40話:今後の方針


 しつこく楓を狙う目付きの鋭い海鳥を追い払った後、自室で隼人と今後の話を詰める事にした。


 昔からこういった事は隼人や京介と話して決めている。

 他の奴らより冷静に物事を見ることが出来る奴らだからな。


 まぁ今のところ、ゲルニカに着いたら旧魔王城へ向かう、程度の指針しか立っていないのだが。

 何せ目的のアイシアがどこにいるのか全く分からない。

 かと言って、手当たり次第探すにしてはゲルニカ大陸は広すぎる。

 他に心当たりが無い以上、知っている場所を目指すしかない。


 とは言え、その辺りは少し楽観視している部分もある。

 実は、アガートラーム使用時に撒き散らされる魔力光は、ある程度近くに居れば探知出来る。らしい。

 この一年間で出来るだけ相棒を使わなかった理由もそこにあるのだが、逆に言えばゲルニカでも今の調子で使っていれば向こうが勝手に見つけてくれる。


 あいつは何を考えているか分からない部分はあるが、その行動理由の一番大きな所には俺が居る筈だ。

 俺の動向が分かれば仕掛けてくるだろう。


 言ってしまえば、釣りと同じだ。

 俺という餌を見せびらかし、食いついた所を仕留める。

 まあ、対応が遅いと餌を食われるだけじゃすまないのだが。


「なあ、向こう着いたら徒歩なんやろ? 楓、大丈夫やろうか」

「あー……大丈夫だとは思うが、どうだろうな。この一年で鈍ってる気もするしな」

「けどずっと魔法で飛ぶってなると、移動中はあの性格中二病なんやろ?」

「……まあ、最悪、俺が背負うさ」


 楓は魔力以外のステータス値が極端に低い。

 体力や筋力に関しては同世代はおろか、歳下の子にすら劣るだろう。

 徒歩での旅となると、行程に着いて行くのが難しいかもしれない。

 常に飛行の魔法を使う事も可能ではあるのだが、その場合は問題が一つ出てくる。

 楓は魔法使用時、性格が切り替わるからな。


 楓が女神に願ったチートは『魔法使いになりたい』というシンプルなものだった。

 これが女神フィルターに通された結果、楓は『膨大な魔力を持つ人格』という加護を手に入れた。


 本人命名、『天衣無縫ペルソナ

 魔法使用時のみならず、戦闘時やテンションが上がった時、自動的に性格が大胆不敵なものに切り替わるらしい。


 この人格変更、記憶は共有しているらしいので、正確には中二病発症といった状態なのだが。

 最初の頃は元に戻った際によく赤面して逃げ出していた。

 いや、懐かしいものだ。


 ともあれ、常にあの状態の楓の相手をするのは正直疲れる。

 そうなるくらいなら背負って移動した方が精神的にはまだ楽だ。

 一応、旧魔王城まで飛んで行き、そこで気長に待つという手もあるにはあるのだが……あの辺りは魔王の影響か魔物も出ない為、食料の補填ができない。出来るだけ避けたい選択肢だ。


「いっそソリに乗ってつーちゃんに引いてもらうのもありやないかなー」

「……絵面が酷すぎるな、それ」


 出来そうではあるが。

 と言うか、一番移動効率が良さそうで困る。


「……まあ、考えたところで昔と同じだな」

「せやな。のんびり行こか」


 色々考えたところで結局は何も変わらない。

 今まで通り、出切ることをするしかない。

 同じ結論に達した隼人と二人で苦笑いを浮かべた。


「ところで、何でお前たちが来たんだ?」

「んー。まー他に動けるのもおらんやったからなー」

「それはそうだろうが……全員で来る必要あったか?」

「どやろなー。戦力的にはつーちゃん送れば問題ないとは思ったんやけど……

 そうなると詠歌は確実に着いてくやろ?

 阿礼さん一人で三人の面倒見るの、大丈夫なんかなーって」


 なるほど。確かに地獄絵図だな。


「よく来てくれたな、隼人」

「まあ、こっちの事は任せてくれたらええから。阿礼さんはリリアさんに着いてた方がええんちゃう?」

「いや、あっちは船酔いさえ治れば大丈夫だろ。芯が強いからな」

「ふーん……えらい信用しとるな?」

「一ヶ月一緒に居たんだ。ある程度は分かってくる」

「……そう言えば、その辺も歌音さんがキレとったな。女性と二人きりで旅をするなんて、とか何とか」

「……あぁ、なるほど。どうしたもんかね」


 ブチ切れてる妹の姿が目に浮かぶようだ。

 あいつもなぁ。ブラコンさえ治れば引く手数多なんだがなぁ。

 て言うかそろそろ愛想つかされても仕方ない気はするんだがな。

 俺に似ずよく出来た妹だ。もう少し、自分のことを考えても良いと思うんだが。



「歌音さん、あれが無ければなー。

 普美人で頭良くて性格も良いって、中々おらんと思うんやけど」

「アレがその全てをぶち壊してるからな」

「なー。て言うか改めて考えたら、身内の女性陣クセ強いよなー」


 歌音ブラコン蓮樹ハイテンション厨二病詠歌司至上主義解体お姉さん

 なるほど。確かにロクなのがいねぇな。

 遥だけはまだマシだが。


「見た目だけなら美女と美少女の集まりなんだがなぁ」

「まー見とる分は楽しいけどなー。退屈だけはせんわ」

「まぁ、騒がしいが、確かに退屈はしなかったな」


 以前の旅を思い出す。

 辛い事や苦しい事も多々あったが、仲間たちと笑いあった記憶が一番鮮明だ。

 何だかんだ言って、俺も楽しかった。

 だが、それを繰り返す訳にも行かない。


 今回はあの時とは事情が異なる。戦争が集結した今、元敵地にわざわざ連れて行く必要は無いだろう。

 適当な理由を付けて子ども達を返してやりたい所なんだが。


 さて。どうしたものか。

 ゲルニカに着いて早々、決着が着けば話は早いんだがな。


「とりあえず、向こうに着いたら野営場所を確保するところからだな」

「せやな。魔王城まではそこそこ距離があるし」

「砦が使えると良いんだがな。壊されてなければいいが」

「最悪野宿でもええんやない? 俺らみんな慣れとるし」

「そうだな。まあ、行ってみない事には何も分からんか」


 いつでもそうだ。結局のところ、やってみない事には分からない。

 もう少し安定した未来が欲しいものだが、このパーティに平穏という言葉は到底似合わない。

 まあ、暴走しないように軌道修正だけはしておく必要があるか。


 それでも、正直なところ。

 心強いと思ってしまう辺り、俺もダメな大人だな、と思う。

 出来れば、子どもを頼らずに済ませたいものなのだが。

 やはりもう少し、自分を鍛え直す必要があるのかもしれないな。

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