第14話 聖女の権能、笛剣

 今回の作戦を実行するにあたって、他の聖女と聖騎士が首都にいない事は確認していた。


 聖騎士随一の機動力を誇る蛮勇の聖騎士は現在、対外遠征で国内にいない。信仰の聖女は確か、遠隔地を巡礼していたはず。どうして……


「正義の聖女様、時に貴方の聖騎士は奴隷だったと聞きますが、如何いかに?」


 不躾な信仰の聖女、フィデューセの質問。


「だったら、何です?」


 隠しきれぬ敵意が語気を強くしてしまう。


「そうですか……奴隷風情が、神聖な王城をけがすなど……イフィリスト、掃除なさい」


御意ぎょいに」


 聖女の信仰に裏打ちされた狂気と社会構造が生み出した差別意識。唯々諾々いいいだくだくと従う、やけに落ち着いた男の声。


「……ッ」


 ウィルが私を背に立ち、ショートメイスを構える。ここからは、理想だけでは通れない。


「ウィル、不殺の誓いを解く。あの聖騎士は殺す気でやれ、聖女は任せろ」


「ーッゥゥゥ」


 うなずき、喉の奥から獣のような唸りを上げる。


「ほう、口が利けないのか。ますます、獣のようだ」


 ウザいと思ったので一発、弾丸をプレゼント。


 私達聖女は、役割に応じた権能がある。私、ユースの場合は自分が仕組みを理解して居るを手元で生成できる。しかしその材料は別に必要となる。


 手元にある一発につき、一回装填が必要な古めかしい拳銃と弾丸それぞれ十個。弾丸は火薬の代わりになるものがなかったが、炎の魔石に同様の効果が見られると知った今。即席火起こしに入っていた魔石から弾丸を作り出す事が可能になった。


 戦闘中、装填する訳にもいかないので撃ち捨て方式で十丁。あと八丁をスカートと背中に隠し持ってる。


 甲高い金属同士のぶつかる音。盲信の聖騎士の兜が欠ける。


「チッ、堅えな」


 銃の初見殺しも含めて、盲信の聖騎士を射殺したつもりだったが失敗。


「イフィリスト!」


 お付きの聖騎士が未知の方法で吹き飛ばされ、聖女様は気が動転していらっしゃる。


「大丈夫ですよ、フィデューセ」


 起き上がる。欠けた逆雫型の兜を脱ぎ去り、現れたのは端正な顔立ちの青年。長い銀髪、伏せられた目。


「てめえは、じゃねえか」


 盲信とはよくいったもの。盲信の聖騎士、彼は目が見えていなかった。


「ッハハハ」


「何がおかしい?」


「だからこそ出来る事もあるのですよ」


 そう言って彼が抜き放ったのは腰に履いていた二本のロングソード。直後、女の金切り声のような音。


 真っ直ぐ、こちらに突っ込んでくる。


「ーッッ!!」


 ウィルが間に入って防いでくれたがメイスが半ばから切断、使い物にならなくなってしまう。


「……そういうことかよ」


 盲信の得物は二振りのロングソード。その刃は分厚く、小さな穴が空いている。ロングソードを振ることで、その穴に入った空気で音を発生。音の反響でこちらの位置を把握してるのか。


「珍しいでしょう? 私の故郷に伝わる笛剣というものです」


 流麗な太刀さばきからは想像もつかない膂力りょりょく。両者、構え、張り詰めた緊張の糸が弾け……


「もう止めよ!!」


 幼い少女の悲鳴。


「盲信の聖騎士よ。まだ拝名も終えてない聖騎士をいたぶっても貴殿の名誉にはならぬだろう?」


「……」


「正義の聖女よ。其方の目的は理解した。だが賛同は出来ぬ」


「納得できませんなァ」


 およそ聖女がしてはならぬ凶相。相対する異なる主義主張が相対した時、どうなるか。現状を見れば分かるだろう。


「わ、分かった……闘技場を開放する。後にそこでの勝敗にて決するがいい。これ以上、この王城で暴れる事は許さん」


 精一杯凄む幼女に毒気を抜かれ、盲信の聖騎士が剣を収めたを見て、こちらも矛を収める。


「聖騎士ウィルよ」


 教王に呼びかけられ、ウィルはそちらに向き直る。


其方そなたの洗礼拝名を行う。正義の聖女も参列しなさい」


 神様、宗教を臭わせる単語すら、今の私には気持ち悪い。



 





 

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