第3話 魔女にしかわかりえない悲しみ

「お母さん、私、魔女なの……? 人間じゃないの……?」

 魔女という生き物の存在は絵本なんかで読んで知っていた。だいたいは恐ろしい魔法を使う、悪いやつだ。その『魔女』に、私は生まれてしまったらしい。

「ごめんね……普通の人間に産んであげられなくて……ごめんね」

と、お母さんは私に泣いて謝った。


「でもね、あなたが魔女に生まれたことは自分で決められなかったけれど、悪い魔法を使って人間の敵になるか、いい魔法を使って人間の味方になるかは、自分で決められるのよ。あなたには、いい魔女になってもらいたいわ。それとね、魔女は人間より、ずっとずっと長く生きるの。だから、お父さんやお母さんが死んで、あなたの子どももあなたより先に年を取って死んで、それを何度も見ることになるわ。悲しいけど、そういうものだと思って生きるしかないの。わかる?」

 

 お母さんは、わかりやすい言葉を使い、魔女というものがどういうものなのか、これからどのように生きて、どのような覚悟が必要なのかを、人間が知る限り丁寧に教えてくれた。


 私はこれからたくさん本を読み、魔女について勉強しなければならない。魔女が多い街だと言ったが、魔女が通う魔法学校のようなものは存在しないのだ。

 普通、魔女に生まれた子どもはどちらかの親が魔力を持っているので、魔法は親に教わる。それができない私は、本から知識を得るしかない。

 魔法は最低限、人間を守れるくらいのものを習得して、あとはのんびり長すぎる人生をすごそうと思った。


 学校にはいわゆる「普通の子」と「魔法使いの子」が共存している。魔法使いの子はたいていかなり長く生きるため、普通の子と同じ成長はできず、身長も小さいが、知能は普通の子と変わらないため、この街では普通に生活を送る。

 魔女であることを隠す必要もなく、ただ、両親ともに普通の人間なのに魔女だなんて珍しいね、と言われて育った。


 高学年になってくると、身体が周りの皆より小さいので、特に体育の授業がついていけなくなり、辛かった。悔しかった。私もみんなと同じ段数の跳び箱を飛びたいし、リレーで活躍したかった。

 運動会で運動能力の差があらわになるのが悲しくて、毎年とても憂鬱だ。けれど、両親はそれをとても楽しみにしていた。我が子の元気な姿を見るのが幸せだったのだろう。自分たちよりも長く生きることが分かっていて、その後の悲しみのことなんか気にしてくれないんだ。

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