ホワイトデーは君の記念日

ケイくんとナナさん或いは義鷹=gsgs

第1話 三度目のホワイトデー

「お疲れさまでした」

 夜の十時、僕は他の人が風邪を引いてしまったらしく、代わりに入ってくれと店長に泣きつかれ、君の誕生日の今日だけは一緒に居たかったけれど君も「行ってあげて」と言ってくれたから仕方なく入ったアルバイトが終わり、店の裏口を出ると同時に君が待つ僕たちの家へ向かって駆け出した。今日は三月の十四日、ホワイトデーであると同時に君の特別な日だ。この日のために準備していたプレゼント喜んでくれるかな?ワクワクしながら僕は少しずつ家へと近付いていた。


 僕たちが出会ったのは三年前、大学の入試の日だった。試験の座席が隣だった君が試験と試験官の話が終わって帰ろうと荷物を纏めていた時に仕舞おうとしていた筆箱を机から落とし、中身が散らばったのを拾う手伝いをしたのがきっかけだった。普段だったら拾って無言で渡すだけだったけれど、この時は試験を受け終えた解放感から「どうぞ……試験、難しかったよね」と初対面ながら話しかけてしまった。筆箱を受け取った君は「ありがとうございます」と微笑んで続けた

「そうですね、途中から少し自信が無くなってきちゃいました」

 そう言って筆箱を鞄に仕舞ってお辞儀をして「お互いに受かっていると良いね!今日はお疲れ様」と言い、帰っていった。その様子に初対面で馴れ馴れしすぎた……と反省した。その夜、お風呂に入りながら試験の様子を思い出していると少しずつ後悔が襲ってきた。

(あの娘に変なやつと思われてないだろうか……今度会ったら謝らないと……)

 そうして試験の結果が出て、入学式の日になっても僕はあの娘の事でいっぱいになっていた。


 入学式当日、会場についた僕は喜んだ

(あの娘が居た!)

 そう、偶然にも入場するために並んだ列の一組前に彼女の姿があったのだ。隣に居るスーツを着た女性と楽しそうに話しているのが分かった。スーツを着た女性が「知っている人とか居ないの?」と聞き、彼女は回りを見渡し、僕と目があった。目を見開いて驚いた後、女性に一言言ってから僕の元へとやって来た。

「あの時の人だよね!合格したんだね、おめでとう!」

 そう笑う君の笑顔と桜模様の振袖姿に見惚れていた。見惚れているだけじゃダメだと吃りながらも返事を返す

「う、うん。あ、ありがとう。き、君も合格したんだね、お、おめでとう」

 そんな僕に君は堪えきれずに吹き出した。

「あははっ、あの時はあんなに流暢に話してたのに、そんなに緊張しなくてもいいじゃない!面白い人ね」

 そんな会話から僕たちは仲良くなり始めた。ついでに言うならば僕の母と彼女の隣に居た彼女の母同士も仲良くなり家が少し遠いらしく、彼女の独り暮らしは不安だそうで最初は力仕事だけ手伝うだけだったのが段々と仲が深まっていくなかで、彼女に誘われて僕たちは一緒に暮らすことになった。


 そうして今では一緒に暮らしている僕たちだけれども実はまだ恋人では無い。去年も一昨年もヴァレンタインやホワイトデーでチョコを交換したりクリスマスシーズンを二人で過ごしていたけれど、それは日頃の感謝を伝えるものでしか無かった。でも今年は違う。いつもは市販の十二個入りのチョコが乗ったビスケットと誕生日プレゼント分のお菓子、そして感謝の言葉を送るだけだったけれど、今年はこの三年間で僕が君に抱いた想いを伝えるためにいつもの誕生日プレゼントと彼女の友だちに教わりながら作った手作りチョコ、そして予め聞いておいた彼女が欲しがっていたものを用意した。早く会いたい、君が作って待っていてくれているであろう夜ご飯を一緒に食べたい。もうすぐ長針が半分回り、今日が終わっていくのが分かる。春の心地よい夜風を感じながら走っていると、ようやく僕たちの家が見えてきた。やっと君にこの想いを伝えられる。君への恋の気持ちが体力も余り無い僕を玄関まで走らせてくれた。玄関にたどり着き、荒くなった息を整えてから玄関を開けた。君はすぐそこに居た。

「おかえりなさい」

 そう言って微笑む君が僕は心から好きだと感じた。

「ただいま、そ、それであの……誕生日おめでとう……これ誕生日プレゼントとヴァレンタインのお返し……」

 と緊張から吃りながらいつものプレゼントを渡してから「そ、それと……」と言ってもう一つ彼女に差し出しながら僕は言った。

「す、しゅきです、付き合ってくだしゃい!」

 肝心なところでも格好のつかない僕にいつかのように吹き出した彼女は僕の差し出したプレゼントを受け取って「こちらこそよろしく」と言ったのだった。

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