は悩んでるけど、最後にはいい感じだよな。」中岡は思い出したようにふっと笑った。
中岡に話通じてるよ?!よかった!というか、さすが中岡!私があれこれいう前にちゃんと通じてるし、ラリーできちゃうんだよね。
「なぁ、お前のそのジュース何味?」中岡が突然話を変えて私の方を見た。
最近は部活で校庭を走ることが多くなったせいか、中岡は少し日焼けして、なんだか背が伸びたようで、私の方を見た中岡は私の知っている中岡とは違うように感じた。
「え、あれ、何だろ?ピーチ?」と私は中岡から目をそらすと自分のジュースを一口。何だか飲んだ気がしない…喉が乾くのを感じながら答えた。
「ふーん、俺のグレープ。一口やるからお前のピーチ飲まして。」そう言うと中岡は自分のジュースをぐいっと私の前に出し、反対の手は渡せと言わんばかりに私の方へ手のひらを向けた。
「あ、うん。」中岡の前と変わらないその態度に私は自分だけが何だか意識してる風なのも変な感じがして、ジュースを渡した。
渡されたジュースを躊躇することなく中岡は飲んだ。
「おっ、ピーチうまいな!」そういうと中岡はずずーっと音を立てながらもう一口ピーチジュースを飲んだ。
私だけ意識してたのが変だったのかも…そう思いながら中岡の横顔を見ると耳のあたりが赤くなっていた。
今日は陽気で暑くなるって朝に天気予報で言ってたけど、中岡の耳が今赤いのもそのせいなの?…。
私はそんな中岡をちらりと横目にみながら中岡にわたされたグレープジュースを一口飲んだ。
「甘いね。グレープジュース。」
風に舞いあがる僕の恋 溝口仁深 @vanilla_sky
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。風に舞いあがる僕の恋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます