第49話 side トニトルス 2

“この者は貴殿きでんにとってそれほどまでに大切な存在か?”


命が助かったと理解した人族もの達が心から安堵あんどする様子に思わず問いかけていた。すると彼らは気を持ち直し、感謝をべる。そして眠る血族の者を家族同然の大切な義弟おとうとだと呼んだ。


"そうか…。"


ながき時を現在いまに、我が血を継ぐ者と邂逅かいこうした事と、その者がいつくしみ庇護ひごされていることに喜びを思うと共に、失くした者達を追想ついそうする。


“ジェミオ殿、アルミー殿、私こそ貴殿きでんに礼を言う。我が名はトニトルス。我が血族の者をいつくしみ、助けていただき感謝する。”


そうげると、庇護者ひごしゃである二人は驚嘆きょうたんする。そうした最中さなか銀狼フェンリル自責じせきねんられ謝罪を口にした。

庇護者ひごしゃの二人は義弟おとうとの命が危険にさらされた原因げんいんと、得た助力じょりょくの間で謝罪を受け入れるかいなかに迷い沈黙していた。


だが原因そうではないのだ。

血族このの者の目覚めは以前より始まっていた。

そしてすで覚醒かくせいのきっかけとなるかぎをその手にしていたのだ。


“この者がその剣を手にした時より、血の目覚めはそう遠くないうちにおとずれた。また剣とわずとも、命が危険にさらされたその時に血は目覚めただろう。それほどにこの者に流れる竜の血はい。”


そう告げると、庇護者ひごしゃはいずれにせよ義弟おとうとの命が危険に晒される運命さだめいきどおりを見せた。

本当に我が血族の者は大切にあいされている。


私は庇護者ひごしゃ銀狼フェンリルに、この邂逅かいこうは幸運であったのだと話した。


そして今回の覚醒かくせいまれな事であると告げていると、血族そのの者の右耳の下あたりから右腕のひじまでにあわい緑色のうろこが現れていた。


再び動揺どうようする庇護者ひごしゃ達に、竜の血を飲ませ身体を強化した一時的な影響だと説明すると、揚々ようよう落ち着いた。


そうして気がつけば空が黄昏たそがれに染まっていた。通常であれば辺りが暗くなると精霊達が淡い光を纏い飛び交うのだが、今は精霊達が気を利かせて明るさを保っていたらしい。

庇護者ひごしゃ達にこのままこの場所で休むようすすめていると、銀狼フェンリル奥方おくがたが心配なので一度戻ってくると言うので、子狼こどもの事は心配いらぬと送り出した。


何の事か分からぬ庇護者ひごしゃ達に銀狼フェンリル奥方おくがたの体調が思わしくないことを話すと、銀狼フェンリル達が居着いつくかどうかを気にし始めた。


“ふむ。そういえば、このような状況になった経緯いきさつを聞いていなかったな。貴殿等きでんら、聞かせてくれんか?”

「我々の本来の目的はこの森で起きていた異変の調査です。」


そうして庇護者ひごしゃ達は事の始まりである森の出来事からここにいたるまでを話し出した。


話しを聞きながら、眠る血族そのの者の様子をるが、右半身に変わらずうろこが現れたままでいる。


先程さきほど庇護者ひごしゃ達を落ち着かせるために一時的なものだと告げたのは嘘ではない。だが本当のところは良くない兆候ちょうこうだ。


本来ならば魔力と共に制御するはずの身体の変化が押さえきれていない。このまま制御が出来ない状態が続けば、精神が消耗しょうもうし、魔力ないし血の力にみ込まれ一生を眠り続けることになる。

少々に行った方がいいだろう。


庇護者ひごしゃ達の話しが終わったところで切り上げることにする。


“そうであったか。ふむ、原因とその対策については明日銀狼フェンリル殿も交えて話した方がいいだろう。貴殿達きでんらも疲労しているだろう。今日はもう休むがいい。ここは差程冷えぬが、火をおこすなり自由にしてもらって構わぬ。ああ、もてなしは出来ぬが寝床ねどこくらいは用意しよう。……、……、…。”


二つの魔法をうたい、少し離れた場所に蔓草つるくさ伸ばし広めのとこみ上げると、庇護者ひごしゃ達に断りを入れ意識を落とした。



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