おうち時間を満喫していたらゾンビが襲ってきたので儀式を行って世界を救うぜ!

 私はしがない売れない小説家。今日は取材に出かける予定だったものの、出発前に取材相手からキャンセルの連絡が入ってきた。突然ぽっかり時間が空いてしまったのだ。なのでする事が思いつかず、必然的におうち時間を満喫する事になる。まぁ録画番組もたくさん撮り溜めていたし、今日はそれを消化するかな。


 自室で大好きな3分番組の最終回を見ていたところ、突然ものすごい叫び声が聞こえてきた。何事かと思った私は、何も確認せずに急いで靴だけ履いて家から出る。


「あれ?」


 振り返ると、特に何も起こっている様子はない。変な違和感に襲われていると、物陰からゾンビが現れた。え? 意味が分かないんですけど?

 ゾンビは私の方向に顔を向ける。ヤバいと直観した私はすぐに走り出す。私が走り出したと同時にゾンビも呼応するように追いかけてきた。走ったのはまずかった? いやでも走る以外に選択肢はないはず。


 私は免許は持っているけど車は持っていない。だからゾンビから逃げるには自分の体力を頼るしかなかった。この時ばかりはインドア派の自分を呪う。ゾンビにすぐに追いつかれてしまったのだ。


「いやあああ!」


 ゾンビの腐った顔が近付いたその時、ポケットに入れていたスマホが鳴る。その呼び出し音を聞いたゾンビはピタッと動きを止めた。もしかしたらと私はスマホを取り出すとゾンビに向ける。

 すると、ゾンビはいきなり逃げ出していった。


「スマホの呼び出し音が弱点……?」


 とにかく、脅威も去ったので電話に出る。かけてきたのは同業者の『きらびやかな指』、私の小説家仲間たちの内の1人だ。


「知ってるか? 今アチコチでやばい事になってっぞ」

「ゾンビなら今襲われたよ」

「あんだって? よく無事だったな。とにかく今からまどるの家に来てくれ」


 電話は一方的に切れる。まどるとはネットで知り合った友人で、私の小説の読者の1人でもある。電話の声から緊急性を感じた私はすぐに彼の家へと向かった。


「ここに来るのも久しぶりだな」


 まどるは根っからのラノベマニアで、私と同じ同業者を何人も家に招待している。その度に豪勢な食事でもてなしてくれるんだ。私がここに来るのは半年ぶりになる。

 玄関のドアを開けて中に入ると、そこには既に仲間たちが集まっていた。


「え? 何でこんなに集まってるの?」

「お、みんな、かよちゃんが来たぞ!」

「おお、無事だったか、良かった!」


 集まっていた仲間たちが一斉に集まってくる。この状況がよく分からない。みんなゾンビから逃げてきたのだろうか? 私が戸惑っていると、家主のまどるが正装で現れた。


「皆さん、集まってくれて有難うございます。まどるです」

「ねぇ、どう言う事?」

「混乱するのも無理ないですよね。ではまず皆さんに集まってもらった理由をお話します」


 彼の話はこうだ。街にゾンビが出現し始めた。これは過去に何度も起きた異常事態で、今回で21回目になるらしい。今までそれほど大きな騒ぎにならなかったのは、その都度事態を収集して口封じをしてきたからなのだとか。


「しかし21回目の今回は今までの方法が通じないのです。だから私の大事な作品の作者たちだけでも守ろうと我が家に避難してもらいました」

「あのゾンビをどうにかする方法はないの?」

「実は、あります。けれど……」


 まどるはいきなりくちごもる。多分危険な方法なのだろう。それでも私は方法があるのなら聞きたかった。


「まどる、教えて!」

「この騒動を収めるには儀式を行うしかありません。その儀式はソロ、1人でやらないといけないのです。危険すぎます」

「私、ここには最後に来たけどゾンビには会わなかった。今ならきっとその儀式も出来るよ」

「では、かよさんに任せます」

「え?」


 と言う訳で成り行きで私が儀式を行う羽目になってしまった。自分から言い出した以上キャンセルは出来ない。とほほ~。仕方がないので、私は覚悟を決める。


「で、何をすればいいの?」

「この我が家に伝わる尊い像を持って遺跡の舞台で踊ってください。それがトリガーになります。舞台が反応したら走って遺跡を出てください。それで終わりです」

「わ、分かった……」


 まどるから儀式に使う丸っこいトリの像を渡される。これが尊い像ね。訳の分からない儀式だなとは思いつつ、私はすぐに実行する事にした。ゾンビがいつまた本格的に襲ってくるか分からないからだ。鉄は熱い内に打てって言うやつだよね。


 幸い、儀式を行う遺跡に行くまでにゾンビは1人も現れなかった。私はゴクリとつばを飲み込むと、初めて来たその遺跡に足を踏み入れる。


「最後まで何事も起こりませんように……」


 私は言われた通り、遺跡の奥にある祭祀の場の舞台に辿り着く。舞台は吹き抜けになっていて、見上げると青空が見えていた。


「やるか……」


 舞台に立った私は像を服の中に入れて踊り始める。像との一体感が大事なのだそうだ。踊りはその場で思いついたものでいいらしい。不安だったものの、舞台上で深呼吸をしていると自然に足が動き出した。


「ほっほほ~♪ ほっほほ~♪」


 自作自演の創作ダンス。足はステップを踏み、手も揺れる。見えない水の流れに沿うような感じで私はひたすら踊り狂った。この瞬間、私は神からの教えを地上に伝える巫女となる。

 トランス状態になって踊っていると舞台が光り始めた。よし、次の段階だ。私はすぐに走り出す。遺跡から出ればゴール。ゾンビはいなくなる。


「うおおおお!」


 テンションを上げて全力疾走していると、遺跡内に潜んでいたゾンビが現れた。どうやら儀式を阻止しに現れたようだ。舞台を光らせても私が遺跡から出なければ場儀式は完了しないのだから。


「負けるかあ」


 私は走る。全力を出して必死に走る。とにかく走る。しかしゾンビの方も必死だ。その形相でも分かる。ゾンビはいつでも噛み付けるように大きな口を開けていた。それがまた恐怖を倍増させる。怖い。


「ギャアアア!」


 恐怖で絶叫しながら走っていると、足が絡まって思いっきりすっ転んだ。ゾンビはグッと距離を詰めてくる。私はこうなった時のための秘策を仲間たちに頼んでいた。すぐにスマホを操作して電話をしてくれるように連絡する。ゾンビはその間にも近付いてくる。


「シャアアア!」

「ギャアアア!」


 ゾンビの手が私の肩を掴む。私はスマホをかざす。ゾンビは私を噛もうと思いっきり顔を振り上げた。その時、間一髪でスマホが鳴る。その呼び出し音を聞いたゾンビは怯えてすぐに私から離れた。


「よ、よし!」


 私はまたすぐに走り出した。ゴールはすぐそこだ。怯んだゾンビもまた動き出しす。もう同じ手は使えないかも知れない。遺跡の入口が見えてくる。光が迫ってきた。ゾンビは今までにないスピードで追いかけてくる。私との距離はどんどん縮まってくる。


「気合だああああ!」


 私は後ろを振り返らずに前だけを見た。出口の光が祝福するように包み込む。私はゴールを切れたのだ。


「やったああ!」


 遺跡から外に出た瞬間、胸に納めていたトリの像が実体化した。


「よくやったホー!」


 トリはそのまま空を舞い、くるくるとトンビのように旋回しながら上昇していく。そうしながらその体から粒子のようなものを撒き散らしていった。その粒子が空気と混ざり合う事で、ゾンビの呪いは解けていく。こうして街に平和が戻ったのだった。


「ふう……」


 全てが終わり、疲れ切った私は地面にぺたりと座り込む。後でこの事をネタに小説を書こうっと。

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