0009:対面
倒れ込んだノグチはいつの間にかまた医務室に運び込まれていたらしい。
そして再び自分を覗き込む女の顔…名前は確かジュリーと言ったはず。
置かれている状況に
「すみません、今の状況を教えてくれませんか?」
聞いてみるも返事はない。最初に目覚めた時もいきなり現れた不審者であるということを抜きにしても冷たかったが一体何をしたというのだろう。
これ以上喋りかけても得られるものはなさそうだったので黙っているとジュリーはどこかへ去っていってしまった。
ほぼそれと入れ替わりのようなタイミングで部屋に入ってきたのは背丈は2mはあろうかという偉丈夫。陶器製の白い狐面をつけており、その狐面の片側は銀色の棘で覆われている。
「貴様が能力の使いすぎで倒れたとかいう新入りのノグチか。全くもって貧弱極まりない。最近の新入りは皆そうだ。生まれた時から平和であるがために組織入るまでは日々の鍛錬も行わず、貧弱な肉体に貧弱な精神を宿して特に何という目標も持たずに生きてきた。戦乱の世で日銭を稼いで生きてきた人は皆一様に持っている芯といったものを持ち合わせていない。正直貴様のような貧弱なものを見ると苛立ちしか覚えんのだが運悪く貴様の教官となってしまった。」
初手、こちらが何も言わぬうちにいきなり叱責を受け、ノグチはたじろいだ。どうやらこの狐面の(声から察するに)男は、新入りであるノグチを教える立場に有るようだがどうも第一印象は悪いらしい。ノグチが圧倒されて黙っていると
「何をぼさっと寝ている。教官である私が直に迎えに来てやったのだから早く支度をしろ。マナーの国、ヤシマで社会人をやっていたと聞いていたが彼の国のマナーとはそんなものなのか。それとも社会人というのは嘘で引きこもりでもしていたのか。なんにせよ貴様の行動一つで私の中のヤシマ人像が変わりかねないということを自覚して行動をしろ。」
と、またも叱責。それにしても一言二言三言ぐらい付け足さなければ物を言えないのか、と少しイラッとするノグチだったが教官だという男に今から噛み付いてすでに悪い印象を更に悪くすることもないと思い、黙ってベッドから起き上がり、枕元においてあった手袋をつけ、既に着させられていた簡易な道服のような衣服の端々を整え、これも置いてあった靴を履き、狐面の男の前に立つ。
「立ち姿だけは立派なものだな。だが、この組織での気をつけでは手のひらはこちらに向けるのだ。これは我が手に何も触れていないということを示す意味がある、このぐらい覚えておけ……どうした?メモを取らなくてよいのか?私が言うことはすべて定期考査の範囲だ。」
早速指摘が飛んでくる。しかし、ノグチは少し男の物言いに違和感を感じた。これは男も同じのようで仮面に手を当て、気持ち顔をそらしつつ極めて渋い声の調子で
「待て、新入り、貴様は誰に石を飲まされた?」
と聞く。恐る恐るノグチがエディ・ロックの名を口にすると男は絞り出すように
「またあの男か…いやしかし…であれば当然のことかしかしあまりにも…こちらは…だというのに…」
とぼそぼそと呟き、顔をこちらに向ける。
「悪かったなノグチ。どうせあの男のことだから我々の存在理由もおざなりな説明で済ませたのだろう。どうやら私が貴様に説明しなければならないことは山積みのようなので少し移動する…なにか疑問でも?」
男はノグチがはっきりしない顔のまま立ち止まっているのを見て問いかけるのでノグチはためらいがちに
「あの…お名前をまだ聞いていない気がするのですが…」
と聞く。男は小さく鼻を鳴らし、言った。
「まだ貴様は我が名を明かすに十分な人間だと評価していない。名を明かしてほしくばそれにふさわしい人間となれ。当分は教官とでも呼べばいい。」
この狐面の教官の攻略は難しそうだと感じるノグチだった。
教官について入った部屋には30代までぐらいと見える様々な人種の男女が座っていた。十人はおらず、皆ノグチと同じ道服を着ていた。
教官はそのまま部屋の前方に有る教壇に立ち、教卓に手を置き
「これで揃ったな。改めて、貴様らの教官を務める者だ。名は貴様ら全員が十分に組織の人員として育ったと私が認めた時に明かそう。さて、私の名は明かさないが、貴様らは互いに相手の名を知っておく必要がある。私から見て左端の貴様から一人ずつ壇上に上がり、自己紹介をしろ。その際、必ず自分の本名、出身地、発現している能力、年齢を含むこと。その他は知っておいてほしいことを言え。」
と告げた。その声を受けてまず一人立ち上がる。浅黒い肌のパチリと目を開けた女だ。トップバッターに指名され、いささか緊張した様子で壇上に上がる。
「えっと…私の名前はウィルマ・コスナー、21歳です…えと…ヴェスパ出身です。能力は砂の硬さを変え、自由な形にする能力です…し、知っておいてほしいことは…私、こう見えても怒りっぽいのであまり怒らせないでください…」
ここまで信用のない自己紹介も聞いたことがない
続いては金髪碧眼のがっしりとした男、そして明るいブラウンヘアーの女、黒人の人が良さそうな男、最後にこれもまた金髪の女。こうして五人の自己紹介が終わり、ノグチの番が回ってきた。
そして、ノグチが自己紹介をしようと立ち上がった瞬間、部屋全体が大きく揺れた。
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