太めの乙女
あーく
太めの乙女
私は大森マドナ。
自分で言うのもなんだけど、こう見えてモテモテのOL。
「よう!大森!今日も大盛食べてきたのか?」
「大森さん、おおきくてぬいぐるみみたーい!」
「大森さん!太る方法教えてください!」
――うん、モテモテ。
決していじられているわけではない。
原因は明確――私は太っているのだ。
今日も晩御飯を考えていたそのとき。
ドンッ
誰かとぶつかった。
「ごめんなさいごめんなさい!私ったら上の空で!」
「いえ、こちらこそすみません。怪我はないですか?」
ドキッ
なんだろう、このときめきは。
今まで雑に扱われていたのに、こんなに優しい人――いや、天使がいただなんて。
次の日からあの天使のことばかり考えていた。
仕事の合間にもあの天使の様子を見ていた。
――あれ?彼に話しかけてくる女の子みんな痩せてない?
私も痩せないと私の彼が取られる!
よし!私、ダイエットする。
まずは食事――たんぱく質と野菜を中心とした食事に変更。
糖分――特に砂糖は控えめにした。
「あれ?今日の大森、弁当が大盛じゃない!何かあったのか?」
「ちょっとダイエットをね。」
「へぇー、ま、無理だと思うけどな。」
「うるさい。」
1週間後、空腹で耐えられなくなっていた。
お菓子が食べたい――
ダメだ、もう我慢できない――
そして、私はついお菓子を食べてしまった。
罪悪感で胸が一杯だった。
そもそもなんのためにダイエットしてたんだっけ――
太っててもモテる人はたくさんいる――
アメリカに行けば普通――
言い訳ならいくらでも思いついた。
「あれ?大森が大盛に戻ってる。だから無理だって言ったのに。」
返す言葉が見つからなかった。
そのとき。
「あ、この間の人だ。大森さんって言うんですね。」
なんと、うちの部署にあの天使が顔を見せてきた。
しかも、私のことを覚えていてくれていた。
「こいつダイエット失敗したんだってよ。無理って言ったのになぁ。」
「大森さんならきっとできるよ。今日は休憩の日なんでしょ?」
「はい!その通りです!」
「運動もしてるの?」
運動――考えてもみなかった。
いや、動くのが嫌で考えないようにしていたのかも。
私は昔、陸上部だったことを思い出した。
昔できたのなら明日もできるはず。
明日からダイエットは続行だ!
今日は公園に来ている。
陸上部で教わったHIITというトレーニングをすることにした。
HIITとは、一定時間全力で運動した後、一定時間休憩するというトレーニングだ。
スタートと同時にスタートボタンを押し、地面を思いっきり蹴る。
重い体が風を切る。
まるで機関車のようだった。
30秒が経過した。
もう走れない。
陸上部だった頃はこんなもんじゃなかったはず。
ショックだった。
一方、言葉に言い表せない高揚感があった。
もう一度――
思い出した。
走るのってこんなに気持ちよかったんだ。
このランニングをしばらく続けると、効果は順調に表れてきた。
最初は30秒全力で走るのが限界だったが、だんだんと秒数を増やし、ついに4分走れるようになった。
この頃には昔の面影はなくなっていた。
運動すればお腹が減るというのは思い込みだったようだ。
全力で運動したので逆に食欲がなくなっていた。
走ることはカロリー制限にも一役買っていたのだ。
今でもランニングは習慣となっている。
「お!お前!大森か!?だいぶ痩せたなぁ。ま、俺は痩せると思ってたけどな。」
「嘘つけ。」
「あの・・・大森さん、私もダイエットの方法教えてほしいです。」
「私もお願いしてもいいですか?」
それどころか、前よりも積極的に話ができるようになった気がする。
苦難を乗り越えたことで自信がついてきたのだ。
そして――天使との面会。
「大森さん?頑張ったね!」
もう幸せだった。
彼に認められて天にも昇る気分だった。
彼は天に連れていく本物の天使だったことを確信した。
「どうしたの~?」
「あ、彼女は大森さん。ダイエットに成功したんだって。」
ん?
何この女。やけに慣れ慣れしいじゃない。
「あ、紹介するよ。恥ずかしながら僕の彼女です。」
「恥ずかしがることないのに~。」
私の中で何かが崩れ去った。
後はどんな会話をしたのか覚えていない。
家に帰ると我慢していたお菓子をやけ食いした。
「太ってよ!私の体!また太ってよ!」
しかし、健康になった彼女の体がリバウンドすることはなかった。
太めの乙女 あーく @arcsin1203
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