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「これで国境線の警備も甘くなったな」
嬉しそうな表情で対面に座る盲目の美少女、ジネーヴラを見ているマルティーナは深紅のワインが入ったグラスをくるくると回しながらそう言った。
「しかも、第三皇太子は病死扱い……!!」
堪えきれずに大きな声で笑い出すマルティーナに、ジネーヴラも口元を押さえふふふっと笑っている。
「本当に、それで通じるとでも思っているんでしょうかね……」
「まさかっ!! 奴らも馬鹿ではないさ。まぁ、暗殺されましたなんて口が裂けても言えんだろうし。そして、我らが流した極東の島の残党情報」
「上手く各国へ流れ広まっているようですね」
ジネーヴラはそう言うと、テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばした。そして、ふぅっと一息つくと、またことりとテーブルへ戻す。
さらりと綺麗な黒髪がその動きに合わせ、ゆらゆらと揺れている。
「攻め時だな……ジネーヴラ」
にたりと笑みを浮かべたマルティーナ。
「ジネーヴラ、君に任務だ。エルダ、レオンティーヌの二人を連れクラン帝国の国境警備隊をとことん叩いてくれないか?やり方は、全て君に任せるよ」
「任せてください、マルティーナ。貴女の期待に必ず応えましょう」
「ああ……ジネーヴラ。君はとても素晴らしく美しい狂戦士。私は君ならば、必ず成功すると信じているよ」
マルティーナは席を立ちジネーヴラの後ろへと回ると、背後からジネーヴラを抱きしめ耳元で囁いた。
ジネーヴラはそんなマルティーナの腕に優しく何度もキスをするのであった。
「面白い……本当に面白いと思わぬか」
クラン帝国の山岳地帯の奥深く、誰も入り込まない深い森の中に今にも朽ち果てそうな古い小屋がある。
その中に、五人の少女とも呼べる年頃の女がばりばりと肉に喰らいつきながら食事を取っている最中であった。
「……第三皇太子暗殺の事ですか?」
「そうだとも揚羽よ。主も我らがせいになっている事位は知っておろう」
「ええ……全くもっておかしな話しではありますが……まぁ、余計な手間が省けたのは良しとしましょう」
揚羽は焼かれた肉を器用に脇差で切り分けると、横に座っている少し小さな少女の皿へと取り分けている。
「ありがとう、揚羽」
「ほらほら椿……その様にかぶりついては口の周りが脂でべとべとに……」
取り分けられた肉を頬張る椿へ、慌てて口の周りを拭いている揚羽。
「ふへっふへっふへっ……過保護過ぎるのではないか、揚羽? まるで姉妹のようじゃ……ほら……巷では……シス……シスコンと言うのじゃったかなぁ、ふへっふへっ」
二人の様子を見ながら下品な声を立てて笑う夕顔にへへへっと笑う椿とは対照的に、じろりと睨みつける揚羽。そんな揚羽に夕顔が、おお怖いと首を竦めている。
「まぁ、どちらにせよ、首都付近の警備が強化されてしまったのは痛い。じゃが、二手に分かれ、クランの蟲共をかき乱してやろうではないか」
朝顔は四人の顔をぐるりと見回しながらそう言った。そして、椿が肉を食う手を休め紫陽花の方へと視線を向けると、じろりと睨むように見つめている。
「おい、紫陽花。次はこの前の様な失態は許さぬぞ。勝手に秘薬まで使いおって」
「申し訳ありません」
がたがたと震える紫陽花へ見兼ねた揚羽が助け舟を出した。
「まあまあ、椿。そこまで紫陽花を追い詰めた相手を褒めてやりましょう。ハインツの狂戦士は強いとは聞いておったが、まさか秘薬まで使わせるとは……天晴ではありませぬか」
ほほほっと笑いながらそう言う揚羽に椿は主がそう言うならと、また肉を頬張り始めた。
「それで……
「そうじゃ。
揚羽はごくりと生唾を飲み込む朝顔ら三人へにたりと笑いかけた。
「さぁ……時は満ちた……帝国に復讐の刃を……皇帝に死を……存分に暴れるのじゃ‼︎」
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