おうちじかん!〜外に出れないなら世界をおうちにすればいいじゃない〜

金魚屋萌萌(紫音 萌)

おうちじかん!〜外に出れないなら世界をおうちにすればいいじゃない!〜


「だああああっ!! なんでお外出れないのっ!!」世界を統べる悪役令嬢魔王は大理石の床で大暴れする。


その名はフランスラ・リリドール・エンデヴァルド・ローズマリー・スカーレット。通称フリエロスと呼ばれている。見た目だけでいえば金髪褐色肌の十二、三歳の少女だ。


「落ち着いてくださいお嬢様、作品のテーマが『おうち時間』なんです。作中の私達はそれに従っておうちの中で過ごさなければならない、ということらしいです」そう言いつつフリエロスをたしなめるメイド姿の大人びた少女は千夜 咲(せんや さく)と呼ばれていた。


「そんなこと知らないわよ! ころなちゃん? かなんだか知らないけれどぶっ飛ばしてギッタンギッタンにすればいいじゃない!」またバタンバタン、と暴れつつフリエロスは言う。


「フリエロスお嬢様なら可能でしょうね……ですが我々を覗き見ている読者の民たちはか弱く、逆にころなちゃんにギッタンギッタンのボコボコにされている始末でして……最近は対抗できているようですが」


「たしかに人類は弱いわね! 私達と違って! やーいざーこざーこ!」


「どちらに向かっておっしゃってるのですか」


「そりゃ読者の弱き民に決まってるじゃない! あ~もうお外でたーい! 究極魔法撃って国を破滅させたーい!」


 フリエロスは超暴れする。バゴン! バゴン!と振り下ろした拳が大理石にぶつかり、その衝撃でヒビがはいりはじめる。


「ちょ、お嬢様! そんなに暴れたら大理石の床が抜けて……」咲が止めに入ろうとするがすでに遅かった。


 どごおおおおおん!大理石に大亀裂が入り、フリエロスの次の一撃でぶっ壊れる。


「ふぇ? うにゃぁぁぁぁぁ!!!」瓦礫と化した大理石とともにフリエロスは下の階に落ちていく。


「あーあ。だから言わんこっちゃない……」ちゃっかり浮遊して回避していた咲は軽くため息をつきながら、階下に向かう。


 瓦礫の山。その頂点にフリエロスは鎮座していた。山に頭を突っ込み、足をがに股で天に向かって伸ばしながら。当然スカートは捲れているが、なぜか不思議な力で可愛い下着までは露出していない。


「お嬢様、いきますよ!」と咲は声をかけフリエロスの足を掴み力任せに引き抜く。


 すぽんっ!と勢い良くフリエロスは瓦礫の山から飛び出した。「ふんにっ!?」そのまま近くの柱にぶつかり、柱が砕け散る。


「あっすみません、手が滑って」咲は謝る。


「ぴええ……手加減しなさいよもう……あ! いいこと思いつきましたわ!」


「どうしたのですかお嬢様。頭を打ったせいか言葉遣いがお嬢様になってます」


「うるさいですわ! 咲のせいですわよ!」ぷんすぷんす、とスミエロスは頬を膨らます。


「それで、どんなくだらないことを思いついたのですか?」


「くだらなくないですわよ! ……咲は『おうち時間』というテーマのせいで私達がおうちの中から外に出れないといいましたわよね?」


「ええそうです」


「つまり……おうちの『中』ならいいと」


「はい」


「なら、世界をわたくしの『おうち』にすればいいのですわね!」


「は?」


「いまから超豪邸のわたくしのおうちを壊して世界を全体をおうちにするのですわ!」


「……お嬢様ちょっとお手を拝借」咲はスミエロスの手をとる。


「え、なんですの? ダンスでも踊るのですわ?」


「んなわけ。どっせい!」と咲はスミエロスを残りの柱に叩きつける。先程と同じように柱は粉砕される。


「いったあああ!? なんや!? けんか売ってるんか!?」おでこを赤く腫れさせたスミエロスは激怒しながら咲に掴みかかる。


「いや、頭おかしくなってたみたいなのでもう一度ぶつければなおるかなって……あ、お嬢様言葉治ってますね」


「あっほんまや。ありがとな!」


「……なんか違う言葉遣いが混ざってますけどもういいです。それで世界をおうちにするって発言は正気ですか?」


「せやせや。世界全体をおうちにすれば読者の方たちも納得、あてぃしも自由にできてうぃんうぃんやろ!」ぱちりとウィンクをして親指をたてる。


「……そうですか、まあ止めませんけど」


「そうか! ほなやるで! まずはこのおうちをふっ飛ばしてっと」そう言いつつ、両手を上に振り上げる。


「いでよ! ハウス・ブレイカー!」そう唱えると彼女の手から、超大剣が現れた。それは鉄塊だった。剣としてはあまりにも分厚く、無骨すぎた。長さは先程壊した上階の床を突き抜けて天井に届くほどだった。


「おりゃ!」と勢い良く振り降ろす。超豪邸、東京ドーム三個分もあるおうちは真っ二つに割れる。


「もういっちょ!」今度は横に構え、一閃。超豪邸は、塵となり、消え去った。


「ふぅ〜いい仕事した。……咲、なにしてるん」ハウスブレイカーを担ぎながらスミエロスは下を向く。


いつの間にか変態メイドはスミエロスの足の間で仰向けに寝転がっていた。


「危なかったから伏せてたんです。あとお嬢様のパンツ見たくて」そう言いながら咲は頬をスミエロスの足に擦り付ける。


「なるほどね? この変態!」


「今日はネコちゃんパンツなんですね、ごちそうさまですお嬢様」


 ビーッ! ビーッ! 唐突に警告音が鳴り響く。


「え、なんや!?」きょろきょろとスミエロスは周囲を見回す。


『テーマエラー。テーマエラー。物語を終了します』


「あー。先に世界をおうちにすべきでしたねお嬢様。おうちこわしておそとになっちゃったんで物語終わっちゃいます」鼻血をハンカチで拭きつつ、咲は言う。


「あ〜そっかあ! しゃーないな!」あっはっは、とスミエロスは笑う。


「じゃまたな、読者の民よ! ころなちゃんに負けないよう皆はちゃんとおうち時間過ごすんだぞ!」

スミエロスは大きく我々に手を振る。


「頑張ってくださいねー。諦めなければきっと世界は救えます」ひらひら、と咲も手を振る。



          糸冬 

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