第六話 三つ巴
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鬱蒼と生い茂る森の一角に周りを高い塀と有刺鉄線でぐるりと囲まれた堅牢な造りの建物がある。
そこに入るには、まず一つ目の扉にて身分確認を受ける。そして、しばらく進むとまた扉があり、そこではさらに金属探知機などを使用しボディチェックと手荷物の確認。そして面会者への伝達などが行われ、許可がおりるてやっと建物の中へと入れる。
ハインツ捕虜収容所。
戦線で捕えられ捕虜となった敵国の兵士や、スパイとして密入国した特務部隊などが収容されている。
「戦場監察官のイヴァンナ。そしてCodeNo.1103の二名。クラン帝国戦場監察官のルイーサへの面会及び取調べで来ました」
入口でイヴァンナと1103の二人が守衛へと身分と要件を伝えると、守衛は敬礼をして二人を出迎えた。
「はい、聞いております。お二人が来られた時はスムーズに通すように命令されております」
そして守衛はどこかへ連絡するとすぐに門が開き、屈強な肉体をしている兵士が二人出てきてイヴァンナ達へ敬礼した。それにイヴァンナも敬礼で応えると、二人の兵士の後へと続き収容所の中へと入っていく。
「どうですか、ルイーサの様子は?」
「なんとも言えませんね。かなり傷も痛むはずなんでしょうが、全く顔色一つ変えること無くしていますし、頑として喋ろうとしませんし。我々も戦争法に従い動いておりますんで無茶な取調べも出来ませんからね」
本当に困ったと言うような顔をして話す兵士に、何となくルイーサの姿が想像できてイヴァンナは苦笑いを浮かべてしまった。
「まぁ、クラン帝国で一二を争う戦場監察官ですからね。戦争法を遵守する取調べなど苦でもないでしょうから。かといって戦争法を無視するような事をすると、それはそれで大問題ですからね……」
戦争法。
かつてなんでもありだった戦争にルールが作られた。民間人への攻撃の禁止。捕虜の取り扱い。化学兵器などの使用禁止等。
特に捕虜の取り扱いについては、各国の捕虜収容所に抜き打ちでの査察が入るほどの徹底ぶりである。しかし、それも過去に残虐非道の行為の数々があったからである。
捕虜収容所の建物内はとても明るく綺麗であった。戦争法が施行される前とは比べ物にならない。あの当時は、人間が住む環境としては最低限の事しかなされていなかった。しかし、今は人権も守られ、かなり快適である。自由は殆ど無いのだが。あとは自殺などの予防のため、徹底的にボディチェックは受けるが、それは、各国も了解している。
そして、収容所の一番奥にある他よりも厳重に警備されている区画があり、そこにはB-からB+までの狂戦士が三人も警備に参加している。それだけ、重要な人物が収容されているという事だ。
そこに、クラン帝国戦場監察官のルイーサか収監されていた。ルイーサの元へ行くまでに三つの扉を通り、自国の戦場監察官とはいえボディチェックも受けなければならない。そして、やっとルイーサの元へと辿りつける。
ルイーサとの面会は鉄格子越しに行われた。
「ふん、誰かと思えばお人好しのイヴァンナ監察官じゃないか?」
イヴァンナの顔を見た途端に悪態をつくルイーサに苦笑いをしたイヴァンナは、肘から先が痛々しく包帯で巻かれているのに目をやった。
「おかげで片腕だけで済んだな」
イヴァンナの視線に気付いたルイーサはそう言うと、怪我している方の手をわざわざ見せつけるように高く上げた。
「あなたはその腕を斬った者に心当たりはありますか?」
ルイーサはイヴァンナの問いににやりと笑みを浮かべるとすんなりと話し出した。
「別に隠すことでもない。あれは自我を持つ狂戦士。極東にある島国の残党だ。我がクラン帝国へ復讐するだとか言っていたからな」
イヴァンナの知っている範囲で、自我を持つ狂戦士はクラン帝国及びハインツにはいない。いるとしたら、ベルツのジネーヴラ、そしてマドルに数人いると噂で聞いた位である。それか、クラン帝国に蹂躙された極東の島国。そこの狂戦士達は皆、自我を持っていたという半ば伝説的な話しだけである。
その極東の島国には育成監察官も戦場監察官もおらず、いきなり各部隊へ配属され訓練を受けると言う過酷なものであり、そこで二人ないし三人で隠密的に行動する。そして、狂戦士が狂戦士を粛清する部隊もあると聞いた。わかりやすく言えば忍者みたいなものである。
そこが動き出したと言うわけである。かつて自分達の国を蹂躙したクラン帝国へ復讐するために。
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