隻腕奴隷、マッドな聖女の騎士となる ~元テロリスト聖女の異世界破壊活動記~

春菊 甘藍

プロローグ 転生者、女武器商人(元オタク)

創歴1425年

 歴史有る国、フィリア教王国。


 イスマニア大陸東西にまたがる大国でその歴史は数千年に渡る。強大な勢力を誇る一神教、フィリーア教を国教とし、周辺国家にもその影響力は大きい。信徒は周辺国家も含め数千万人に及ぶ。


 創造神フィーリアを信仰し、崇め奉る司祭兼教王をトップに据える。教王は王族の中から代々選ばれた女性のみがなる事が出来る。


 また教会の権力とは独立し、七人の聖女が存在。これらは創造神フィリーアが女神だったこと、その侍女が七人いて、彼女達はフィリーアと同等の関係を築いていたという神話を元になっている。


 この国の首都、聖都フィロソフィス。

 

 大通りを飾るは大闘技場。普段は奴隷身分に落とされた者を半ば強制的に戦わせる蛮族的娯楽施設だが、しかし同時に数多くの闘士達が己の野望を果たさんと乗り込む夢の舞台でもある。


 今回、第七聖女こと私。

 ユース・ティーツィア・スプリチウムが観戦する御前試合となっている。


 優勝者には名誉だけで無く、その出身や身分に関わらずフィリーア教王国の聖騎士に叙勲される。聖騎士は教王国の正規兵とは違い、聖女直属の私兵として扱われ、他とは一線を画す待遇が約束されている。


 聖女の守護者、もしくは番犬と誹る者もいるが闘技場には己が聖騎士に成らんと多くの闘士達が詰めかけている。


「んー、何でこんなに来ている……」


 私、ユースは転生者に該当する。

 まぁ、世の異世界転生の例に漏れず現世では死亡した訳だが。死因はトラックで轢かれたなどと生易しくはなかった。


 南節子みなみせつこという名で生まれ落ち、就職活動に失敗し、やっと入れたと思ったそこは非合法甚だしい総合武器商社。

 南洋諸島の島国の正規軍、現地のゲリラを相手に人殺しの道具を売りさばいていた。


 舐められないために、右手には刺青トライバルも入れた。仕事を重ねるに連れ、煙草の消費カートン数も増え転生前など立派なヘビースモーカーだった。


 「就職前は喪女だったのにな……」


 最後は、輸送艇が近海を根城にしている海賊に襲撃された。商品を取られる訳にもいかないため全力で抵抗していたらRPGロケットランチャーの直撃を食らい、粉微塵になって現世とはおさらばできた。


 糞溜めのような人生がやっと終わったかと思えば、まさかの異世界転生。

 もう一回人生リスタートかと思いきや、何だか胡散臭い連中に育てられ、しかも周りは私を聖女だ何だ褒めそやす。


 半ば状況に流され、今日は私の騎士を選ぶらしい。

 眼前には、汗臭そうな男どもが並んでいる。いや、中には魔女のような格好をした女性、中世騎士が連想される豪奢な装飾の施された全身鎧を着た者もいるではないか。


 私が反社喪女って知ったらこいつらどうなるんだろうな……


「ん?」


 会場、参加者達が整列する中。一際目を引く男がいる。


 背格好から見て少年だろうか。

 

 右手には大木をそのまま削り出したかの様な柄に、金属製の柄頭が付けられている武器。メイスと呼ばれるそれを軽々と片手で持っている。


 全身は一見粗末な皮鎧に見えるが、鎖帷子チェインシャツも織り込まれているようで、動きやすさを重視した実戦使用の品であることが窺える。


 そして何より彼に目線を集めさせる要因。その左腕だ。

 そこにあるはずのものは無く、無惨にも上腕半ばから切断されている。補う様に取り付けられたかぎ爪も何処まで役に立つのやら。


 この世界での知識が正しければ恐らくは、奴隷刻印と呼ばれる紋章がバケツをひっくり返した様な鉄兜には刻まれている。一番最初の犠牲者になるとしか思えない様相の彼は列の最前で、私のいる特別歓待席からは見え易い。


 多くの参加者が己の野望を満たさんと濁りきった瞳を私に向ける中、一人その少年は観客席の端にいる少女に手を振っていた。


「ん?んんん~!!何か、今良いものを見た気がするぞ!」


 一体どんなシュチュエーションなんだ……

 妄想が止まらない。


「あの面白そうな子、勝ち上がってくんねぇかな……」


「聖女様、お言葉使いにはご注意ください」


 横にいる目付役の侍女兼修道女が小言を言う。


「うるさいなぁ、わーってるよ」


「そういうとこですよ」


 年は変わらないのに、小言ばかり言われるものだから自然と反抗もしたくなる。

 小姑キャラかな?


「もう、リリーは今日も可愛いなぁ!(キレ気味)」


「うっ、」


「え、可愛い……」


 ブロンド髪に碧玉をはめ込んだかの様な瞳の美少女が恥じらう姿は尊いなぁ!

 普段の大人じみた態度とのギャップも相まって、最高だ。


 腹の底から鳴り響くような重低音。

 御前試合が始まる。


「さて、どうなる事やら……」


 転生前の職業の所為で、血臭と怒号には慣れている。むしろ好物の部類と言っても過言ではない。上がって来たテンションをそのままに、懐からお手伝いさんに買ってきてもらった紙巻き煙草を出す。


 本当に、異世界にも煙草があって良かった。一本咥え、一緒に買ってきてもらった即席火起こしなる便利グッズを取り出そうとする。


「あ、また煙草吸ってる! お体に悪いんですよ!」


 咥えた煙草を美少女小姑に取り上げられる。


「一本くらい良いじゃん~!」


 煙草を取り返そうと手を伸ばす。


「おらぁ!」


 身長はリリーの方が私より高い。そのまま手を伸ばしても届かないので、ちょうど目の前にあった双丘を鷲掴みにする。


「ひっ、何するんですか?!」


「ブフッ」


 ぶたれちゃったよ……


 百合百合しい歓待席を余所に、血風吹き荒れる御前試合が幕を開ける。



 



 


 


 

 

 

 

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