第75話 魔具と魔器

流石さすがドラゴン姿まんまじゃ大騒ぎだろうけど、今の姿かっこうになれるなら問題ないだろう? …もしかしてこのおよんで『会わせる顔がない』とか言うのか?」


俺は初めて見るじいさんの力の無い表情に戸惑とまどい、誤魔化ごまかすように口調くちょうを早めて言った、


「まあ、会わせる顔が無いというのも有るにはあるが、それ以前にもう動けんのだよ。」

「それって…。」

「そうだ、私の死期しきは近い。」


爺さんの言葉に心臓が大きく鳴った。


「最後の戦いの前に、妻は娘をかばいその身に滅びの呪いを受けた。解呪かいじゅの方法は無く、そのままでは肉体どころか魂までもが消滅してしまうとわかった時、私は妻が止めるのを聞かず、呪いの一部をこの身に移した。そして呪いによって命きる前に妻の望みのまま私の手でその命をった。この身に移した呪いの一部は時をかけむしばみ続け、命の核たる魔石を石と変えてきた。私はじきに星へとかえる。」

「……。」


俺はじいさんのかたりを聞きながら、うつむいて胸元むなもとを強くにぎめていた。

胸の中に怒りとも、悲しみともつかない感情が荒れ狂い、言葉が出てこない。


「なあ、ヴェルデ。魔剣まけんには二通ふたとおりあるのを知っているか?」


唐突とうとつに話を変えてじいさんが聞いてきた。

反射的にリュネさんに教わったことが脳裏のうりかぶ。


「…剣に限らず、武具ぶぐや道具にのつくものは二通りある。強い魔法や魔力を宿やどしたものを魔具まぐ自我じがの残る魔石を取り込んだ意思いしあるものを魔器まき、そう教わった。」

「ほう、そこまで正確に理解しているならば話しがしやすい。」


俺がぼそぼそと答えた内容を聞いて、じいさんは感心かんしんした後、幾分いくぶんうれしそうな口調くちょうで言った。

そんなじいさんの反応の意味がわからず、俺はまゆをしかめた。


「お前が携えている竜の力を宿す剣。あれは魔具まぐであり魔器まきでもある。」

「?? あの剣はミスリルと竜骨が使われてるから魔具まぐであることは間違いないけど、魔具まぐ魔器まきその両方どちらもって定義的ていぎてきにありえないだろ。」


じいさんの言葉に、俺は否定を返した。

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