風に背中を押されて

新吉

第1話

「マリー!こっちこいよ!」


「呼ばれたから行ってくるね」


「うん、行ってらっしゃい」



 パタパタと可愛い走り方でマリーは私の前から、別の誰かの方へと向かう。後ろ姿を見ている私。追いかけたりはしない。


 私はまだ初期魔法すら覚えられていない、ポンコツである。学校のみんなはもう上級へ進んでしまった。それぞれ水や風、土に火そして光と闇、得意な分野がある。私は風の魔法が若干得意。授業はちゃんと聞いてる。私には想像力が欠けているらしい。


 苦手なのは火の魔法。初期魔法なんて覚えてから入学する生徒すらいる。…友だちのマリーは全部の魔法が得意。中でも水魔法は、先生ですら息を飲むほど綺麗で威力がある。この学校自慢の生徒だ。


 私とマリーは幼なじみで仲がいいとか悪いとか以前に、一緒にいる。今までに何度だって憧れたり嫉妬したりしたけど。遠い存在だと思う度近くにいる。マリーはそれこそ水のように形があやふやで、彼女の考えは水のように変化する。それがわからず何度も恋人達は諦めている。能力的にもっといい学校に入れるはずが、こんな片田舎にいる理由もそこだ。


 先生は私にあらぬ期待をしているようだが、私だってマリーに振り回される一人であり、彼女のことは誰も縛れないことを話さなければいけなかった。マリーの力に圧倒されてしまった治癒担当の先生は私に言った。



「あなたはマリーちゃんをどう思っているの?」


「と、友だちです」


「本当に?」


「どういう意味ですか」


「彼女に魔力を提供していたり」


「するわけねーだろ!」



 先生を殴った私は退学処分になるところだった。ポンコツ一人が助かったのはマリーのおかげでもなく、その先生が喋れるようになってから自分から辞任したからだ。


「マリーちゃんに気をつけてね」



 私は何も言わなかった。先生にはマリーが何か怖い怪物か何かに見えているんだろう。そんなことを言われるほどに私は魔力が少ないのか、それから苦手だけれどより魔法の練習に励むようになった。


 私は代わりに身体能力はいいほうだと思っている。筆記も同じく、悪くない。代わりにマリーは魔法以外は何一つ得意なものはなかった。彼女は極端に好かれたり怖れられたりする。友だちは他にもいる。教えられている姿を見る。


 私は得意なものを伸ばしながら、初期魔法の炎を出す練習を毎日している。学校の中庭、いじめられているわけでもないけど。やっぱり恥ずかしいから、端の方で。


「呪文に気をとられないで。イメージを膨らませるんだよ」



 マリーが来たのに気づかなかった。


「え?教えてくれるの」


「窓から見えたから」


「ありがとう。イメージが苦手なんだ」


「そうだ、マリーに魔法使ってみてよ」


「はあ?」


「マリーの水を蒸発させるイメージで」



 マリーのしゃべり方は幼いこどものよう。全身を水の膜でおおい、私に向かって微笑む。


「さあどうぞ」



 ためらうが、さあさあと私を急かすマリー。



「ファイヤ!」



 少しでた火は杖の先からマリーの水に触れ、すぐジュッとなった。



「そうそうそんな感じ!ジューと大きな音出るような大きな炎を想像して」



 水の中ごぽごぽと空気の泡が出るけどはっきりと聞こえる声に従う。苦しくないのだろうか。



「ファイヤッ!」


 杖の先から赤い炎が吹き出し、ジューっと水を水蒸気に変えていく。中から出てきたマリーはまるで風呂上がりのようだった。こんな勢いのある火は初めて出た。



「ちゃんと中まで熱が来たよ!火は習得したね!」


「マリーちゃんすごいな、教え方上手!」


「先生よりいいんじゃない」


「こらこらマリー、お前はむやみに魔法使うなって前言っただろう」


 いつの間にかギャラリーや先生が集まってたようだ。集中していて気づかなかった。そんなことも初めてだった。



「むやみにじゃないよ?友だちに教えるためだよ」


「わかったわかった。フロウ、お前もよかったな。先生としちゃ複雑だが、あとは中級に進もう」


「先生、これからもご指導よろしくお願いします」


「フロウは実技は筋がいいから、そこに魔法が少しでも加わればいい戦士になれるからなあ」


「はい!」


「きみってば相変わらず真面目だねぇ」


「マリーは自由だな、水っていうより風みたいだ」


 ふわふわとひらひらと誰かのところに気まぐれに吹いてはまた、いなくなる。


「ありがと」


「こちらこそ、ありがとう」



 それから他の生徒もお互いに教えあうようになった。マリーだけでなく得意なものを苦手な人に。私も剣や基礎体力向上のため走ることを教えた。マリーも教えてほしいと気まぐれにやってきた。


「前に前に足を出すんだ」


「ええ?」


「こう風に押された時みたいに」


「じゃあフロウ、風魔法使ってよ」


「それじゃ走ってることにならないだろう」


「フロウくらいの微風ならちょうどいいでしょ」


 カッチーン

 そんな音が頭に響く。

「よし、行くぞ!フライフロー!!」


「うわっすごい早い!軽い!マリー走れてる!あれ飛んでる?まいっか、フロウもおいでよ!!ジャンプフライ!」


「うわああっ!!」




「先生マリーちゃんとフロウちゃん空飛んでます」


「たくあの問題児たちは!!こら!学園内は飛行禁止!!ちゃんと飛行場レンタルしてから!」



 窓から身を乗り出して先生が怒っているけど、面白いくらいにどうでもよかった。空はなんて自由。なんてきもちいんだろう。

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風に背中を押されて 新吉 @bottiti

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