第86話  出迎え

親父さんの転移で森の浅瀬まで送ってもらった俺達は帰路を歩いて戻っていた。


二人が町から森へ来るときは、前回同様に馬で来たらしいが、俺がいつ起きるかも判らないため、森へ着いた時点で馬達を帰していた。


特に急ぐ必要もなく、いつになくのんびりと歩きながら視界を遮る小さな丘を上り、広がった景色。


「あ…。」


帰ってこれた…。


視線の先に町の高い壁が見え、思わず立ち止まり、無意識の声がこぼれた。

数日離れていただけなのに、長い間帰っていなかったような懐かしさと安堵が胸を熱くした。


「ほら、帰るぞ。」


そう言ったジェミオが俺の頭をくしゃりと撫でた。


「あんまり情けない表情かおをしてるとあれこれ言われるぞ。」


アルミーが背中を軽くたたうながす。


「情けない表情かおなんてするかよ。」


そう返して、俺は歩みを早めた。


   ◇ ◇ ◇


町の門がはっきりと見える距離まで近づくと、大勢と言うほどでもない人集ひとだかりがこちらを向いているのが分かる。


「あいつらが戻ったって?」

「やっと帰ってきたか。」

「歩いてくる感じ、怪我なんかは無さそうだ。」


また何か起きたのかと思い、魔力強化の応用で聴力を上げて聞こえてきたのは俺を、俺達を迎えに出てきただろう皆の声だった。


俺は皆に向かって、軽く手を上げた。


「ヴェル!!」


人集りの中から一人、俺の名を呼びこちらへ向かって駆け出してきた。


もうあと二歩の距離、笑顔で駆け寄ったフィオの目の前で、俺はさっとしゃがみこむ。


「うわっ!っっ!……何で避けんだよ!?」


俺の肩と言うか、首の高さで伸ばされた腕が空を切り、体勢を崩しかけたものの踏み止まったフィオが抗議の声を上げた。


「なんでってフィオ、お前、首固めする気だったろ。」

「何で分かった?…っていうか、そこは分かってても散々心配かけたんだ、甘んじて受けるぐらいしろよ。」

「いや、当然けるだろ。」


そう、フィオの奴、肩を組む振りをしてそのまま俺の首に腕をまわす気でいたんだ。その後、頭を抱え込むようにして首を圧迫して、相手を落とすまでが流れだ。

過去に何度かフィオを本気で怒らせた時にくらって落とされた。


だが今回は聴力を強化していたお陰でフィオが踏み込む音が聞こえ、回避出来た。

まあ、くらっても覚醒で身体が強化されてるから落ちるまではいかなかったとは思うが、来ると分かれば回避しようとするのは至極しごく当然の反応だろう。


「お前ら、こんなところでじゃれ合ってないで入るぞ。」

「ぐぇっ。…え、ちょっと、締まる!締まる!」

「皆も待ってくれてるんだ、ギルドでの報告を済ませてからにするんだな。」

「っ、何で俺まで。」


俺が回避すると同時に、さりげなく一歩下がっていたジェミオとアルミーがフィオと俺の後ろえりつかんで歩き出す。

そんな俺達の様子を見て、迎えに出ていた皆の笑い声が響いた。

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