43話:魔王国ゲルニカ
ワイバーンの襲撃、と言う名のボーナスステージの後。
船の旅は特に問題なく過ぎていき、無事にゲルニカに着く事ができた。
本日泊まるのは、ゲルニカにおける人間側の唯一の砦。
いわゆる、最前線と言うべき場所だ。
もっとも戦争が終って以降、魔族との争いは無い為、現在は無人だったが。
魔族に壊されている可能性も考えていたが、どうやら無事だったらしい。
まだ夜は肌寒い季節だし、屋根の下で眠れるのはありがたい事だ。
各々荷物をまとめて船を降り、ひとまず港から砦に向かった。
特に何事もなく、三十分ほどで到着。
森の入口に堂々と佇むそれは、記憶にある姿より少しボロくなっていた。
ロクに手入れもされていないのだろう。まあ、後で簡単に掃除するか。
ひとまず入口まで向かい、そこで腰を降ろす。
とりあえずの目的地に到着し、みんな少しほっとしていた。
「ああ……陸地、最高です」
「…地面があるのは落ち着くね」
「同感だ。さて、とりあえず今後の話をしたいんだが」
そこらの石を拾い、簡易的な釜戸を作りながら話しかける。
手頃な石が多いからこちらは問題無いだろう。
泊まる場所も確保出来ているし、日のある内に先の行動予定を纏めておきたいところだ。
「んー。言うて、旧魔王城に行く以外に何か方針があるんか?」
「特に無いな。付け加えるなら、俺が常時アガートラームを顕現させておくってくらいか」
「アガートラーム……アレイさんの加護ですよね?」
「ああ、こいつを餌にして向こうが出てくるのを待つ」
ぽん、と右腕に装着した相棒を軽く叩く。
目的地の当てが無い以上、やはり向こうから来てもらうのが一番だろう。
目の前に餌をぶら下げてやれば、あの狂犬は喰らい付いてくるはずだ。
「…地味だね」
「地味やなあ」
「地味ですね」
だというのに、司、隼人、詠歌に突っ込まれた。
「お前らな……他に方法があるなら言ってみろ」
「…全力で突っ込む?」
「以下同文やな」
「私も司君に賛成です」
「却下だ、この脳筋トリオめ」
頭が痛い。こっちは真面目に話しているのだが。
いやまあ、司なら出来そうではあるが、それは方針とは言わないし、高い確率で俺に被害が出るので却下だ。
こっそり上げていた手を下ろしている辺り、楓も同意見だったようだ。
この場に一般人は俺とリリアしかいない。
「リリアは何かあるか?」
「あの、ここで待ち伏せする訳にはいかないんですか?」
「それも一理ある。だが、それをした場合、下手したらこの砦が使い物にならなくなる。
司の全力とか、最早天変地異レベルだしな」
「ああ……少し、納得しました」
いずれ戦うにしても、砦には出来るだけ被害が出ないようにしたい。
最前線の砦が勇者に潰された、なんて事になったら大事だからな。
いや、手加減くらいするだろうが、全力を出す必要が出てくるかもしれないし、危険は避けたい。
「とりあえず、食料調達しないと夕飯が厳しいな。肉が食いたいなら頑張るしかない」
「あ、そうだ。亜礼さん、この砦ってお風呂ありましたよね?」
詠歌の質問に、リリアと楓がぴくりと反応する。
船旅中は風呂なんて入れないからな。気持ちは分からんでもない。
精々が湿らせた布で体を拭く程度だし、旅になれているとは言え、女性陣は思うところがあるだろう。
「あったと思うぞ。どちらにせよ薪を集めない事には使えないけどな」
「分かりました、集めましょう。是非とも」
「じゃあ二手に別れるか。司と詠歌と楓は周辺探索しながら薪拾いを頼む。
隼人とリリアは俺と食料調達だ」
本当なら俺も薪拾いに参加したいが、獲物を解体出来るのが俺だけだから仕方ない。
狩って来た獲物を焼くだけでいいなら楓に頼めば一瞬だが、血抜きしてない肉は臭くて硬い。
折角なら美味い物が食いたいところだ。
「……と言うか、良い機会だからお前らも解体手順は覚えるか?
冒険者として生きるなら知ってた方がいいと思うが」
狩った後、毎回解体屋に持って行くのも金がかかるし面倒だ。
それに、覚えておいて損はないと思う。
旅をしたいと思うなら、だが。
「…俺がやると肉が無くなる」
「私は司君と街で生きるので」
「生きてるの、は、ちょっと、怖い、かも」
この三人はまぁ、予想内だ。三人とも料理が出来ないし、覚える気も無いのだろう。
「ふむ。隼人とリリアはどうする?」
「俺は知っときたいなあ。美味いもん食える方がええし」
「あ、同じくです。お願いします」
「じゃあ今日は手順見とけ。明日は一緒にやってみよう」
とりあえず、近辺に何が居るかにもよるし、少し調べてみるか。
昔は猪や蛇が居たが、スライム種とかスケルトンとか食べられない奴も多かった。
生態系が変わってる可能性もあるし、早めに森に行くとしよう。
まあ、肉が取れなかった時は夕飯が乾燥豆と干し肉になるだけだし、あれはあれで不味くはないから、必須ではないが。
「なら早速狩りに行くか。日暮れまでには終わりたいしな」
狩りに荷物の入った袋から必要な縄や袋、簡易台車を取り出す。
これが無いと狩った獲物を運ぶのに苦労するので、最近では必須のアイテムだ。
不具合が無いか軽くチェックした後、改めて森をみる。
恵みの森ほど深くは無いが、それでもかなり大きな森だ。
木漏れ日が差す中、ユークリアでは見ない種類の草花が咲いている。
聞こえてくる鳥の鳴き声も、どこか不気味に聞こえる。
どうやら長らく人が足を踏み入れて無いようだ。少し用心を強める必要があるか。
まぁとりあえず、警戒しながら狩りに行くとするか。
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