3
すっかり日の落ちた山岳地帯。森林の中を縦断する未舗装の道路を一台のトラックが走っている。トラックのライトは変わり映えのしない景色を照らし続け、あがる砂煙が辺りを霧のように覆っていく。
「もうすぐクランとの国境付近です。そろそろ準備をお願いします、大尉」
トラックにかけられている幌の中に、三人の少女と二人の兵士がいる。二人のうちの一人の兵士が少女へと声をかけた。声をかけられた少女、ジネーヴラはわかりましたと返事をすると、両脇へと座る少女、エルダとレオンティーヌの肩へ手を乗せた。
三人の少女は上下共に黒い服、艶のない黒いブーツ、そして顔を半分程隠れるマスクを着用していた。
まるでその姿は忍者のようである。
「さぁ、行きましょうか」
そう言うと、走っているトラックの荷台から飛び降り闇の中へと消えていく。それを確認した兵士は無線でマルティーナへと連絡を入れた。
トラックから降りた三人はクラン帝国国境まで森の中を音も立てずに向かっている。
ベルツとクランも大きな国土を持っていることもあり、国境線全てを警備出来るわでもないし、その全てに有刺鉄線や塀を付けれるわけではない。特にこの辺りは木が鬱蒼と茂る森林の中であり、罠に注意が必要なだけである。
しばらく進んだ三人の目の前に、赤いテープがあちこちの木に巻いてあるのが見えた。国境線を知らせるマーカーである。
付近の枝や木の幹、足元を注意しながら進む三人は特に罠などが仕掛けられていない事を確認すると、また音もなく走りはじめた。
流石はSランカーとAランカーの狂戦士達である。特にジネーヴラにしては本当に盲目かと疑ってしまうほどである。僅かな空気の乱れ、振動などを把握し進んでいる。
すると先頭を行くエルダが止まると、後方の二人へ片手を上げて止まれの合図を出した。
「前方にクランの兵士が数名確認出来ます。殺りますか?それとも回避しますか?」
エルダがジネーヴラに指示を仰ぐ。
ジネーヴラはレオンティーヌへ兵士の処理を指示し、エルダへは自分と一緒に先に向かう事を伝えるとレオンティーヌの肩を叩いた。
レオンティーヌは頷くと静かに闇の中へと消えて行く。
それを確認したジネーヴラはエルダと移動を始めた。
レオンティーヌは闇の中を獲物を探す獣のように静かに移動している。すると、先の方に焚き火と思われる明かりが見えてきた。
焚き火の周りに五人の兵士が食事をしながら酒を飲んでいる。全く呑気なものである。それもしょうがない。ここら辺一体の国境線付近は特にベルツとのいざこざもなく、比較的平和な場所である。それに夜も遅くなってきた事もあり、もう何もないだろうとつい気が緩み酒も飲んでしまう。
ベルツの
するするとレオンティーヌは闇に紛れ兵士達の側まで近づいた。それでも兵士達はお喋りと食事と酒に気を取られ気づかない。
まさにサバンナで水を飲むのに夢中になったガゼルが後ろに迫っているライオンに気がついていないのと同じである。
しゅっとレオンティーヌが息を吐き出すと同時に苦無を二本投げた。
それが兵士二人の眉間に突き刺さる。
突然、目の前にいた仲間の眉間に苦無が刺さり倒れていく姿に、慌てて敵が来たことに気づいた残りの兵士は脇に置いてある銃を取り対応しようとしたが、時すでに遅し。
ぶうんっという風切り音と共に二人の胴体が横になぎ払われ真っ二つになった。
残った一人の兵士は為す術もなく、突如現れたレオンティーヌを見て腰を抜かし震えているだけだった。
レオンティーヌは大きな斧をぶんっと振り上げると、震えて失禁までしている兵士の脳天へと振り下ろした。
「完了。二人に追いつきます」
小さな体のレオンティーヌは、その大きな斧を軽々と背負うとジネーヴラとエルダのいると思われる方向へと消えていった。
あっという間の出来事であった。
消された焚き火跡と、苦無が眉間に刺さった死体が二つ。
そして体を真っ二つにされた死体が三つ。
誰にも気づかれることなく残されていた。放って置いても、森林に住む獣達が綺麗に食べてくれる。
静かな夜の闇が包む森林を進む、
その可憐な姿と裏腹に凶暴さを含んだ少女達。その先に起こる新たな戦争の種を蒔くために。
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