第27話 俺からの気持ち

 エリに小説を読んでもらっている。

 合格、なんて言ってくれることを期待しながら彼女を見ていると、時々眉間にしわを寄せる場面があった。


 俺はその度にドキッとしながらも、真剣に読み進める彼女に声をかけることもできず静かに結果を待った。


「ふぅ、なるほどなるほど」

「ど、どうだった?」


 俺は小説を読み終えたエリにすぐさま聞いた。

 早くエッチがしたい、なんて気持ちよりは純粋にその出来栄えが気になったのだ。


「うん、合格だね!」

「え、ほんとに?」

「お世辞は言わないもん。すっごくおもしろかった」

「よ、よかった……」


 俺はホッとした。

 エリは同時にこう続ける。


「ワクミンってやっぱりやればできるじゃん。さては今まで手をぬいてたなー、このやろー」

「ち、ちがうよ。その、頑張る理由ができたから、やる気がちょっと出たというか」

「ははーん、エッチしたくて仕方なかったんだ。でも、どーしよっかなー」


 すっと立ち上がって帰ろうかななんてそぶりを見せるエリに俺は少し焦った。

 でも、自分の口からさせてくれなんて言えず、もじもじしているとエリがクスクス笑う。


「うそうそー、ワクミン焦りすぎー」


 そのあともエリは優しかった。

 できれば辛いこと、しんどいことから逃げてこうやってずっとエリとイチャイチャしていたい。


 そんな気持ちになりながら二人きりの夜を楽しんだ。


 それからは何日も何日も同じような日が続く。

 本当は放課後デートとかを楽しみたいのに、じっと小説を書いてばかりだ。


 エリはずっとずっと俺に付き添ってくれる。

 でもそれは面白くないだろうと思う。


 本当は自由にデートしたり、食事したりしゃべったりしたいと思うのが普通だ。


 だからずっと彼女に気を遣っていた。

 エッチをする時だって、こんなので本当に彼女が喜んでいるのかといつも不安だった。


 あまりに俺のために尽くしてくれる彼女に、俺は何かしてあげられないかと考えた。

 しかし気の利いたアイデアは浮かばない。


 そして、しばらくしてからまた甘井さんに呼ばれた。

 その日、甘井さんは以前と違い優しい表情で俺を出迎えてくれた。


「和久井君、やればできるじゃない。最近のあなた、いい感じよ?」


 欲しかった言葉がやっと聞けた。

 その感動に俺は安堵のため息を漏らしながら、少し涙目になった。


「大丈夫?和久井君、厳しいこと言ったけど、よく頑張ったわね」

「い、いえ……彼女が支えてくれたおかげです」


 少し震える声で言うと、甘井さんも大きく頷いた。


「大事なことね。大切にしないといけないわよ、彼女のこと」


 大人の女性のアドバイスに俺は素直に首を縦に振る。

 そしてものはついでと、甘井さんに質問する。


「彼女に何かお礼したいんですけど、何がいいと思いますか?」

「お礼、かあ。そうね、今度一日デートでもしたらどうかしら?ここのところ忙しくさせたしたまには休みもいいんじゃない?」

「え、でも」

「取材ってことね。あなたを見ていたらちょっと休んでも大丈夫そうに見えるし、たまにはいいわよ」


 甘井さんは今度は俺に休めと言ってきた。

 そんなことを言ってくれたので俺は少し気が抜けた。


 そして甘井さんと別れたあと、すぐにエリを誘う。


「エリ、明日一日休んでいいんだって。どこか行こう」

「そうなの?んー、それじゃ遊園地でも行こうよー」


 そう話した後、すぐに予定は決まった。


 次の休日までは頑張って小説を書いて、日曜日に二人で遊園地に行く。


 そのことだけを楽しみに、翌日からも執筆活動を頑張った。

 

 そして日曜日が来る。

 俺は今までエリにしてもらってばかりだったのでささやかなプレゼントを用意した。


 甘井さん曰くサプライズは一番相手が喜ぶというので、彼女の為にネックレスを買った。


 日頃の感謝、お詫び、俺からの気持ちだなんて色々あるが、結局は彼女に喜んでもらいたいだけなのだ。


 当日は、駅で待ち合わせしてから一緒に遊園地に向かったが、プレゼントをいつ渡すかで頭がいっぱいになって道中はろくに会話ができなかった。

 


 

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