第6話 調子に乗ると命を落とす
「ねえノア!まだ焼けてないの?」
「そうだそうだ!早く食いたい!」
湖のそばで魚の串焼きの焼き上がりを待ちきれない2人が、さっきからわちゃわちゃと騒いでいる
「焚き火は日が弱いから火が通りにくいんだよ!」
ここまで来て生焼けの串焼きなんて食べたくはないからな
俺はそう思うが、2人は違うらしい
「何でもいいから早く食おうぜ!腹減った」
「ハリーに賛成! もうペコペコなのよ!」
こんなやり取りをここ3分程繰り返しているが、あまりにもうるさいので、情緒もクソもないが、魔法で火を通すことにした
「はいよ!もういいぞ!」
「よっしゃ!」 「やりー!」
俺がOKを出すと、2人はすぐに、焼きたての魚にかぶりつく
「「あっちぃーーー!」」
何とも仲がいい事で、2人とも舌を火傷したらしい
「お前ら、今焼いたばかりだったろ、そんながっついたら火傷するに決まってるだろ」
俺は小言を言いながら、魔法で氷を出して2人に渡す
「うるせーな!美味そうだったんだから仕方ないだろ!」
「そうだぞ! 元はと言えばあんなに焦らしたノアが悪いんじゃないの!」
おいおい、自分の愚行を人のせいにするなよ!
「んなわけ無いだろ、人のせいにすんなよチコ」
そんなことを言いながらも、俺も焼きたての串を手に取り、少し冷まして背中側からかぶりつく
すると途端に、淡白な旨みが口いっぱいに広がり、少し黒ずんだ皮の焦げ目のパリパリの食感とふわふわの身の口答えが絶妙で、驚くほど美味かった
「なんだよこれ!めちゃめちゃ美味いじゃん!」
「な! マジで美味すぎるぞこれ!」
「ふふ、ここに来て正解だったわね!」
本当にな、今日は2人が冒険をしたいって言う理由も何となく分かった気がする
街のすぐ近くの山に登るだけでもこんなにワクワク出来たんだ、もっと遠くの色んな国を見て回るのも悪くない
まぁ、今はこの街付近の冒険で、俺は事足りるけどね
ーーーーーーーーーー
だが、冒険に憧れるこの2人がこんなにたのしい経験をしたのだから、気持ちを抑えられる訳が無かった。
串焼きを食べ終えると、2人はもっと奥に行こうと言い出し、いくら止めても全く言うことを聞かない
さすがに2人だけで行かせる訳にもいかないので、俺も嫌々だが着いていく
太陽が真上を通り過ぎているので、だいたい午後の2時くらいだろうか
俺たちは魚を食べて1時間ほど奥へ進んで来た
ここら辺までくると人の往来が減るのか、今まであった土の道も無くなり、獣道のような草をかき分けた通路を進んでいる
とその時
パキンッ! パキンッ!
と、落ちた枝を踏み荒らすような足音が聞こえてくる
俺たちは背が低いので、しゃがんで獣道の周りの草に隠れながら、小声で話し合う
「おい、今の聞こえたか?」
「うん、姿は見えなかったけど、確実に何かの足音だった」
「だよな、よし!偵察任務だ、奴の正体を確かめるぞ!」
「了解!」
と、テンションの上がりきった2人は、さっきの偵察ごっこを続け、足音のした方へ行こうとする
「おい! さすがにこれ以上はダメだ! ここは未知の場所、俺たち子供が敵わないものも多い!」
なんとか止めようと、必死になって声をかけていたが、どうやら遅かったらしい
プギュイィーー!!
足音のした方向から、けたたましい鳴き声がした直後、先程より断然早い速度で、こちらに向かってくる足音が聞こえる
「まずい! 逃げるぞ!」
俺の言葉を合図に、3人で来た道を一気にかけ降りる
2人は動きづらいのか、持ってきていた剣を適当に放り捨て、全力で走る
と言っても所詮3歳児の全力なので、剣を捨てたところでなんも変わらない!
後ろからバキバキと枝葉をへし折りながら追いかけてくる何かは、速度を落とすことなくついてくる。
こんな死にものぐるいな追いかけっこなんて初めてだ!!
恐怖で時々足が絡まりそうになるのを必死で堪えながら、死に物狂いでただ走る!
必死に走り続けると、けもの道を抜け、先程も通った、小学校のプールくらいの広さの、少し開けた場所に出た!
咄嗟に後ろを振り向くと、2m近くある二足歩行の豚が、けもの道から飛び出てきた
「オークだ!」
そこに居たのは、ファンタジーでは定番の魔物だった
しかもその両手には、さっき2人が捨てた剣がガッチリと握られている
「ダメだ、走ってもすぐ追いつかれる、2人とも武器は?」
「俺はちっせえナイフくらだ!」
「私も同じ!」
「くそ、でもないよりマシだ!」
俺たちは立ち止まり、奴の方へ振り向くが、オークは止まる事無く、こちらに突進してくる
「「「うわぁっ!」」」
俺は咄嗟に、3人の追い風になるよう強風を当てた!
その風の勢いで吹き飛ばされ、なんとか突進はかわす!
だが状況が良くなった訳でもない
奴は両手に持った剣をでたらめに振り回し始めた
その体躯から放たれる斬撃は、技術もクソもないが、力だけで木をへし折るほどの威力だ
自分より大きな相手と戦う場合、まずは足元を狙うのが定石だが、剣が危なく近寄れないので、とりあえず俺は、氷の槍を奴に放つ
だが、オーク目掛けて一直線に飛んでいく氷の槍は奴に当たることなく、剣で弾かれてしまった
「くそ、図体の割に素早いぞこいつ」
ハリーとチコもこんな状況だがさすがは騎士の子供たち、ブルブルと震え、焦ってはいるが、オークの動きの隙を探しながら、この開けた広場をチョロチョロと逃げ回る
俺達は何度も奴の剣の餌食になりかけながらも、なんとか魔法の補助でかわし続けていた!
そこで、俺はもう一度魔法を使う!
「さっきの攻撃は完全に狙って防がれた」
なので今度は、複数の氷の槍を一斉に、そして途切れることなく次々と作り出し、奴の上半身を狙い放つ
数十の槍が飛んでくるのを見て、オークもさすがに全部を弾けないと判断したのか、防御の構えを取り隙だらけになった
オークのその行動を見て俺のやりたい事を察したのか、2人は全速力でオークに駆け寄り、足のアキレス腱をナイフで切りつける
屈強な肉体を支える足の健がきれ、ブチブチと鈍く気味の悪い音をたてながら、オークは前のめりに倒れた
これを好機と、俺は一気に土魔法で大質量の土の塊を作り、密度を上げて固めたものを、奴の頭上に落とす
ドバァッーン!!
ものすごい音と振動がし、辺りの鳥たちが一斉に飛びたつ
「やったのか?」
3人で倒れたオークを見ると、少しコースが外れたのか、ちょうど頭の右半分が、下敷きになり潰れている
「やったな!ノア!」
「そうみたいだね」
「私たちだけでオークを? やったぁーー!」
俺たちは頭半分が潰れたオークを見て、勝利を確信し、不用意にも奴のそばで喜びあってしまった
次の瞬間、最後の力を振り絞ったオークが、倒れながらも左腕で剣を振るった
俺は位置的にその光景が見え、心の底からゾッとしながら、ありったけの魔力をつぎ込み、無属性のバリアの魔法を、3人とオークの間に、展開する
間一髪間に合い、展開した直後にバチーーッン!!と音を立てて、剣は止まった
2人は剣がバリアに当たる音に心底驚き、腰を抜かしてしまう
俺も魔力を使い果たし、急激に気だるさが襲ってきて、疲れもあったのだろう、その場にへたり込んでしまった
「2人とも生きてる?」
「あぁ、なんとか…」
「ノアのおかげで…」
3人で山の木々に囲まれた開けた場所に寝そべりながら、お互いの安否を確認する
こうして、俺達の初の戦闘は、苦い経験となり幕を閉じた
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