4
そしてその頃、ユリア監察官と963は、ここ数日で三つの駐屯地を壊滅させている。そして、現在、今回の壊滅作戦最後の駐屯地へ向かっている最中であった。
向かっている駐屯地はクラン帝国の軍事的小都市にほど近い場所にあり、今までの駐屯地よりも素早く壊滅させなければ増援が来る恐れがある。
さすがにハインツで最も能力の高い狂戦士の一人とはいえ、三百名を超える大隊を相手に戦うのは不可能である。せめて百名程度の中隊がやっとである。それも地の利を活かした作戦があってからこそなのであるが。やはり最も効率が良いのは五十名程度の小隊を相手にすることである。
まぁ、山岳地帯に大隊が来ることはほとんどないが、軍事都市に近いということもあり油断は出来ない。それに963達が駐屯地を壊滅しながら進んでいるというのは、既にクラン帝国側も把握済みであるだろう。
そして、もう一つ厄介なことがある。クラン帝国はハインツと比べずば抜けて能力の高い狂戦士が少なく、ハインツの評価で言うならCランク程度の狂戦士達ばかりである。しかし、その中にもA-(マイナス)、B+程度のランカー達も数名はいる。ユリア監察官の知っている限りでは二名。A+ランカーのリオニーとアドルフィーナである。
A-ランカーなら単体でも作戦遂行は可能であるが、何分、クラン帝国はその数も少なく、先の作戦で駆除したB-の赤猫と黒猫を筆頭に、Cランカーの狂戦士を含めた八体の部隊であった山猫がそうであるように、基本的にA-からB-までの狂戦士をリーダーとした六から八体の部隊を組んでくる。
全てがCランカー部隊やリーダーがB+程度の部隊なら六体だろうが八体だろうが、Sランカーの1103はもとより、A+ランカーの963やAランカーの1009が一人でも十分なのだが、そこにA-ランカーが入ると少し話しが違ってくる。A-とB+では、その能力に数段の格差がある。
ユリア監察官達の情報が既にクラン帝国へ渡っているなら、A+のリオニーかアドルフィーナの部隊を寄越すはずである。もし来るのであれば、ユリア監察官は多分、ルイーサ監察官率いるリオニーの部隊だろうと予想している。
ルイーサの溺愛するリオニーの片目を潰し、敗走者の汚名を着せた、ユリア監察官と隻腕の
先日壊滅した駐屯地の報告がクラン帝国へ伝達され、ルイーサの部隊が駐屯地へ配置されるのであれば、もう既に到着している頃だろう。
『面倒な事になりそうだな……』
ちらりと963に目を向けるユリア監察官。その視線を黙って受け止めた963がすっと木の枝へと飛び乗った。その木の下に座り込むユリア監察官は無線を取り出し、交信を始める。
「こちらイヴァンナ」
山岳地帯からか、ややノイズの多いマイクからイヴァンナの声が聞こえて来る。
「こちらユリア。今から作戦最後の駐屯地へ向かう。もしかしたら、ルイーサ監察官率いる部隊と交戦する可能性が高い。イヴァンナかノンナのどちらか、応援を頼めないか?」
「私達は川沿いの駐屯地を壊滅し、今はそちらに向かっているところです。あと、ノンナ監察官はそこからかなり離れた所にいるので応援は難しいかと……」
「了解、どれくらいで到着できそうだ?」
「多分、急いでも一時間半くらいかと……」
「一時間半か……」
「一旦、ユリア監察官はそこから退いて、どこかで落ち合いましょう」
「了解、それでは私達はここから数キロ下がったところにある岩屋で待機しておく。よろしく頼むイヴァンナ」
「了解!!急ぎます!!」
イヴァンナ監察官は自分よりも三つ年下であるが軍人としても優秀で、人間的にも信頼のおける後輩だとユリア監察官は思っている。
木の上で辺りの様子を伺っていた963に岩屋への移動を伝えると、すっと消えるようにその場から立ち去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます