第4話 勃発
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「山猫が全滅したそうだ」
初老の男が後ろ手に組み、窓から見える外の景色に顔を向け、少し離れたところに立っている一人の女に向かって言った。
「作戦は失敗でしたか」
「いや、山村は崩壊。もう使い物にはならんだろう。作戦的には成功だ。まぁ、それが唯一の救いだろう」
「まぁ、山猫は特殊部隊の中でも下の下。作戦が成功しただけでも良しとしましょう」
女は、あの山村を襲撃したヴァレリー率いる八体の狂戦士部隊『山猫』が全滅したことに対し、特に怒りや悲しみなど感じない様子であり、とりあえず作戦が成功した事だけ安心していた。
「ふん、しかし相手があの
「隻腕の
初老の男がそう言うと、女が隻腕の
「そうだったな、ルイーサ。お前とリオニーは隻腕の
初老の男は、ルイーサと呼んだその女の方へと顔を向けると、にやりと笑みを浮かべた。その笑みを無感情な瞳で見つめるルイーサに男が煙草に火を着けながら話し始めた。
「我らクラン帝国とハインツの国境線にある湖の水上部隊駐屯地が昨日、ユリア監察官率いる隻腕の
煙草を不味そうに吸いながら、苦々しい顔で話し続ける男はぶはぁっと紫煙を吐き出し、大きなため息をついた。
「ここからの方が奴らより先にその駐屯地へ行くことができる。そこでだ……」
煙草をぐりっと灰皿に押し付けながら消すと、男はぎろりとルイーサのほうを睨むようにして見て命令を下した。
「ルイーサ監察官とリオニーへ告ぐ。今から早急に駐屯地へ向かい、ハインツのユリア監察官及び隻腕の
ルイーサ監察官は男へ敬礼をすると、すっと方向を変え部屋から退室した。
ルイーサの顔に歓喜の表情が浮かんでいる。先程の男の話しから、ただならぬ因縁がルイーサとユリアの間にある事が分かる。
「待っていろ、ユリア!!待っていろ、隻腕の
ぎりっと強く握りしめられたルイーサの両の拳がぷるぷると震えていた。
その勢力を伸ばそうとしているクラン帝国とそれに対抗するのはハインツだけではなく、ベルツ連邦、ラルクラ王国、マドル王国も同じである。
軍事、産業、商業共に、他の周辺諸国よりも進んでいるクラン帝国だが、流石に四つの国と同時に戦争を行うことは無謀であり、避けて通りたいところである。
西側に隣接するハインツは、小国で昔からクラン帝国による侵略を繰り返されてきた歴史がある。その為、クラン帝国より追い詰められたハインツは、その能力者を生み出しやすい地域という事もあり隔離政策による能力の高い狂戦士を大量に生産するという非人道的な政策で、両国の間にあった圧倒的な兵力の差を埋めてきている。特に、ハインツが率いる高い能力を有する狂戦士達の中でも、群を抜いている三体の狂戦士、1103、963、1009には手を焼いている状況であり、また、ハインツの狂戦士部隊は監察官達と二人一組で行動する事が多く、その位置を掴みにくい。
ハインツを潰すだけの兵力を集結させ、一気に片付けるというのは出来ない事ではないクラン帝国だが、東側にはベルツ連邦、海を挟んでラルクラ王国が、クラン帝国の隙を虎視眈々と狙っていることから、各方面に常駐させている部隊をハインツだけのために召集させる事が出来ないのである。
かといって、そうしている間にもハインツとの国境線の駐屯地が、神出鬼没の狂戦士達に壊滅されてくのを指をくわえて見ているだけにはいかない。
そこで白羽の矢を立てられたのが、ルイーサ率いる六体の狂戦士部隊である。部隊の中心である狂戦士のリオニーはクラン帝国の中で最も優れた能力を持っており、これまでもハインツの狂戦士達を幾人も駆除してきた実績がある。
しかし、リオニーは戦闘により左眼を失っている。過去に一度、963、通称、隻腕の
しかし、隻腕の
そのような経緯もありルイーサは、再び、あの憎っくきユリア監察官と隻腕の
ルイーサは、命令が下った後の僅かな間に素早く準備を整えると、リオニー達狂戦士部隊を率いて、国境線の駐屯地へと向かった。
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