呼び出された先で出会うのは

「お待たせいたしました。このお手紙は、あなたですか?」


 呼び出された場所に、男子生徒がいた。背が高く、ブラウンの髪。アンナに背中を向けて立っているので顔は見えないが、なんか嫌な予感がする。


「何のご用件でしょうか?」


「先週のことを謝りたいと思いまして」


 そう言ってクルリと振り向いたのは、無理矢理キスをしようとしたトニーだった。

 バカバカバカ、クロのバカ! やっぱり来るんじゃ無かった。どうすんのよ!


「殿方が力に任せて無理強いするなど、許されることではありません。どうしてあのような破廉恥なことをされたのです」


 怒りに声が震えないよう、慎重に話す。


「それは……あなたの魅力に、魂が震えてしまったのです。この魂の慟哭を押さえることが出来ず、あなたのその美しい唇に吸い寄せられ、そう、まるでミツバチが蜜に吸い寄せられるかのごとく――――」


 はい?

 何言ってるんでしょうか、この男。

 急にポエム語り出したよ?

 てか、ポエムで厨二っぽくすれば、俺は特別な奴感出て、何でも許されるとか思ってね?

 それ、完全に間違ってるから。

 とりあえず、きもっ


「あの、もう結構です。お話が謝罪だというならば、もう十分お気持ちは受け取りましたので。では、ごきげんよう」


 これ以上、一緒の空間に居たくなくて、さっさと踵を返す。

 しかし、腕をつかまれ、強い力で引っ張られた。ドスンと奴の胸元にぶつかってしまう。


「ひっ」


 小さく悲鳴が出てしまう。

 やだやだやだ。確かにこいつはイケメンだけど、もう気持ち悪いから無理!


 そう思った瞬間だった。


 ガサガサガサっと、大きな音を立てて横の植え込みに人が落ちてきた。


「いってー」


 そう言いながら立ち上がった人は、ブロンドの髪に、スカイブルーの瞳を持った男子生徒だった。そして何より、イケメン!

 瞳は大きく、ほんのちょっとつり目気味、鼻筋はすっと通っており、うすい唇が痛さに曲がっている。なにこれ、痛がってる顔もイケメン! ちょっとヤンチャそうなのもポイントが高い。


――いけない、アンナ。顔に騙されてはダメよ。トニーだって、イケメンだからって見とれてたせいで、キスされそうになったんでしょ。だから、ヤンチャなイケメンの登場に視線を奪われてないで、さっさと逃げなさい。あなた、今トニーの腕の中なのよ!


 アンナの中の冷静な部分のアンナが叫んでいる。


 そう、残念ながら、アンナは男性不信のくせに、やっぱりイケメンには弱かった。



「は、はなして、ください」


 我に返ったアンナは、全力でもがく。でも、トニーは腕を放してはくれない。

 そこに、ヤンチャそうなイケメンが、すっと割り込んできた。


「てっきりラブシーン最中に乱入しちゃったのかと思って焦ったけど、どうやら違うよね?」


 ヤンチャくんがぐっと、アンナを肩を抱き、トニーの腕の中から助けてくれた。


 やばっ。ヤンチャくんと背丈が同じくらいだから顔がめっちゃ近い。

 お肌つやつや、見れば見るほど綺麗な色の瞳、でも、力を入れた腕には筋が浮き出てて男らしいとか、最高かよ!


 アンナの脳内は、もうお祭り騒ぎだ。


「なんなんだ、君は。上から落ちてきて僕等の邪魔をするとか」


 僕等って、勝手に巻き込まないで!とアンナは内心で叫ぶ。


「でも、この人なんか嫌がってない? 涙目だし」


「そ、それは、彼女が感動のあまり、目を潤ませてるだけだ」


 ひぇ……どうしたらそんな曲解出来るのよ!


「わ、わたくしは、トニー様とどうこうなるつもりはございませんわ」


 アンナが必死で言い返すと、ヤンチャくんがフッと笑ったのを感じた。


「ってことみたいだよ、おにーさん。じゃあ、おねーさん行こうか」


 ヤンチャくんは、まだ何か言い返しているトニーを置いて歩き出す。

 アンナは肩を抱かれながら、安堵半分、興奮半分で付いていくのだった。


 頭の片隅では、危険信号がこれでもかと鳴り響いている。

 でも、イケメンのオーラに麻痺してしまい、冷静な思考が戻るのはしばし後のことだった。



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