第28話 プレゼント
「着いたよ!わー、楽しみだねワクミン」
「うん、いつぶりかなぁ」
俺たちは今遊園地に到着した。
早速チケットを買って中に入ると、エリがその細い足で軽快に進んでいく。
「ねーワクミン、アイス食べようよ」
「え、いきなり?」
「なによー、食べたいんだからいいじゃんかー」
顔をわざとらしくぷくっとさせるエリは、それでも機嫌よく売店に進んでいく。
そして二人でアイスを買って近くのベンチに座ると、そこまで前の話でもないのに懐かしむような話し方で言う。
「そういえば一緒にアイス食べたよねー」
「あの時は間接キスでドキドキしてたの覚えてるよ」
「あれー、じゃあ今はドキドキしない?」
そう言って食べかけのアイスを俺の前に差し出してくる。
「い、いやさすがに間接キスではドキドキなんて」
「ははーん、ワクミンも大人になりましたなー」
「そ、そんなこと、ないけど」
「じゃあこれは?」
「え?」
エリがいきなりキスをしてきた。
人通りもあって、こっちを見ている人もいるがお構いなしだ。
「はぁ、ちょっと冷たいキスだね」
「う、うん」
「ドキドキした?」
「し、したよ……」
「へへ、よかった」
エリはいつもより積極的だ。
食べている間も食べ終わってからもずっと俺の手を握って離さない。
俺はというと、エリの香りにほっこりする反面、どこでプレゼントを渡したらいいか迷っていてそれどころでもなかった。
サプライズなんて計画してみたが、はっきり言って戸惑っているのは俺の方。
それに本当に喜んでくれるのかどうかも怪しい。
結局何も考えがまとまらないまま、エリが乗りたいというジェットコースターに向かうことになった。
「ここのって日本で二番目に速いらしいよ」
「そうなんだ、ちょっと怖いかも……」
「ワクミンビビりすぎー。大丈夫だって」
「う、うん」
完全に立場が逆だ。
普通男の方が女の子を励まさないといけないのに、俺はというと終始エリに勇気づけられてばかり。
情けないと思いながらもどうすることもできず、ジェットコースターに乗り込むと、隣のエリが俺の手をぎゅっと握る。
「ちょっと怖いな……」
「だ、大丈夫だよ」
「離さないでね」
エリがそういった瞬間に俺たちを乗せたコースターは動き出した。
なんかいつもと違うドキドキが俺を襲う。
そしてがたんとなった瞬間に俺たちは急降下した。
「うわーっ!」
そこからはもう勢いに身を任せて景色なんて楽しむ余裕もなかった。
目がまわりそうになりながらもなんとか隣にいるエリを見ると、笑顔でその爽快さを愉しんでいるように見える。
やっぱりエリはすごいなぁなんて思いながらも、またスピードを上げるジェットコースターの波にのまれて俺は目を閉じた。
「はぁ……あー、怖かった……」
「ワクミンすごい顔してたよ。私笑っちゃった」
「だって、怖いもんは怖いんだよ」
「あはは、ワクミンってそういうところも面白いよね」
「なんだよそれ」
「そういうところも好きってこと」
「……ありがと」
えへへと笑うエリにそう言われるともう何も言えない。
そして二人で外に出ると、エリがまた先に歩き出す。
「ねぇ、二人で何かお揃いのもの買わない?私、記念に何かほしいなー」
「あ、それならお土産売り場にあるけど。もう乗らなくていいの?」
「うーん、じゃあ観覧車だね。うん、遊園地と言えばこれに限るよ」
「じゃあいこっか。空いてるみたいだし」
俺は思った。二人で観覧車の中にいる時にサプライズでプレゼントを渡せばいいのではないかと。
そう考えだしてから、急に緊張が増す。
ドキドキしながら二人で乗り込むと、すぐにエリが俺の隣に腰かける。
「へへ、二人きりだからここだと何でもできちゃうね」
「い、いやでも外から見えるし」
「高くまでいったら見えないよ。触る?」
そう言って彼女が差し出してきたのは変わらず美しい太もも。
俺はそんなことをしている場合じゃないとわかりながらも本能的にそこに手を伸ばす。
「あは、外で触るなんてワクミンエッチだねー」
「こ、ここは外じゃないし」
「じゃあエッチする?」
「え?いやそれは」
「冗談だよーん、私そんなエッチじゃないしー」
「……」
二人で高くまで上る途中、イチャイチャしながらも外の景色ももちろん楽しんだ。
街並みを見下ろしているとふと、俺はよくこんな広い街の中でエリみたいないい子に好きになってもらえたなと不思議な気持ちになった。
「ワクミン、なんか私幸せだなー。楽しい」
「うん、そうだね……」
いい雰囲気になる。プレゼントを渡すのなら今しかない。
そう思いながらもどうやって渡そうかともじもじしていると、エリがカバンから何か取り出す。
「はい、これ」
「え、これは?」
「へへーん、サプライズ。ワクミン頑張ってるからあげる」
差し出されたのは小さな箱。
俺は「開けていい?」と聞いてから包みを開けた。
すると、万年筆が入っていた。
「これって……」
「だって、作家さんになるんならいくらパソコンで仕事するんでもこういうの持ってた方がかっこよくないかなって。ワクミン先生の相棒、って感じ」
「エリ……」
俺だけじゃなかった。
エリも今日の為に、俺の為にプレゼントを用意してくれていたとわかって嬉しさがピークを越えて、ついに涙腺にきた。
「あ、ありがと……う、うれ、しい」
「ワクミン泣いてるの?」
「う、嬉しすぎて……」
「あはは、大袈裟だなー。私はずっとワクミンの傍で応援してるからね」
その一言で俺の感情は更にぐちゃぐちゃになる。
もうサプライズでもなんでもなくなった俺のプレゼントは、せめてものお返しとして彼女の手に渡ることになる。
「お、俺からも……これ、プレゼント」
「え、いいの?やったー、開けていい?」
「も、もちろんだよ」
正直何も気の利いたものではなく、高価でもない。
しかし中身を見るとエリは「わー、綺麗」と喜んでくれる。
「つけていい?」
「う、うん」
「あはは、似合うかなー?」
「に、似合うよエリなら」
どちらかと言えば俺の用意したネックレスの方が、エリにふさわしいか疑問である。
しかしそんなものを彼女は実に幸せそうに身に着けてくれる。
「ワクミン、ありがと。これ、一生大切にするね」
「い、一生って……そんな」
「重い?」
「い、いやそうじゃないけど」
「ワクミンが有名になってモテモテになって別れたいって言ってきても私絶対に別れないもんねーだ。どうだ、重いでしょー」
「そ、そんなこと言うわけないだろ」
俺は不安だった。
どこかでエリが俺に見切りをつけてしまうのでは、とか急に別れようとか言われないか毎日怖かった。
だからエリの言葉はとても重みがあって、それでいて俺の心を軽くしてくれる。
今日ここにきてよかった。
エリと付き合えてよかった。
小説書いててよかった。
もうそんな単純な思考ばかりで俺の頭はいっぱいだった。
つまりそれくらい幸せで、それくらいエリが好きだということ。
その後は二人で手を繋いだまま、静かに地上まで降りていった。
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