最終話 これからも

 今、俺たちはエリの家に来ている。

 そして両親に挨拶を、なんて大げさなものではないがエリのお母さんと三人でご飯を食べているのだ。


「さあ、明日から東京でしょ?いっぱい食べてね」

「すみません……いただきます」


 エリが東京に行く話をしたら、最初は戸惑っていたようだったがすぐに受け入れてくれたようで、一度ご飯を食べに来なさいと言われてお邪魔する運びになった。


 そういうことなので結果は言わずもがな、だが俺の小説はなんと書籍化が決定した。


 こうもあっさり振り返ってはいるが、話を聞かされた直後は失神しそうになってエリが隣でずっと俺の背中をさすってくれていたのを思い出す。 

 その翌日、学校で俺たちの転校が決まった時に、クラスメイトが祝福してくれた光景も懐かしい。


 主にエリに対しての惜別の涙と、俺に対してのひがみのヤジが飛び交ったあの教室で、それでも誰かが「佐藤さん幸せにしろよばかやろう」と言った言葉が忘れられない。


 夢ではない、現実。しかしここから更に苦しい日々が待っているのもまた承知である。

 あれからというものの打ち合わせや絵師の人との顔合わせ、また東京の学校に行くための編入試験の勉強までと様々で睡眠なんてろくにとれていない。

 それでも、常にエリが一緒にいてくれるおかげで俺はなんとかここまでこれた。


「ワクミン、お肉食べる?」

「うん、もらうよ」

「いっぱい食べていっぱい力つけないとね。明日からワクミン先生のデビューなんだから」


 ちなみに俺のペンネームはすぐに決まった。

 そう、ワクミンである。


 最初は甘井さんにも笑われたが、意外と可愛いという理由であっさり採用された。

 そう、俺は公私ともに晴れてワクミンになったのである。


「でもさー、ワクミンって呼ぶのが私だけじゃなくなるのは寂しいなぁ」

「いや、まだ認知されるかわかんないわけだし」

「でもー、ファンとかできたら「キャー、ワクミンせんせー」って言われるんでしょ?ちょっと嫉妬しちゃうかも」

「まぁそれくらいになれるように頑張ってエリを困らせるくらいがちょうどいいのかな」

「あー、いじわるー」


 俺の隣で鍋の具材をとってくれるエリはいつも通り。 

 しかし生まれ育った家を離れることは寂しくないのかと不思議に思ったが、おばさんの話を聞いていると何となく彼女の気持ちがわかった。


「この子ね、昔から好きな人とずっと一緒にいるのが夢だなんてお姫様なことばかり言ってたから。私たちとしても変な男にひっかからないか心配だったのよ。でも安心したわ、和久井君、エリのことよろしくね」


 言われながら隣でエリが「お母さんやめてよ恥ずかしい」なんてツッコミを入れながらもその顔はどこか嬉しそうだった。


 団らんは続き、やがて夜になるとエリが部屋に来ないかと言ってきた。

 そして二人で、いっぱい一緒に過ごしたエリの部屋で少し話すことにした。


「なんか、緊張するね」

「東京に行くのが?それとも二人きりなのが?」

「え、いや両方、かな」

「あはは、ワクミン私の太ももだけだと最近興奮しないんでしょー、知ってるー」

「そ、そんなことない、よ。エリの足、綺麗だし」

「じゃあ、触りたい?」

「うん」


 俺はいつも通りというべきか、エリの太ももを触る。

 思えば出会ったころは、この太ももを見ているだけで頭の血管が切れそうなくらい興奮していたのだが、今は触ると心が落ち着く。


「エリ、これからまた大変だと思うけど頑張ろう」

「うん、ワクミン先生の東京デビュー楽しみだね」

「でも、高校生なのに同棲っていいのかな?なんか悪いことしてる気が」

「えー、婚約したじゃんこの前。それともワクミンは夢の一人暮らしを希望だった?」

「そ、そうじゃないよ」

「じゃあいいじゃん。ていうかワクミンがそうしたいって言っても私が許さないけどね」


 いひひと笑うエリがまぶしい。

 俺は太ももに当てていた手をそっと外してから彼女の手を握る。


「エリ、大好きだよ」

「あはは、どうしたのワクミンエッチしたくなっちゃった?」

「そ、そんなんじゃ……ないこともない、けど」

「うん、大好きだよワクミン」


 静かな部屋でエリとキスをした。

 その時間はずっと続いた。


 そしてこれからもずっと続くのだと確信しながら、エリと何度も肌を重ねた。



 翌日、東京に向かう新幹線に乗る前にエリはお土産売り場ではしゃいでいた。


「ワクミン、東京じゃないのに東京バナナあるよ!」

「いや、東京の人にそれ買っていってもダメだよ」

「じゃあ新幹線で一緒に食べよ」

「うん」


 見送りには誰も来れない。

 うちの親もエリの親も仕事で都合がつかなかったが、うちの親はサバサバしている人で、昨日の夜に「チケット買った?」としか聞かなかった。


 しかし心配はしてくれているようで、一応メールは来た。

 一言だけ「帰ってくる時も二人でね」と書かれたその文章は、俺がこれからずっとエリと一緒にいることを祈ってくれているのだとわかり嬉しかった。


 そして人生で初めて新幹線に乗った。

 自由席の空いている場所を探して二人で腰かけると、エリが隣で嬉しそうにしている。


「駅弁、何頼もうか」

「そうだね、エリのチョイスで」

「えー、ワクミン男らしく決めてよー。私優柔不断なのにー」

「俺もだよ。むしろエリの方が何でも決めてくれるから助かってるのに」

「じゃあ、私を東京に誘う時は緊張した?」

「……したよ、死ぬかと思った」

「ふーん、じゃあ勇気だしたんだね、えらいえらい」


 頭を撫でてくれるエリを見ていると、これからの不安がどこかにスッと消えていく。


 やがて俺たちを乗せた新幹線が動き出した。

 到着した後は、まず新しい住居に荷物を置いてから甘井さんのいる出版社の事務所に挨拶する流れになっている。


「でも、新しい学校生活ってのも緊張するなぁ」

「まさか転校生が高校生作家ワクミン先生だなんて、みんな驚くんじゃない?」

「ま、まだデビューしてないからそんなことないよ。むしろエリみたいな可愛い子が来てみんな驚くんじゃないかな」

「あはは、でも自己紹介でちゃんというもんねー。私、大好きな彼氏いるからって」

「そ、そんなのいきなり言ったら」

「いいの、私にはワクミンがいるから」

「……うん」


 俺たちの新しい生活が始まる。

 でも、不安はない。エリがいる。


「ねぇ、ワクミンに一個だけ交換条件だしていい?」

「いいよ、何?」

「ずっと好き、だからずっと好きでいてね」

「なんだよそれ、今更?」

「大事なことなの、都会には可愛い子いっぱいいるだろうし、ワクミンが浮気しないための約束」

「信用ないなぁ。エリより可愛い子なんていないよ」

「そっかな」

「エリこそ、イケメンがいても俺を捨てないでよ」

「あはは、私はワクミンがタイプだから大丈夫」

「なんかそれ褒めてない」

「褒めてるよ。大好き、京介」

「うん、大好きだよ、エリ」


 やがて俺たちは新天地についた。

 そして二人で手を繋いで、固く固く繋いだ手を離さないように、並んで新幹線を降りた。


 先のことはわからない。この街でどうなるのか、俺は何者になれるのか、それは誰にもわからない。


 だけど、二人で一緒に、これからもずっと一緒にいることだけはわかっている。

 

 

 おしまい




 あとがき


 ここまで小悪魔佐藤さんをご愛読いただきました皆様、本当にありがとうございました。


 連載当初、今まで書いたことのない甘々系をと思い、大好きな小悪魔系の女子を描いてみましたがここまで応援いただけるとは正直思ってませんでした。


 どこか不安になる部分を残しながらというのは思っていた通りでしたが、最後まで幸せな二人を描こうと決めていたので終始ラブラブした二人でゴールいたしました。


 山あり谷ありもいいですが、最初から最後まで平和で幸せでもいいじゃないか、なんて思いで描いたこの作品はここでおしまいですが、二人の物語はきっとこれからも続いていきます。


 そんな二人を最後まであたたかく見守ってくださった皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。


 これからも多くの作品を描いていく中でもこの二人との経験はきっと私にも大きな影響を与えてくれると思っています。


 また、甘い作品なんかも描いてみようと思いますが、なにせヤンデレやツンデレや変態女子に目がない私はそんな作品が多くなると思いますが、変わらぬ応援をいただければ嬉しいです。


 これからも、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


 本当にありがとうございました。

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小悪魔佐藤さんが交換条件を出して迫ってくる 天江龍 @daikibarbara1988

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