魔王を倒したら今度はウイルスが蔓延しちゃったんですけど!?
おめがじょん
勇者と賢者、牢獄で遊ぶ。
「なぁぁぁにが! "おうち時間"じゃボケェェェェェッ!!!!!!!!!」
怒声と共に火の玉が壁に撃ち込まれるが、特に何かに燃え移る事もなく声と共に消え去った。暗くジメっとした部屋だが、そこそこの広さはある。簡易ベッドに机とトイレ。そして鉄格子。いわゆる牢獄だ。
向かい合う二つの牢獄には、一人ずつ男女の姿があった。
「勇者様。うるさいッス」
「これが落ち着いていられるか、クソ賢者! 賢者なら俺をここから出してくれよっ!」
「仕方ないじゃないッスか。勇者様が魔王討伐なんぞした所為で、世の中がウイルス塗れになっちゃったんッスから」
悲しい事に賢者の言う事は全て事実だった。
十年の長きに渡る冒険だった。駆け出し戦士から鍛錬を積み、勇者と呼ばれるまで成長してきた。道中拾った酔っぱらいの女も気が付けば賢者様と呼ばれるまでに成長した。そしてつい先日、仲間達と共にようやく魔王を討伐したのだが、
「あんにゃろめ……! 最期の最期に余計な事を……ッ!」
魔王は倒される寸前、残った全ての魔力を使って世界中に届く程の瘴気をバラまきながら消滅した。世界が平和になったと思いきや、今度は魔王の瘴気がきっかけで世界中に病気が蔓延した。
しかし、流石の魔王の瘴気と言えど世界規模ともなればそこまでの毒性は高くはなかった。偶に重症化して疾患を持つ人間が死ぬぐらいの毒性だ。魔王コロナの残した病原体。現在巷ではコロナウイルスと呼ばれるそれは、人から人へも感染する為、各国の王達が特効薬が完成するまで外出禁止令や催しの禁止令を出している。昨今では有名人を起用し「おうち時間」という単語を流行させる事によって、国民達の不満を和らげる為のプロパガンダが盛んになっていた。
「俺はただ、綺麗なお姉ちゃんや姫様達にちやほやされたかっただけなのに……っ!」
「そんな煩悩にまみれてるからこんな事になるんッスよ。こんな牢獄に居るのだって、勇者様が王女様の部屋に夜這いかけようとしたからじゃないッスか!」
「でもさぁ! 命かけて魔王倒して故郷に帰ってきたんだぜ!? 誘われたんだし、少しぐらいハメ外してもいいだろ! 王女様の部屋でおうち時間一発カマすぐらいセーフだろ!」
「やる事が完全に濃厚接触だからアウトッスねー。王女様めっちゃ酔わせて一発カマそうだなんて勇者のやる事じゃないッス。ケダモノッス」
「飯時に酒めっちゃ飲ませてたのお前なんだけどね。サラッと俺に責任転嫁しないでよ。怖いよ」
コロナウイルスにより全ての催しが中止になった。
勇者の帰還を祝う会。魔王討伐を祝う会。勇者を囲む会。全ての楽しみが中止となった勇者は自暴自棄になっていた。そして、上記の会話の通りやりたい放題を炸裂させようとした結果、二人仲良く牢屋でおうち時間を過ごしているというわけだった。
「しかし、おうち時間も飽きてきたッスね。そろそろ店でガッツリ飲みたい気分ッスわ」
「まだここに来て半日なんだけど。辛抱って言葉知らないの?」
「うるさいなぁ。勇者様だってさっき吠えてたじゃないッスか」
「あれはただのストレス発散だ。それに、人々が平和に暮らしていけるならおうち時間は仕方ないさ。大人しく特効薬の開発を待とうぜ」
「でも私思うんッスよ。そんな特効薬待つより、自分らで旅に出て特効薬見つけて各国に高値で売りつけた方が早くないッスか? その金でパーティ開きましょうよ」
「お前、俺を焚きつけるの上手すぎるだろ……」
「勇者様、どちらかというと犯罪者気質ッスからね。魔王と戦う前夜も派手にパーティー開いてましたし」
「あれは二日酔いで辛かったなー……。でもダメだ。俺達がウイルス貰うならいいけど、俺達が誰かに感染させてしまうリスクがある。世界を救った意味がなくなっちまうぞ」
「急に賢者モードになった。今の会話の何処でイったんッスか? マジ? 王女様と濃厚接触しようとしてたケダモノのくせに」
「失礼にも限度があるだろ……!」
怒り心頭ではあったが、長い付き合いなのですぐ怒りは霧散した。
魔王を倒すストレスよりもこの賢者と言い合いをするストレスの方が強かったのではないかと旅が終わって勇者は実感し始めた。暇を持て余した二人はどちらともなく座り込み、ほぼ同じタイミングで大きな欠伸をした。
「しかし暇だな……」
「そうッスね……。あ、じゃあ一つゲームしませんか?」
「何だよ……? もう、魔法で大臣のズラ吹き飛ばすゲームはやらんぞ。次は即死刑になる」
「あれもう飽きたんでいいッス。ずばり今回は──どっちが豪華にこの牢獄で過ごせるかゲームやりましょうよ」
「なんだそりゃ?」
「このしみったれた部屋でずっと過ごすの最悪じゃないッスか。魔法を使ってでも人脈使ってでも何でも良いッス」
「道中で作った女呼んでもOKって事か……?」
「当たり前ッス。この期間にちゃんと遊んだ女との関係も清算した方が良いッスよ。牢屋に入った今なら同情引けて、今までの粗相を許して貰えるかもしれないッスよ」
「お前、天才過ぎるだろ……!」
「私、賢者ッスからね。そちらは勇者の発言とは思えないッスけど」
「よっしゃやろう。ちょっと面白そうだ」
「じゃあ、ゲームスタートで」
かくして、暇を持て余した外道な勇者と最悪の賢者による暇つぶしのおうち時間が始まった。二人は腐っても二日酔いで魔王を討伐してしまう勇者であり、酔っぱらいから賢者になってしまう非凡な才能の持ち主だ。
この暇つぶしが国の一大事にまで発展してしまい、おうち時間が更に伸びる事になったのはまた別の話。
魔王を倒したら今度はウイルスが蔓延しちゃったんですけど!? おめがじょん @jyonnorz
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