走り続けてやるんだから
高山小石
走り続けてやるんだから
カチカチカチカチ……
あぁ、今日も始まった。
授業を受けるため、教室の自分の席についただけで、心の中でため息をつく。
ななめ後ろの席に座っているクラスメイトが、シャーペンをカチカチ鳴らすのだ。芯を出すためではなくて、ただひたすら延々と。
先生が何回も注意したけどやめてくれないので、この音を聞き続けながら授業を受けるしかない。
授業が始まってしばらくすると、後頭部にかすかな違和感を覚えた。
まただ。
後ろの席のクラスメイトが切り刻んだ消しゴムを私の頭にぶつけてくるのだ。
消しゴムがもったいないし、そんなことする意味がわからないんだけど、クラスメイトは飽きることなく無心に続けてくる。
今まで何回も「やめて」と言った。先生にも言った。
でも止まらないので、もう無視している。
そうしたら昨日、クラスメイトは私が無視したことを怒ってきた。
「やめて」って言ったのに無視しているのはそっちだと思う。
やっと授業が終わり、休憩時間にトイレに行って髪にからまった消しゴムを落とす。
まだ1時間目しか終わってないことにうんざりしながら席に戻り、次の授業の用意をしていると、ふでばこの中から破れた紙が出てきた。
紙切れには「死ね」の文字。
あぁ、先生に「そんな言葉を言ってはいけません」って注意されたから、今度は紙に書いてきたんだ。
口に出さなければいいとでも思っているのかな。
書いて渡すのもダメだと思う。
それに、勝手に他人のふでばこを触るのもどうなのかな。
でも、先生に言っても注意されて終わりなんだろうな。
学校に来れなくなった友達は、きっとこんなやりとりに疲れちゃったんだろう。
友達と私のクラスが離れていた時は、こんなことになってることに私も気づかなかった。
二人で遊んでいるときはいつも通りだったけど、学校にいるときの友達は、だんだん元気がなくなって、話すことも笑うことも少なくなっていった。
ぼんやりしてきて、成績も下がって、学校を休みがちになった。
朝、遠回りして「一緒に学校に行こう」って何回も誘いに行ったけど、出てこられないことが多くなって、ついにはまったく来なくなった。
今なら友達の気持ちがよくわかるよ。
だって、頑張って学校に行っても、こんなんじゃあヘコむよね。
授業を受けたくても、集中できないよね。
先生に言っても変わらなくて、他のクラスメイトは見て見ぬふりだし。
死ね、死ねって何回も言われたら、もう死んだ方がいいのかなって思っちゃうよね。
そんな場所に行けなくなるのは当然だと思う。
新しいクラスの担任の先生が毎朝友達の家に迎えに行っているみたいだけど、それも友達には心苦しいらしい。
先生の気持ちは嬉しいけれど、親から「先生が来てくださっているんだから早くしなさい!」と言われると、もう来てくれなくていいよって思ってしまう。それがまたしんどいのだと、心優しい友達は言っていた。
友達のいない教室はさみしいけど、あんな人たちに負けてなんかやらない。
いつか、昔みたいに一緒に学校に行こうね。
私はここで待ってるよ。
走り続けてやるんだから 高山小石 @takayama_koishi
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