【パイルバンカー】異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年が、残酷で優しい世界で二度目の旅をする物語。仲間たちはチートだが俺は大して強くもないし、英雄なんて柄じゃない〜
@kurohituzi_nove
1話:意志を貫く力
馬車で王都ユークリアに向かう旅の途中。
平穏そのものだった商隊護衛の依頼中に異変が起こったのは、出発から三日目の昼頃だった。
先頭に居た商隊護衛のリーダーであるゴードンが、慌てた様子でこちらに駆けて来る。
「アレイ、ゴブリンの群れだ。二十匹はいやがる。ありゃあボスがいるな」
「……おいおい、マジか」
ゴブリンは群れる魔物だと言っても、通常は多くて七、八匹程度までしか増えない。
奴らは増えすぎると群れの統率が取れなくなり、仲間同士で争いだすのだ。
だが、例外がある。
こいつが群れを統率してるとなると、非常に厄介だ。
「くそったれ……アイツはデカい上に強化魔法まで使いやがるからな。馬車じゃ逃げきるのは難しいぞ」
奴等が通った後には草の根も残らないと言われる程の脅威。
ゴブリンの
少なくとも、冒険者数人でどうにかなる相手では無い。
癖で頭を掻きながら考えていると、不意にゴードンが悪人面で笑いかけてくる。
「おいアレイさんよ。提案があるんだが」
「あぁ、なんだ?」
「俺と何人かが残って足止めをする。お前は王都から救援を呼んできてくれ」
その言葉に眉をひそめた。
つまりゴードンは、自分達が囮になると言っているのだ。他の仲間たちを無事に逃がす為に。
「おい待て、早くて二日はかかるぞ。勝算はあるのか?」
「ない。だがまぁ、全滅するよりゃ良いだろうよ。なぁお前ら?」
護衛隊を振り返りながら叫ぶゴードン。
それに対して周りの連中は、
残れば死ぬと分かりきった状況で、それでも尚、笑顔を浮かべて。
ああ、ちくしょう。馬鹿野郎共が。
「くそったれが……おい、俺の代わりに誰か一人寄越せ。伝令はリリアとそいつに任せる」
「……おいおい、お前、正気か? くたばっちまうぞ?」
「正気だ。勝算も、まあ……無くはない」
そうだ。人間でも魔族でもゴブリンでも、群れの頭を潰せば混乱が生まれる。
その隙を突けば何とか逃げ延びれるだろう。
問題はその群れの頭、ゴブリンロード自体が強力な魔物だという所だろうか。
身の丈五メートルを越える巨体。
鉄製の長剣ですら両断できない程に太い腕は、素手で巨木をへし折るほどの
体全身が鋼に勝る強度を持っていて、通常の武器では到底太刀打ちできない。
さらには魔法を使える程度に頭も良く、部下たちへの指揮能力も高い。
正真正銘の化け物。上位種という呼称は伊達ではない。
はっきり言ってしまえば、このまま逃げてしまいたい。あんな恐ろしい化け物の相手なんてしたくない。
俺は英雄なんて柄じゃない、ただの一般人なのだから。
三年前に地球から召喚された普通のサラリーマン。
十英雄と呼ばれるリアルチートな仲間たちの中に混じっていた異物。それが俺だ。
一般の冒険者と比べても精々が中堅辺りだろう。
下手をしなくても普通のゴブリンの群れ相手ですら苦戦する、その程度の力しかない。
しかし、引けない理由があって、戦う為の力があり。そして義務はなくても、守りたいものがある。
それならば、俺に戦う以外に選択肢は無い。
〇〇〇〇〇〇〇〇
正面方向、遠くに見えるのは二十匹程のゴブリンと、一際デカい
商隊の馬車は既に離れ、残ったのは俺を含めた四人だけだ。
リリアには伝令役を頼んであるが、正直なところ逃がすための方便でしかない。
援軍が間に合うはずも無いのだ。
冒険者ギルドも騎士団も、俺達を助けに来るよりは王都の防衛に人を回すだろう。
つまりは、絶望的な状況という訳だ。
さて。良くて地獄、悪くて御陀仏。
分の悪い所か、敗けが確定した賭けだ。
今更のように恐怖が込み上げて来るが、こんなものは既に馴れきった感覚でしかない。後悔なんて幾らでもある。止めとけば良かったと足が震える。
それでも、引けはしない。
「ゴードン、二つ頼みがある」
前を見据えたままで隣に立つゴードンに話しかけた。
緊張を隠せない自分の声色に、内心で苦笑する。
「おう、なんだ?」
「一つ。これから起こることは出来るだけ秘密にしてくれ」
「あぁ? そりゃ構わねぇが……」
体内を循環する微々たる魔力を右腕に廻す。
体が燃えるように熱い。
しかし、頭は冷静でいられるよう、心を強く持つ。
しくじれば死ぬ。だが、そんな事はいつもの事だ。
「二つ。久々過ぎて加減が分からないからな……まぁ、俺が倒れたら、残りは頼む」
次第に高まる懐かしい感触に、震えが止まる。女神がくれた使い勝手が悪い加護。
『意志を貫く力』
右腕を真横に突き出して、その名を告げた。
「起きろ、アガートラーム」
蒼い魔力光を纏い、右腕に顕現する銀色の手甲。
肘から手の甲まで張り出した、巨大な鉄杭。
肩から背面にかけて並んだ
『
この世界に転移する時に、女神が俺に与えた加護。
最低に使い勝手の悪い、最高の相棒。
その無機質な相棒の姿に、懐かしさと頼もしさが溢れてくる。
さあ、やるか。
「ちょっとばかし、行ってくる」
轟、と背中で魔力が爆発する。
背面から蒼い焔を撒き散らし、俺は低空に投げ出された。
車に轢かれたような衝撃を突進力に変えて突き進む。
急加速のせいで暗くなった視界の中。まずは、先頭の一匹。
爆発推進で得た力を乗せ、左の手甲でゴブリンの顔面を殴り抜く。
その勢いは凄まじく、そのまま背後の別個体を巻き込んで木々に叩き付けられた。
グシャリと生き物が潰れる音に、耳を覆いたくなるような断末魔。
しかしそれが聞こえて来る頃には、俺は他の標的を殴り飛ばしていた。
圧縮された魔力を背面から吐き出すことで超加速、その速度のまま敵に突貫する。
上から蹴り飛ばし、吹き飛んだところに追撃の拳。
爆発推進の速度と遠心力を伴い、大きく振りかぶっての一撃でゴブリンの頭が地面にめり込む。
荒々しく原始的で馬鹿げている、俺だけの戦い方。
武器は使えない。魔法も使えない。
それでも戦い抜くための、女神の加護。
『意志を貫く力』
それは、臆病な俺が戦いを恐れない為の加護。
そして、何者をも穿く一撃特化の攻撃手段だ。
弾丸のような速さと威力でゴブリン共を殲滅していく。
急加速から蹴り上げ、遠心力を付けて殴り飛ばし、その
攻撃を終えた次の瞬間には既に離脱しており、続けて他のゴブリンへ飛び掛る。
振るわれたゴブリンの棍棒を弾き、カウンターで吹き飛ばしながら、振り下ろされるゴブリンロードの一撃は加速して避け続けていた。
爆発加速の反動で体中が軋む。
そろそろ終わらせなければならないようだ。
「やるぞ! 『
最大の一撃を撃ち出す為に相棒に告げる。俺の叫びに対して、相棒は機械的な声で応えた。
ーーー『
十数匹のゴブリン達を撥ね飛ばし、
ゴブリンロードから飛び来る火球や棍棒の一撃は急激な加速と無理矢理な軌道変更で躱していく。
その間も勢いは衰えることは無い。
ーーー『
「今のありったけをくれてやる!」
狙うは
振り回された腕を蹴り飛ばした時、恐怖と驚愕に満ちた目を向けられた。
俺を遮るものは、もう何も無い。
ーーー『
相棒が告げる、終わりの言葉。
その合図と共に、最大速度で突撃する。
ブースターの爆発音、風を切る音、デカブツの悲鳴。様々な音が鼓膜を揺るがす。
それらを置き去りにして、鋼の如き強度を誇る化け物に向かって右手で殴り付けた。
「終わりだっ!」
圧縮された魔力を爆発させ、手甲から巨大な鉄杭が凄まじい勢いで撃ち出される。そして。
龍の咆哮に等しい轟音が、世界を揺るがした。
〇〇〇〇〇〇〇〇
蒼炎の余剰魔力を噴出しながら、ギャリギャリと地面を滑走。
脚甲が摩擦で火花を散らしながら距離を離す。
やはり久しぶり過ぎて感覚を忘れていたようで、ただの一撃で右腕が折れてしまった。
たぶん両足もやられているし、全身が痛い。
けれどもまあ。俺にしては上出来だろう。
ゴブリン十数匹とゴブリンロードの上半身を道連れなら、そう悪い戦果ではない。
残りの奴らは、申し訳ないがゴードン達に任せるとしよう。
そんなことより、久しぶりに全力を出しすぎた。もう魔力が欠片も残ってない。
慣性のまま滑ってゆき、木に激突。
止まった拍子に全身に激痛が走り、俺はそのまま意識を手放した。
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