第4話 例によって・いつものごとく・毎度凝りもせず

 顔見知りでない人は、ジロジロと見るだけ。

 顔見知りの人は、仕事着のまんま、飲みに来たのか、と尋ねてくる。

 てれすこ君のDSPスカートへの反応は、皆、似たり寄ったりでした。

 たいして関心がない。それだけです。

 スツールに座っていようが、座敷でアグラをかいていようが、後ろのミニスカート部及び生足が見えてないかった故の、反応かもしれません。我が女川は、日本有数の漁港を誇る港町なのです。誰もが一度は水産加工の現場や調理場で働いたことがあり、前掛け姿のオッサン・オジイサンは、見慣れた光景なのでした。


 ショート君の貞操を守るための第一回会議の後、私たちは計画に沿って行動を開始しました。

 男性用スカートは、簡単に調達できました。そればかりか「なんでこんなに種類があるの?」と言わんばかりに出回っていることを、ネットサーフィンの結果、改めて確認できました。諸外国から、ヘンタイの国ニッポンと言われるのも、ゆえなきことでは、ないということでしょう。でも、もちろん、女川でスカート男子なんて、見たことがありません。「おそらくアキハバラとか、そういうオタクの町に生息するんですよ」とショート君が言い出し、それなら、そういうオタク女子にスカート選びのアドバイスをもらおう、ということになりました。

 言うまでもありません。青梅さんのことです。

 海碧屋にも、一応インターネットがつながっているデスクトップパソコンがありますけど、てれすこ君がネット将棋をするとき、そして私が天気予報をチェックする時に使うだけで、他の従業員にとっては、基本、畳一畳分のスペースをとっているタダの箱、です。この際、ネットでの買物の仕方を覚えようと、私たちはパソコン前に、ぐるりと陣取りました。青梅さんがキーボードをカチカチ鳴らし、チェックのミニスカートと、招き猫がプリントしてあるレトロ調の前掛けを、注文してくれました。ネットショッピングを完結したあと、「プリント屋さんに注文すれば、海碧屋ロゴ入りの前掛けも作れるみたい」と青梅さんが言い出しました。Tシャツは仙台の印刷屋さんに頼んだのですが、その時もそんなに高くなかったし、経費で落とせたし、ぜひお願いしたい、と私たちは又、青梅さんの手をわずらわせました。

「さて、と。ここまで協力してきたんだから、それなりの報酬が欲しいんだけど」

 イモちゃんに気取られないようにスパイするのも大変だし、彼女が彼を襲わないように、ストッパーの役割を果たしてもいることだし……。まあ、その言い分は、もっとも至極に聞こえます。てれすこ君は、しぶしぶ財布の口を開けました。けれど、青梅さん自身が、それを押しとどめました。

「ヤミ取引には、それにふさわしい通貨がある」というのが、彼女の言い分です。

「ヤミ取引? 通貨?」

「昔の日本の刑務所ならタバコ、今のアメリカの刑務所ならインスタントラーメン、そして北朝鮮ならチョコパイ。あえて現金取引していないところが、ヤミ取引の醍醐味よ。そもそも、分相応な車を買ったり家を買ったり、銀行口座が出所不明の金で膨れ上がってたり、そういうところから、スパイしてたってアシがついて、イモちゃんにバレるんですっ」

「青梅さん、スパイ映画の見過ぎですよ。でも、じゃあ、何を取引材料にするんです? 嗜好品や食べ物ったって、ピンとこないなあ。女川なら、笹かまとか……」

「ズバリ。ショートの使用済みパンツで、どう?」

 青ざめたショート君のお尻をサワサワ撫でながら、青梅さんは続けました。

「貨幣単位は、ショートのトの字と、パンツのパンをとって、トパン、とかどうかしら?」

「面白い、乗ったっ」

「ちょっと、船大工さん……」

「てか海碧屋さん。これならカネはかかんねーぞ。ショートにパンツはかせるだけでいいんだからさ」

 当のショート君が、哀れを誘う声を、絞り出します。

「……僕のヒットポイントとかマジックポイントとかが、減りますよ」

 もちろん青梅さんは、本人の蚊の鳴くような声を無視しました。

「ふふん。交渉成立ね。DSPスカートに対する、イモちゃんの反応観察と、今夜からもショートの貞操を守る対価として、2トパン、請求します。1トパンは、さっき町営住宅を出てくるとき、洗濯機に入ってたのを拝借してきたからいいとして、もう1枚は……」

 いやあなた、勝手に拝借って、よくないでしょ……私がツッコミを入れる間もなく、悲鳴がしました。

「ギャーッ。青梅お姉ちゃん、ズボン下げないでー」

「ふっふっふ。ズボンだけ、下げるわけないでしょっ」

「……ねえ。てれすこ君。これ、止めなくていいの?」

「いいんですよ、海碧屋さん。こんな茶番、いちいちつきあってたら、キリがないですよ」

「父さんの、薄情者っー」


 娘のことも含めて、計画全体の全容を広報することができたのは、それから1週間も経ってからでした。シーパルピア商店街、たまにはハイカラな店で飲もうと、ガル屋で舶来のビールを堪能していた時です。半ダースばかりの既に出来上がっていた女性グループが来店し、その中の一人が、目ざとく私たちを見つけてくれました。

 誰であろう、「弥生顔」さんです。

 彼女は東京の学生さんで、女川にはボランティアをしに来ていました。丸の内りばあねっとという、怪しげなボランティア斡旋グループの総裁にセクハラされていたところを、我が海碧屋が、結果的に助けることになったのでした。居酒屋で無理やり酒を飲まされ、酔いつぶされそうになって組織を抜けてきた彼女は、この手のコンパ宴会は好きでないはずだったのですが……。

「今日は女子会ですから。実は、ママさんバレーの打ち上げの二次会なんです」

 生涯学習センター図書室での、児童への童話読み聞かせのボランティアで、彼女はスポーツ好きなママに誘われ、夏休みの間だけという約束で、メンバー加入したのだそう。

 なるほど、腕っぷしの強そうなオバチャン、お姉ちゃんたちが、何やら弥生顔さんの後ろで、クダを巻いています。酒の肴になっているのは、どーやら、バレーのこと、子どものこと、亭主への愚痴、そしてお姑さんへの悪口、のよう。副キャプテン、とかいうやたら肩幅の広い女性が、ショート君の同級生の母親だとかで、グラス片手に、私のたちのテーブルに「表敬訪問」にきました。PTAの四方山話……ぶっちゃけ、先生たちの品評会……をおっぱじめる矢先、彼女はてれすこ君の異形に気づきました。根掘り葉掘り尋ねる彼女に、代わりに私が説明しました。変人扱いされるかな、と私は戦々恐々でしたが、「娘が怖くて……」とてれすこ君が首をくすめると、「さもありなん」と副キャプテンは納得したようでした。


 女川町のオバチャン界隈に、我がDSPスカートの噂が広がっていったのは、この翌日からのことです。オバチャン同士のネットワークは強く、もし、イモちゃんがオバチャンだったら、今ごろ、彼女に問い合わせが殺到していたことでしょう。

「海碧屋さん、お客さんが」

 昼下がりの工場に来客があり、どこの水産業者か漁師さんかと事務室に通すと、これが例のママさんバレー副キャプテンさんでした。笹かまメーカーの下請け工場で、タラの頭をナタでちょん切るパートをしているという彼女は、忙しい人らしく、キンキンに冷えた麦茶を一口で飲み干すと、単刀直入、用向きを告げました。

「ウチにも、DSPスカートとやら、売ってくんない?」

 どうやら彼女のご亭主も、洋式便器に立ったままオシッコをする人らしく、副キャプテンがいくら注意しても、一向にオシッコ姿勢が改まらない、とのこと。

「はあ。やっぱり、あちこちにビシャビシャ、シブキを散らす人なんですか?」

「高血圧なのよ」

 立ったままオシッコをすると、排尿のはずみで一挙に血圧が低下することがあるらしく、一度、立ちくらみで、トイレで倒れたんだとか。

「健康のために、それからトイレで倒れて病院に担ぎ込まれた……なんてこと、もう二度となくなるように、座ってオシッコして欲しいところなんだけど、全然、治らなくって」

 お父さん本人は、副キャプテンが注意すると「ハイハイ、やるやる」と二つ返事をするけれど、やるやるサギというかなんというか、便器に向き合うと約束をスッポリ忘れてしまう人なのだとか。

「でもさ、そのスカートをはかせりゃ、否が応でも座ってオシッコをするようになる……いえ、少なくとも、そうしなくちゃならないって、思い出すじゃない?」

 これはあくまで、てれすこ君とイモちゃんの仲を修復するための代物なのですが、そういう切実な事情があるなら、品物をお売りするのが、仁義というものでしょう。

 幸い、青梅さんがサンプル用にと頼んでいた、海碧屋ロゴ入りの前掛けが四着、それからミニスカートが一ダースほど、ありました。ミニスカートのほうは、腰にゴムが入っているフリーサイズのもので、ブカブカの場合には、ベルトを締めて調整できるようになっています。

「……今ある前掛けは、四種類です。渋いヤツ、可愛いヤツ、レトロ調、そしてノーマルタイプ。どれも同じ値段でお譲りしますよ」

 彼女はレトロ柄の前掛けと、全面真っ黒なプリーツスカートを買っていきました。てれすこ君と違って、副キャプテンの旦那さんがシーパルピア商店街に飲みにくるということは、なかったようです。けれど、後日、てれすこ君あてに、恨み節というか感謝というか、色々とないまぜになった電話がかかってきたとか。すっかりはき慣れたのか、我が工場でもスカート姿でウロチョロした後、てれすこ君は友人というか同志の反応を語ってくれました。

「DSPスカート、それなりに効果はあったみたいです。ただ、副作用もあるみたいで」

「副作用?」

「せっかく便器に座ったんだから、ついでにそのままウンチもしちゃおうかって誘惑で、ついついトイレが長くなってしまうとか。それから、ウオシュレットを使う時、ミニスカートの裾にウオシュレットのシブキが飛んじゃわないか、心配になっちゃうとか」

「形状から言って、スカートの裾まで飛び散るわけ、ないでしょう。慣れの問題ですよ」

「ですよね。それから、もう一つ」

「なんです?」

「小学校四年生の息子さんが、男子でもスカートをはいてもいいのか……と興味津々だとか。息子が、この年で女装に興味を持ったら、どーしようって、心配してました」

「そもそも、DSPスカートは、そのために考案されたものですからね。今度連絡があったら、息子さんが大人になるころには、女装そのものが自然になってるかもしれない、と伝えておいてください」


 副キャプテンの「布教活動」で、まず、このママさんバレーチーム内に、DSPスカートは広まっていきました。製造調達が追いつかなくなる、と心配した青梅さんが、インターネットで大量発注をかけました。前に説明した通り、DSPスカートは、前掛けとミニスカートから成る、シンプルな組合せです。わざわざ海碧屋から買わなくとも、よその洋服屋さんからの調達は容易で、私は在庫を覚悟しました。けれど、案に相応して、わざわざ我が海碧屋に来て、スカートを買い求めていくお母さん方は、多かったです。スカートを二ダースほど売った時点でも、みんな、室内着として着用しているらしく、町内をこのスカート姿で闊歩するお父さんは、皆無でした。

 ママさんバレーチームから、剣道教室、少年サッカーチームと、お母さんネットワークが広まるにつれ、とうとう、DSPスカートで商店街を練り歩く男子まで、現れることになりました。

 ショート君の学校のクラスメート、オヤマ君です。

 ショート君がかわいい系の美少年なら、オヤマ君は端正な顔立ちをしたモデル系の美少年で、大人の美女に化けるのが得意な男の子……いや、男の娘なのでした。そもそも、オヤマ君が女の子の恰好をするようになったのは、年が近い大学生の叔母さんのせいで、青梅さんばりに年下の美少年に目のない彼女が、折にふれ、女子の衣服を彼に着せたりしていたからです。小学校の時には、イヤイヤだったらしい着せかえ人形状態の彼も、この頃は、すっかり妖しい趣味に目覚めてしまっていた、とか。目線で正体を隠して、女装姿をツイッターや匿名電子掲示板等に投稿していたオヤマ君でしたが、最近は、コソコソでなく、級友にも学校の先生たちにも、「真の姿」をオープンにしたい、と思い詰めていたようです。そこに、降ってわいたかのような、おあつらえ向きのスカート。オヤマ君は、大学生の叔母にトイレマナーを叱られて、躾けられているところだ……と言い訳して、DSPスカートで外出をしはじめました。居酒屋で座りっぱなしのてれすこ君と違って、ある時はスーパーおんまえや、またある時はフィールドアスレチック場と、あちこちに出歩く彼の姿は、まず同級生の間で話題になりました。からかわれ、いじめられ、そしてヘンタイ呼ばわりされる一歩手前の彼を救ったのは、もちろんDSPスカートの存在です。オヤマ君の代わりに、ショート君がことわけを説明しました。中学生の理解力で、どこまで納得がいったかは分かりませんが、イジメはぱったりと止んだようです。そして、その代わりに、当のイジメっ子たちも含め、男子中学生たちから、DSPスカートの注文があったのです。注文伝票の代わりに、ツルハドラッグのチラシの裏に、名前と欲しいデザイン柄を記してきたショート君を、工場長たちが「敏腕セールスマンだ」と褒め称えました。

 DSPスカートを開発した当の私も、イジメっ子たちの変節ぶりが不思議だったので、どーやって説き伏せたのか、ショート君に秘訣を聞きました。

「まさか、注文したきた男の子たち、全員が女装趣味ってわけでは、ないでしょう」

 ショート君は、苦笑しました。

「まさか。そもそも、女の子の恰好、どーのこーのって言う事は、一言も言ってないんです。こういう、バカ騒ぎができるのも子どものうちだけだぞって、言っただけです。大人になってこんな格好をしていれば、警察に逮捕されるか、村八分にされるか、どっちにしろ、ロクなことにならないって」

「うーむ。悪ガキどもの琴線に触れる、口説き方ですねえ」

「社長や父さんたちの子ども時代と違って、今は、大人が色々とやかましい時代でもありますから。正々堂々、アホな恰好をして町を練り歩いても、大人が正面切って注意できない、数少ないチャンスだぜ、とも言いました」

「なるほど」

 中学生を口説くには、やはり中学生が一番なようです。

「でも、肝心の座りオシッコのほうは、うまく言ってないみたいです。前掛けがあるのを忘れて、ぼんやりしたまんま、立ったままオシッコをして、床一面にまき散らしちまったって、当のイジメっ子が、言ってましたから」


 この手の「毛色の変わった行為」を面白がるのは、何も中学生ばかりではありません。港まつりの時、率先して町を盛り上げてくれるような若い衆たちが、目ざとくマネをして、居酒屋に繰り出してくれるようになりました。宴会を盛り上げるためのネタ、と言ってしまえばそーでしょうけど、私たちDSPスカートを普及させようとしている人間から見れば、そんなイロモノ扱いでも、ありがたいことです。

 町の広報誌「ウミネコ」は、このスカートの流行を取り上げてはくれませんでしたが、石巻のフリーペーパー『ローリング・すっとん』紙が、一ページの紙面を割いて、特集してくれました。

「コノゴロ、女川デ流行ルモノ」。

 フリーペーパーの次は、ラジオ、新聞、テレビ……とマスコミで取り上げられて、有名になるかもしれないという夢は膨らみます。私たちは、くだんのフリーペーパーを発行者から大量にもらってきて、知人友人たちの居酒屋に置いてまわりました。もちろん、DSPスカートの売上も順調で、こんな調子が一年も続いたら、海碧屋に新しい事業部を立ち上げてもいいな、と思ったくらいです。せっかくだから、プリントから何から、全部外注頼みの状態を脱し、ミシンを買ってガーメントプリンタも買って……と私は捕らぬ狸の皮算用をしました。しかし、せっかくの構想に水を差す出来事があったのです。

 学校の先輩たちに注文された分のDSPスカートを受取りに来たショート君が、何やら思いつめた様子で、私の袖を引っ張りました。少し涼しいところで話そうか、と私は彼を軽トラの中に誘いました。工場はあいかわらず暑く、事務所は従業員のオバアチャンたちが休憩中でした。クーラーをガンガンきかせると、険しくなっていたショート君の顔が、少し緩みました。

「ひょっとして……とうとう、青梅さんに襲われちゃったとか?」

「いえ。そうじゃなくて。……そっちのほうも、まあ、深刻ではありますけど……別の問題です」

「遠慮なく話して下さい、ショート君」

「社長。このDSPスカートって、社長のオリジナルなアイデアなんですよね」

「何を今更。そうに決まってるじゃないですか」

「でも、三日前から、元祖DSPスカートっていうのが、売りに出されているんです。宮ケ崎のプレハブを仮設店舗にして」

 やけに不愛想な背の高い男性店員さんが、それでもきちんとDSPスカートを着用して、買物客の質問にウンとスンとも答えずに、黙々とスカートを売りさばいているとか。

「それって……」

「ええ。海底清掃コンペで見たことがある人です。りばあねっとの、隊長さんとか言う人」

 富永隊長は、宿敵・丸の内りばあねっとのナンバー3、欲望の塊みたいな牟田口総裁を公私で支える、有能なテクノクラートです。

「カネになると思って、食いついてきたのかなあ。厄介だなあ」

「それだけじゃ、ありません。実は、さらに昨日からは、本家DSPスカートっていう、パチもんを売る、さらに別の店ができて……」

「本家」のほうは、針浜にあるスクラップ屋の跡地を利用して、軽トラ市、みたいな形で販売しているだとか。

「そこのスクラップ屋さん、め・ぱん連絡協議会のパチカンさんの奥さんの、実家ですよ。ということは、リリーさんたちが仕掛け人ってことか」

 こちらも、銭ゲバにかけては、町内で右に出るものはないと言われている、お年寄りグループです。

「クセ者2グループと、再び、やりあうことになるか。厄介だなあ」

「僕、社長がそういうと思って、草を放ちました」

「草?」

「ニンジャ。諜報員。ゼロゼロセブン。そういうのです」

 ショート君の友人、というか今回のDSPスカート騒ぎをきっかけに親友になったというオヤマ君に、スパイしてもらった、というのです。

「値段は海碧屋バージョンのよりも、2割くらい高いです。デザインも地味……というか、年寄臭くって。さらに、買っていく人に、海碧屋は偽物で、いずれは警察にしょっ引かれる、買った人は罰金を取られる、とか吹聴しているとか」

「営業妨害も、いいところだね」

「元祖のほうは、その点、淡々と……というか、イヤイヤやってるみたいですね。女装趣味とか、そういう人はいないみたいで、その下っ端の部下? というか、学生アルバイトの人に、ちょろっと売行きを聞いてみたら、『こんな店、速くつぶれてくれればいい』とか、嘆いてたみたいです」

「ふーん」

 私は少し腕組みをして、考えました。

「男子学生が乗り気じゃない。富永隊長も乗り気じゃない。ということは、このパクリを考えた人、縄文顔さんあたりなのかな? 隊長より上の階級で、この手の趣味を男たちに押しつけられる女性って、他にいないものね」

「いえ、それが……牟田口総裁、その人が、ノリノリで命令してるそうです」

 かわいい美少年なから絵になるけど、そこいらの大学生の女装では鑑賞にたえられない……というのが、縄文顔さんの意見、らしい。実は、富永隊長と並んで、女装スカート反対派の筆頭だったと言うのです。

「……青梅姉ちゃんや、オヤマ君のオバチャンみたいな人ばかりじゃないって、ことですよね」

「まあね……てか、パクリに対する罪悪感とか、そういうのはみじんも出てこないんですね……」

「牟田口総裁の鶴の一声で、結局、この副業をやることに決まったとか」

 身長160、体重3桁の巨漢ながら、総裁は自分の「色気」にたいそう自信があるらしく、実際にDSPスカートをつけて、姿見の前でうっとりポーズをとっていた……という話です。

「なんか。想像したくないですよね」

「まあね。でも、ショート君。普通はバカにしたりするところかもしれないけど、DSPスカートのセールスマンなら、絶対にバカにしちゃ、いけないシチュエーションだってこと、気づいてほしい。そもそも、総裁のような女装とは縁のなさそうな人たちにも、違和感なく女装を普及されるためのアイテムなんだから。彼みたいな巨漢がスカートをはいて世の女性たちが『気持ちわるっ』とか言わなくなったら、このスカートの意義的に成功と言えるんだし」

「はあ」

 スパイの報告は、この後も連綿と続きますが、まあ、割愛しておきましょう。

 私たちが「本家」「元祖」に対して、アイデア泥棒と告発糾弾しようとしていた、矢先です。文書で言ったほうがいいか、電話、それとも直接か。てれすこ君と2人、会社事務所で話していると、当の2グループのほうから、直談判にきました。

「勝負だよ、海碧屋さん」

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