29. 【地】灰化4 SNS編

 灰化対策機構の仕事は多岐に渡る。


 キヨカやレオナのフォロー。

 灰化情報の共有や対応方法の検討。

 変化した世界に怯える人へのメンタルフォロー。


 その他もろもろ灰化に関するありとあらゆる活動をする世界的な組織である。

 キヨカが日本人ということもあり本部は日本にあり、世界中に支部が存在する。

 日本にも本部とは別に日本支部が設置され、業務内容に応じた様々な部署が存在する。


 その部署の一つに、SNS対策室というものがある。


 彼らは日々SNSをチェックし、灰化の可能性が高い表現を発見した場合はプロバイダに連絡して投稿者を突き止め生存確認をしていた。


――――――――


「今日も無難なつぶやきばかりですねぇ」

「ここはドロドロした醜さの塊みたいな場所だったんだがなぁ」


 彼らはつぶやきを投稿するSNSの巡回担当者だ。

 このSNSはTVが壊滅状態となっている現状では情報収集も兼ねて世界で最も利用されているツールの一つとなっている。

 だが、灰化が始まってから一月以上が経つ今でも毎日灰化していると思われるつぶやきが見つかっている。


「毒が無いはずなのに、不思議と毒気が充満しているように感じられるのが不気味ですよね」

「本当は不満をぶちまけたいってのが分かりやすい奴が多すぎるんだよ」


 不満を言いたい、文句を言いたい、煽りたい

 そんな人間の負の面を無理やり押し殺し、ギリギリ漏れ出ているようなつぶやきが散見されているのだ。


「ギリギリセーフなのかアウトなのか分からないから止めて欲しいですよね」

「ほんとそれだわ」


 そうは言ってもこれも大事な仕事である。

 少しでも怪しいと思ったら逐一確認しなければならないし、不満があろうとも着実に実行するような人物が配置されている。


「うわー見つけちゃいました」

「マジか。どれだ?」


 それはある人物のつぶやきを参照してそのまま拡散したつぶやきであった。

 パクリではなく、再つぶやきという正式な機能を使ったものである。


『水素水でメンタル不調がバツグンに治るって雑誌に書いてあった。試しに毎日飲み続けてたらメッチャ元気出たからオススメ』


 一昔前に流行った情報で、科学的根拠が全く無いデマ情報である。返信つぶやきを見ると水素水信者とアンチと業者が激しく叩き合っている。


 ただし、元のつぶやきも返信つぶやきも灰化開始時期より一年以上前のものだ。

 過去の出来事に遡って灰化することは無いため、本来であれば無視して良いつぶやきだ。


「ちゃんと情報元確認しろよなー」

「はぁ……連絡してきますね」

「おう、てらー」


 問題はそのデマ情報を再つぶやきしたのが今と言うことだ。

 当然それは灰化の対象となる。

 しかも今その再ツイートが為されたということは、それが正しい情報なのだと勘違いしてしまう人が出て二次被害三次被害が起きる可能性が高い。しかもつぶやきの内容が灰化によってメンタルがやられている人が多い今ではとても食いつきそうなものだ。


 元つぶやきがいつ投稿されたのか。

 再つぶやきした人がその後無事に投稿を続けているのか。


 これらを確認するだけで、その情報の安全度が分かるのだが、そんなことはせずに脊髄反射で反応してしまう人は少なからず残っている。

 デマを際限なく広げる問題児でもあるため灰化対象となるのは当然ではあるが。


「嫌な流れだなぁ。こういうときは俺も見つけたり……しちゃうよなぁ、やっぱり」


 もう一人の男性が見つけたのは、一見すると問題が無さそうな一連のつぶやきだった。


『結局チャーハンの美味しい作り方って何なの?』


 テレワークにより自炊の機会が増えたサラリーマンにより、料理関係のつぶやきは激増していた。このつぶやき主はネット上にチャーハン作りのコツがあまりにも多く広がっているため、どれが正しいのか分からず聞いているのだろう。


『あらかじめ卵をご飯に混ぜておくの私は好き』

『強火でやればパラパラになるぞ』

『家庭用コンロだと火力が足りないから、強火じゃなくてじっくり弱火でやると良いよ』

『油じゃなくてマヨネーズで炒めてみそ、世界が変わるから』


 結局ネットで調べたのと同じように様々な派閥が出て来て収集がつかなくなっていた。以前であれば、お互いのつぶやきを罵り貶し合いながら自分の意見をつぶやいていた返信者達も、他の人の意見をスルーして自分の意見をつぶやいている。


 これ自体は別に問題ない。


 問題はこれらに紛れた以下のつぶやきだ。


『俺チャーハン好きじゃないし』


 チャーハンの作り方を教えて欲しいという内容で盛り上がっているところに水を差すようなこのコメント。実はこれが灰化対象である。


 某コンビニでオススメの商品を教え合うつぶやきにそのコンビニは好きでは無いと反応し、好きなアニメを語るつぶやきに嫌いな作品のスタッフが関わっているから見ないと反応する。


 悪意があるのか、まともな会話が出来ないのか、それとも自分の嫌いなものが話題になって憎らしいのかは分からないが、盛り上がっているところに水を差して嫌な気分にさせることは女神的にはNGなのだ。


「こういうのは掲示板でや……ってもダメだが、むしろそっちだろう」


 彼の言う通り、掲示板では日常茶飯事の流れであったものが、SNSでも再現されているということ。他人を不快にさせるという愚かさを女神は許してはくれない。


 レスバの文化を一般人に強いてはならないのである。


「こいつはまとめてで良いか」


 先のデマ情報の場合は他の人が再つぶやきする可能性があるから一刻も早く削除してもらわなければならないが、今回の空気読まない男は急ぎ対処する必要が無い。すでに灰化されているからだ。この場合はまとめてプロバイダに連絡して実働部隊が調査に向かうことになる。一件ずつ連絡していたらプロバイダの人も大変だから仕方ない。


「うおおお、またか。今日は大漁の予感がするぜ」


 次に見つけたのは先程と似ている否定男。

 厄介なのは、一つ一つのつぶやきは単なる否定的な意見であって問題が無さそうに見えるところだ。


 その人物は特定の政党のみ問題を指摘して不満に思うつぶやきを繰り返していた。

 特に灰化前の問題を度々蒸し返して叩き続けている。

 しかも他の政党の問題をスルーし、良くなった今の政策についても触れようとしない。


 これが単発であれば正当な主張だと捉えられるが、特定の方向でのみ声を上げ続けるのは偏向報道となんら変わりは無い。何度繰り返せばアウトなのかという基準は不明だが、やりすぎたこの投稿主はここ数日パタリと投稿が止まっているところから考えるに灰化したのだろう。


「まったく、もうちょと分かりやすくやってくれよ!探す方の身にもなってくれ!」


 ネットに潜む悪意というものは、灰化という苦難を課せられてなお消えることは無かった。

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