第6話 叙勲、テロ計画

「んー」 


 御前試合は終わり、闘技場に併設された宿泊施設にユースは居る。貴族、高僧が利用する為の豪奢な飾りで目が痛い。


 ユースの目の前にはホケーッとした顔のウィル。バケツ型の兜は取って小脇に抱えてる。義手は外され、元のかぎ爪に戻っている。


「ん~」


 先程からユースは、ウィルのメイスを借り観察している。少女の細腕では持ち上げることも出来ない重厚さ。怪しげな光を放つ金属部。持ち手、木製部分も只の木では無い。


「えっと、確か話せないんだったな」


 確認すると少年は首を縦に振り、肯定。


「と、なると」


 少年の横に控えた太腕の大男。


「聞きたいことがあるんだが良いかな?」


「はい、何なりと」


 緊張の所為か、顔が青くなってしまっている。


「ユース様、一端落ち着かれては? あ、お茶です」


 リリーが人数分のカップを盆に乗せ、配る。おずおずと受け取る二人。


「リリー、灰皿は?」


「お客様の前で吸うおつもりですか?」


 にっこり笑った美女ってこんなに怖えのか……


「あ、私どもは大丈夫です。私も、吸いますから」


 後ろ頭を掻きながら、恥ずかしそうにアギラートが喋る。


「お、そうなの! 何吸ってんの?!」


 喫煙者仲間が増えて嬉しい。


「『西の風』っていう安煙草です」


「あー! アレ良いよね! 酒にあうのよ~」


 盛り上がってきた。所在無さ気な少年が可愛い。


「……あ、そうだ。このメイスさ、何で出来てんの?」


 材質等、何かしら普通で無いことだけが確か。


「はい、持ち手はまず神樹の枝を拝借しまして……」


「ハァ?!」


 何かリリーが滅茶苦茶驚いている。


「え? 貴方、あの創造神が植えたとされる神樹を枝をへし折ったのですか?」


 そういえば、転生したばっかの小さい頃。神父どもが神が植えた木がどうこう言ってたな。女神様、植樹活動やんのかよって思ってたっけ。


「……はい」


「開き直りますか!」


 更に驚くリリー。まぁ、彼。アギラートがやった事を例えるなら神社のご神木の枝をへし折ったようなもんだろう。


「バチ当たりだねえ、やるじゃん」


 これがギャルゲーなら好感度上昇してたぞ。


「金属はゴーレムのコアを引っこ抜いて溶かして固めました」


「チョコみたいに言うじゃん」


「……」


 リリーは口を開けたまま放心している。


「ゴーレムって確か。なんかの遺跡にしかいなくて、めっちゃ強かった気がするんだけど……」


 創歴以前の異物だとか。


「ウィルと材料集め行ったときに襲われて……気付いたらほぼ丸腰のウィルが倒してくれまして」


「コイツ本当に強いんだな?!」


 へこへこと照れながら頭を下げる少年。最高か?


「まぁ、アギラート。あの義手、このメイスも然り。君の技術有ってこそのウィルって事が分かったよ」


 もの凄いエピソードに半ば苦笑いしながら賛辞。


「あ、ありがとうございます」


「それで、だ。ウィル」


 少年の方へ向き直る。


「私は君を聖騎士にしたい。受けて、くれるかい?」


 闘技場で一回断られているため、及び腰になってしまった。女の子のお誘いを断るなんて、この野郎!


「……」


 少年が頭を下げる。


「よっしゃ! 市民権の手続きも早速はじめよう。あとその舌も治してやんないとな」


 決め顔でそう言うと、少年の顔に年相応の弾けた笑顔が浮かぶ。横で大男が泣いていた。


「試合見てたけど、さ。時代は鈍器! 無い方の腕は、義手に換装して魔改造よ!」


 興奮気味に言ってしまうのは転生前の職業病。


「よし、これで好き放題改造できる」


 ぼそっと義手について巡らせて思考が言葉で漏れる。


「?!!」


 ウィルが少し怯えてしまった。


「あ、そういえば義手から、アンカーを射出してたとき炎が見えたんだけど。アレって何?」


 涙をワシワシと乱雑に拭いながらアギラートが答える。


「あれは炎の魔石です。衝撃を与えたら火がついて、大きさと形を変えればあのように爆発させることもできるんですよ」


「ユース様の即席火起こしも同じ仕組みですよ」


 リリーが補足を入れてくれる。


「……イイこと思いついた」


 




 

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