19. 【異】王都創立記念祭 2日目 海の幸

 キヨカが縄跳びをしている間、セネール達は他のミニゲームに挑戦していた。いくつかのゲームで賞品を入手したが、特に冒険に有効そうなアイテムは手に入らなかった。あくまでもただのお遊びという位置づけで、頑張ったからと言って旅が楽にはならない設定だったのだろう。


 一夜明けて、二日目は自由行動。

 キヨカはポトフと一緒に行動しようかと思っていたが、ポトフは珍しく一人で遊んで来ると申し出た。少し寂しいキヨカである。


 とは言え、それならそれでレオナと一緒に行動するだけだ。人が多くてざわめき声が大きいから、他人からは見えないレオナと話をしても目立たないだろう。


 レオナはポトフが居ないので、最初の頃のようにキヨカの肩に座っている。


「レオナちゃん、どこ行こっか」

「美味しい物でも食べてみたら?」

「いいの?」


 昨日はミニゲームに夢中になって屋台巡りは出来なかった。

 確かに今日は美味しいものを食べたい気分ではあるけれど、レオナが食べられなくて一緒に楽しめないから避けようと思っていたのだ。


「うん、キヨちゃん食べたいでしょ。それに食べられなくてもどんな料理があるのか気になるから」


 長い付き合いなので、料理が気になるのとキヨカに気を使ってくれているのが半々くらいの気持ちだろうと察した。こういう時は遠慮しない方が相手のためでもあるのだ。


「ありがとう。それじゃ美味しい物探しに出かけるぞー!」

「おー!」


『緊急警報!飯テロくるぞー!』

『総員迎撃準備せよ!』

『ぐっ……うちにはインスタントしかない』

『そんなんじゃ死ぬぞ!?』

『俺はもうダメだ、後はおまえらに後を託す』

『俺、このラーメン食べ終わったら寝るんだ』

『フラグ立てるならちゃんと立てろよw』


 キヨカは今日はコメント欄を見ることにしている。

 お祭りはみんなで遊んだ方が楽しいと感じるタイプだからだ。

 ノリの良いコメントを見てキヨカは苦笑する。


「全力で飯テロするから覚悟しててね」


『ひぃっ!』

『この女、やる気だ!』

『ぶっちゃけシンプルな肉の串焼きとかでもめっちゃ旨そうなんだよな』


「それね、あれはずるいと思う。こっちは見た目だけじゃなくて香りが漂ってくるからそれだけで食べたくなるもん」

「キヨちゃんそっちに行ってから良く食べてるよね」

「だって美味しいんだもん。お肉とろっとろで柔らかいんだよ」


 何の肉か分からないが、長い串に刺さったボリューム満点の串焼き。

 甘辛いタレをたっぷりとかけて炭火で炙られているので、タレの香りが辺りに充満して酷い飯テロとなる。誘惑に負けて購入し、一口齧れば程よい弾力と共に肉汁が染み出て来て香ばしいタレと混ざり合う。肉の感触を楽しめる上に噛み切りやすい程良い柔らかさで、次々と口の中に放り込んでしまう危険な屋台料理だ。


「お肉はいつも食べてるから今日は違うの食べてみたいんだよなぁ」


 屋台が出ているとついつい串焼きを買ってしまうので、せっかくのお祭りなのだから食べたことの無い料理を口にしてみたかった。大通り付近の屋台は、今のところクレイラの街の祭りなどでも見たことのある料理が並んでいる。


「キヨちゃん、港の方に行ってみない?魚介系の屋台があるかも」

「それだ。さすがレオナちゃん」


 魔道バスは混んでいるけれども、美味しいものを食べるためなら我慢せねば。


『魚介系の屋台って何だろ?』

『ヤバイ、強烈な飯テロの予感』

『それな、こっちと似たような料理多いし』

『なになに?』

『海水浴場を考えてみそ』

『そんなリア充の巣窟、行ったこと無いわ』

『オレモ』

『ワタシモ』

『Oh……』


 バスで移動中に、魚介系の屋台の内容についてコメント欄で予想が続いていた。


「悲しい話はしないの」

「でも海水浴なら私達もずいぶん行ってないよね」

「言われてみれば。最後に行ったのって小学生の頃だっけか」

「キヨちゃん今はもう水着で人前に出るの恥ずかしがるから」

「べ、べべ、別に恥ずかしくなんてないもん」


 レオナは待ってましたと言う表情で水着ネタをぶっこんだ。

 海が近いということで、話を出して弄れるタイミングが来るのをずっと待っていたのだ。

 そして水着と来れば当然コメント欄はざわつくことになる。


『赤面「ないもん」いただきましたー』

『たすかる』

『水着回くる!?』

『恥ずかしく無いなら着ても良いですよね^^』

『そだそだ』

『海も近いし、海水浴できる場所あるんじゃないかなぁ』

『(にちゃり)』

『可愛いの確定してるからね』

『むしろ水着選ぶところから見たい』

『それな』

『わかる』


 真っ赤になってうつむき、キヨカは僅かな反抗をする。


「もう、コメント表示消しちゃうよ?」


『サーセン』

『サーセン』

『サーセン』

『サーセン』

『でも本当に見てみたいんだよ?』

『それな』


 海があるのに水着シーンが無いとかありえないのである。


「うう……機会があればね。ほら、着いたから」


 少なくとも今のところはまだ海水浴をするような場所も場面もやってきていない。

 可愛い水着自体には興味があるので、今は忘れてその時が来たら考えるように先送りにした。


「レオナちゃんの言う通り、こっちも屋台がいっぱいだね」


 しかも魚介系が沢山売っている。

 せっかくなので人気の屋台に並んでみようと思って探したところ、おそらくこの辺りで一番の目玉であろう屋台を見つけた。


「うわぁ、おっきな貝だ」


 直径数メートルはありそうな二枚貝を巨大な網の上で焼いていたのだ。

 ぐらぐらと揺れていて、そろそろパカリと開きそうでギャラリーはその瞬間をワクワクしながら見ていた。


「さぁみなさん、そろそろですよ!」


 屋台の人も煽って盛り上げようとしている。


『くっそでかくて草』

『でもこれめっちゃ映えそう』

『こんなんやってたら絶対見に行くわ』

『見世物としては最高だよな』


 地球側も動画保存の準備中である。

 間違いなくネタ動画として加工されてSNSで遊ばれるだろう。


 キヨカもどことなくワクワクしながら見ていたら、その瞬間は唐突に訪れた。


 バンッ!


「きゃっ!」


 車の扉を強く閉めたような強烈な音が鳴り、そんな凄い音が鳴るとは思っていなかったキヨカは驚いて可愛い悲鳴声をあげてしまった。


『悲鳴たすかる』

『音やば』

『たすかる』

『うまそー』

『たすかる』


 貝が開く爆音や見た目のインパクト、キヨカの悲鳴など興味をそそられる要素が詰まっていてコメント欄はカオスとなっていた。


「びっくりしたなぁ」

「キヨちゃん可愛かった(ほらみて、中身も大きいよ)」

「レオナちゃん、本音と建て前逆にしないの」


 わざわざ『かっこほらみて……』と口で補足しているので流石にネタ臭が強く、キヨカはあまり赤面していない。


「でもほんとに中身もおっきい」


 潮の香りが漂い、天然のスープに浸された巨大な貝の身が目の前にあるとなると、そこら中でお腹がぐぅとなるのも仕方のないこと。屋台の人の手によって小さく切り分けられて配られるのを、人々はまだかまだかと待っている。


「いただきまーす」


 切り分けられてもなお分かるプリプリな身を口の中に放り込む。


「ん~おいひー」


 噛むたびに旨味が濃縮された出汁と磯の香りがたっぷり口の中に広がり、キヨカの表情は幸せそうに緩んだ。


「キヨちゃんの良い表情頂きました。なんて言ってる場合じゃなさそう。私もお腹減って来たから何か食べよ」


 その後キヨカは港区で魚の塩焼きや漁師汁などの魚介系の料理をたっぷりと堪能した、

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