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「残念だが、私は貴様らに話すことなんて他にないぞ。私ら戦場監察官はただ直前に命令を下されるだけだからな……ハインツはどうかは知らんが、帝国では監察官なんぞ道具に過ぎん」


 壁に寄りかかりながら吐き捨てる様に話すルイーサは、どこか諦めている様な表情をしている。


「道具とは?」


「帝国はハインツと違いハイランカーの狂戦士が少ない。リオニーやアンドルフィーナがそうだ。だから貴重なんだよ、ハイランカーの狂戦士達は。それに引き換え監察官や監察官候補生は腐るほどいる」


 一旦話しをやめ、小さな溜息をつくルイーサ。頭をぼりぼりとかくと、俯きながら話しを再開した。


「だから私ら監察官は消耗品なんだよ。替えなんていくらでもいるんだ。捕虜交換や私を救出しに来ることなんてありえないし、このまま釈放されて帰国しても監察官に戻れるわけが無い。こんな片腕しかない私を待っているのは……惨めな生活だけだ……お願いだ……殺してくれないか?罪状なんてなんでもいいから……頼むから……殺してくれ」


 淡々と話していたルイーサは最後には懇願するような声でそう言うと黙り込んでしまった。あの戦線で見せていた勇敢な姿からは想像がつかない弱々しい姿である。


「……それは出来ない」


 そんな願いが聞き入れてもらえるなんてない事くらいルイーサにも分かっていた。戦争法では捕虜を各国が納得のいく罪状での裁判で裁かない限り死刑などありえない。ルイーサも戦争法を遵守して戦っていたから分かっている事だった。しかし、ルイーサはそれだけ絶望しているのである。使い捨てとして捨てられる自分の未来に。


 ふんふんふふふふんふんふん♪

 ふんふんふふふん♪


 ふんふんふふふふんふんふんふん♪

 ふふふふふんふんふん♪


 突然1103が鼻唄を口ずさみだした。同席していた看守達が戸惑いイヴァンナと1103の顔を交互に見ている。そして、自分の膝に顔を埋めていたルイーサがその鼻唄に反応して顔を上げた。


「……一体、なんなんだ、その鼻唄は?イヴァンナ、お前が教えたのか?」


「いいえ、これは……」


 ルイーサの問いにイヴァンナはちらりと1103の方へと視線を送り答えようとした時に、ぴたりと鼻唄が止まった。


「お母さんが好きだったの……私によく聞かせてくれてたの」


 ぽつりぽつりと話す1103を信じられない顔で見つめるルイーサは、イヴァンナへと顔を向けて尋ねた。


 ふふふふ♪

 ふふふふふん♪


「お母さん……だと?死神少女DeathDollは育成監察官とではなく、母親と過ごしていたのか?」


「いえ、他の狂戦士達と同じく育成監察官に育てられています」


「しかし……お母さんと……」


 クラン帝国もハインツと同じく比較的高い能力を持って生まれた者は、生後すぐに母親から引き離され育成監察官の元で狂戦士となるべく育てられ、その後、戦線へと出征できる十才になると戦場監察官へと引き継がれる。


 だから、驚いていたのだ。


 死神少女DeathDollと呼ばれる程の能力の高い能力者が母親と過ごす時期があったのかと。


 ふふふふ♪

 ふふふふふん♪


「私も1103と育成監察官であったアンジェラの間に何があったのかは詳しくは分かりませんが、アンジェラの事をお母さんと呼んでいたみたいです。それに、1103の心の奥底にはお母さんと呼ぶアンジェラの姿がまだ色濃く残っているようで……」


「しかし……育成監察官とは狂戦士になる為に必要な戦闘術など以外教えてはいけないはずだぞ。そうでなければ……自我をもつ危険性が……」


 信じられないと言った表情で1103を見つめているルイーサの視線など気にもとめずに鼻唄を口ずさみ続ける1103の髪をそっと撫でるイヴァンナ。


「大丈夫です。この子の中にはアンジェラがいますから。アンジェラがこの子の暴走を止めてくれますよ」


 ふふふんふふ♪

 ふふふん♪

 ふんふふふんふんふん♪


「やはり、貴様はお人好しすぎるな」


 ルイーサはそう言うと、椅子から離れ備え付けのベッドへと横になった。


 もう何も話すこのなんてないと言う意思表示だろう。


 そんなルイーサの様子をしばらく見ていたイヴァンナ達はまた来ますとルイーサへと伝えると、看守へと礼を言い部屋を出ていった。

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