第18話 次世代魔神王決定戦 第二回戦の前に
一体何が起こっているか分からなかった。
勝者だと思われていたべレフォールが壁に叩きつけられて気絶しており、敗者だと思われていた十歳の男児が余裕の笑みを浮かべながら立っているのだ。
誰もが想像していた結末とはかけ離れ過ぎた光景が目の前に広がっていた。
「おいおい、マジかよ・・・」
「なんで
バレンに続いてサリカも、彼が魔神王の座に選定された理由について納得しているとガイオスが小馬鹿にするような笑い方で口にする。
「ハ、べレフォールがそれまでだっただけの話だ」
「そうだ・・・、俺たちが負けるはずがない・・・」
ガイオスに賛同するようにセモンが言葉を綴った。
ガイオスとセモンは、魔神王直系の兄弟の中で一、二番の実力を持つ男たちだ。
彼らの目にもこの勝敗に多少の驚きはあったものの、べレフォールがそれまでの男だったとすぐに認識を改めた。
というのも、強大な力が彼らに自信を与えているのだろう。
「さて、次の挑戦者は誰だ? 怖気づいてんなら俺が行くぞ?」
「待て、順番的には俺の方が先だ・・・」
順番争いをしている二人の間を割り込むように、三人の少女が口を挟んだ。
「ちょっと! 誰も怖気づいていませんよ!」
「そうです! ちょーっと驚いたくらいで別にあたしたちはビビってませんから!」
「順番に変動はありません! 次はうちらの番ですから!」
同じ顔が揃ってガイオスとセモンに主張を始める。
「だったら、早く行け。あいつが待ってるぞ」
すると遠くの方で、彼が兄弟の集まる方を睨みつけながら口を開いた。
「次の挑戦者、出てこい」
禍々しくも凶悪な姿にプレッシャーを覚えつつも、三つ子の姉妹はゆっくりと歩き始める。
「大丈夫、私たち三人が協力すれば何とかなるはず!」
「そうだね、あたしたちの力は三人で一つだからね!」
「力を合わせれば、うちらは誰にも負けない!」
それぞれが鼓舞し合って、モチベーションを最頂点まで高めていく。
そして、ここからが第二回戦だ。
どうやら、次の挑戦者は三つ子金髪美皇女で有名なシヴィリアーナ、カレアマキナ、サイスノールカのようだ。
魔神王候補に三人はいかがなものかと思っていたのだが、どうも国民と王族、両者ともに公認らしい。
不満不平を誰一人口にすることなく、闘技場内は歓喜に包まれている。
しかも、歓声量はべレフォールよりも倍に近い。
美少女だからチヤホヤされていのだろうか?
それとは対照的に、俺の声援はどこからも聞こえてこない。
お母さんもディアルナも息を潜めて観戦しているようだ。
「次の対戦相手は姉上たちでしたか」
「あなた、かなりの実力を持っているようだけど、私たちには勝てないよ」
「どうしてです?」
「そんなの決まっているじゃん! あたしら三人と相手するんだよ?」
「はい、それが何か?」
「まさか、まだ隠し玉があるとか?」
「さあ? それはどうですかね」
明らかに表情が曇る三人美皇女。
表情が曇るのも無理はない。
下手をすれば、自分らも後ろで未だ気を失っている男と同じ結末になってしまうのだから。
でも、相手は兄弟とは言え一応女性だ。
ディアルナに、俺が女にも容赦なく手を上げるDV男だと思われてしまうのは何としても回避しなくてはならない。
軽くひねり潰すぐらいがちょうどいいだろう。
俺が美皇女三人衆に向けて戦闘の意思を示すと、同じように三人も戦闘態勢を取った。
正直、彼女たちの力は未知数だ。
瞬殺で終わらせるのが、俺にとって都合がいい戦い方だと言えるだろう。
そして、俺が魔力を増大させようと魔力を全身に滞りなく回転させていると、誤爆とは言い逃れできないほどの見事な横槍が入った。
戦闘の邪魔をした犯人はというとーーーー
「べレフォール坊ちゃんは本気じゃなかったんじゃ! だから今度は本気の坊ちゃんと勝負しろー!」
息を荒らしながら主張する老人の名前は知らないが、べレフォールの指南役で間違いだろう。
俺が煙の中で身を潜めていると、何やら言い争っている声が聞こえてきた。
「おい、ジジイ! なぜ「
「ふんだ! べレフォール坊ちゃんが魔神王になるのにあのクソガキが邪魔だったんじゃ!」
「生死を争う戦いの中で、本気だったとか本気じゃなかったとか言いますか? 言いませんよね?」
「うるさーい! とにかく、べレフォール坊ちゃんが次世代魔神王になるんじゃ!」
「いや、ガイオス様だ!」
「いえいえ、セモン様ですよ!」
なぜか、俺が死んだ設定で話が進んでいるが別に死んでいない。
というか、灰すら残らない「
ーー一体どういうことなんだ・・・?
からくりがイマイチ分からないが、怪我がないのなら願ってもない話だ。
次第に煙が消えていき、中から姿を現した俺は指南どもに右手の平を向けて魔力を放った。
魔力は引き潮のように三人の指南役を俺の元まで引き込む。
「何が起こっている!?」
「ワシが知るわけなかろう!」
「どう考えても、あなたが原因でしょう!」
「何じゃと!」
二人の指南役が言い争っている中、眼中に入れてもらうためにも俺は魔力の形を変形させて彼ら三人の首を絞めるように魔力をコントロールした。
どうやら、魔力を変幻自在に操るのは想像だけで良いらしい。
魔力を使うまでは様々な苦行を乗り越えるだけで良く、あとは自由に使えるみたいだ。
魔神族の魔力を上手く行使できるようになった俺は、三人を威嚇するように睨みつけた。
「今は次世代魔神王決定戦の最中だ。このまま死にたくなかったら部外者は大人しく引っ込んでろ」
「おまえ! 「
「そんなことはどうでも良いだろう? それより、大人しくできないというのならこのまま殺すがいいか?」
「はん! 貴様のような小僧にこのワシが殺されるわけなかろう」
「そうか、それじゃあ試すとしようか。死んでも恨んでくれるなよ?」
「そっちがその気ならこっちから殺してやるわい!」
すると老人は人差し指と中指を縦てながら魔法を唱える。
「
俺を取り囲む半径三メートルの地獄の扉が俺を突き落とそうとする。
「「
「終い・・・ハハ、確かにそうだな」
「命乞いしても今更遅いぞ? 貴様は地獄で自分の愚かさを恨むんじゃな」
「死ぬのは貴様の方だ」
地獄の扉に亀裂が徐々に入っていき、間もなくして「
勝ちを確信した老人は動揺を隠せないでいた。
それもそうだろう、確実に殺そうとした奴を殺し損ねたのだ。
全身に襲われる感情は、言うまでもなく「恐怖」の感情に他ならない。
「バ、馬鹿な! 「
「まさか、この程度の魔法で殺せると思われていたのか・・・」
「ありえない! 「
「いや、先の戦いから考えれば、その可能性も・・・」
老人を除いた二人の指南者が勝手に話を進めているが、これっぽっちも理解できなかった。
邪神? 魔神じゃなくてか?
まあどちらにせよ、俺に対抗心を削ぎ落すことができたということだ。
そんな二人の会話を遮るように、老人が凄い剣幕で俺に問い詰めてきた。
「貴様! どんな小賢しい手を使った!? でなければ、「
ないんじゃ!」
「小賢しい手? 純粋な力だが?」
「嘘は大概にしろ! この大魔術士で名を馳せるワシの魔法を破ろうなどインチキに決まっておるわ!」
「それじゃあ、インチキじゃないってことを証明すればいいのか」
「ハ! やれるものならやってみろ!」
「おい、ジジイ! 貴様本当に死ぬぞ!?」
一人の指南者がそのような事を口にするが、すでに遅い。
俺の体内で膨れ上がる魔力が老人に向けて一気に放出された。
闇の炎が老人の身体を吸い込むように吸収し、十秒が経ったところで再び姿を現した。
ーーーー廃人と化して。
「マジかよ・・・、闇の炎だけで・・・」
指南者の一人がそう口にすると、観客席が突如ざわつき始める。
まあ、こんな光景を見せられてざわつかないわけがない。
老人を掴んでいる魔力を解除すると、老人は手で受け身を取ることなく無抵抗のまま倒れ込んだ。
「さて、お前らはこいつのようになりたいか?」
俺は残る指南者二人にそう尋ねる。
聞かずとも、二人の答えは明白だが。
「邪魔をして申し訳ございませんでした・・・」
「この老人を連れてここから立ち去るので、どうかお許しいただけないでしょうか?」
「うむ」
俺は彼らの言葉に疑いを掛けることなく、すぐさま魔力を解いた。
二人は驚いた顔をしているが、俺はすぐさま立ち去るように指示を出す。
そして、二人が老人を引きずって立ち去ったところで『次世代魔神王決定戦』を再開させる。
「待たせてすみませんでした、さあ二回戦と行きましょう!」
三つ子の美皇女たちは、各々の武器を構えながら固唾を飲んだ後、言葉を一つにする。
「「「君を倒して魔神王になる!」」」
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