日常の境は曖昧なまま

雨月ゆひら

夕焼けに消える

「死んじゃダメ、生きて欲しいって言うのは簡単だよね」


いつだったか先輩は皮肉そうに笑った。目が綺麗な人だった。長い髪が風になびいて、夕焼けが終わるような頃。

先輩は死にたかったのだろうか。

分からない。

僕は結局何も言うことが出来なかった。耳に入ってきた言葉は酷く重くて、何を言っても薄くなる気がする。

先輩はそんな僕を見て笑うとまた何事もなかったように雑談を始めた。あんなにも何気ない雑談に安心を覚えたのは後にも先にもこの時ぐらいだった。


先輩、今元気にしてるかな。

遠い昔のようなことをどうして今思い出したんだろう。多分、この夕焼けがあの時と似ていたんだ。そんな気がする。

帰ったら久しぶりに連絡してみようかな。

少しだけ帰り道の足取りが軽くなった。













僕が先輩の訃報を聞くのはその十三日後の事だった。

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