謎の石版に導かれて
とある山深い片田舎に、発掘が趣味のマロウと言う男がいた。彼は毎日暇さえあれば地元にある古代の都市跡を発掘している。
ある日、マロウはいつもと違う横穴を発見。そのまま掘り進めていると、そこで謎の石版を発見する。すごく昔のもののはずなのに、その石版はさっき作られたばかりと思わせるほどに新しかった。
「何だこれ……。とんでもないお宝だぞ……!」
この時、彼は直観する。この特殊な石版にはものすごい秘密が隠されていると。マロウはそのA4サイズの石版を綺麗に掘り起こし、自宅に持ち帰った。そこで早速石版の研究を始める。石版には古代文字が刻まれていて、解読自体はスムーズに進んだ。その古代文字が既に既知のものだったからだ。
ただし、言葉は分かってもそれが表している情報は謎が多くさっぱり理解が出来ない。まるで抽象詩のようなその内容は、彼1人では全く太刀打ち出来なかった。
「ダメだ! 分からん」
こう言う場合、普通の研究者なら仲間に助けを乞うだろう。マロウは1人孤独に趣味で研究を続けているだけの一般人。同じ志の仲間や友人はいない。横の繋がりが期待出来ないならと、彼はある秘策を思いつく。
「よし、ネットの皆さんと情報を共有しよう!」
そう、リアルな友人関係ではなく、インターネットの力を借りたのだ。マロウの出した情報は最初こそ誰にも見向きもされなかったものの、やがて少しずつ有志が集まり、様々な考察がなされていく。その手のオタク達の間に話題が浸透した事で、彼のPCには全国から情報が集まってくるようになった。
その中には見当違いのノイズも混じっていたものの、精査をしている内に石版の示す内容も段々と把握出来るようになる。
「……これが本当なら、スゴい事だぞ」
彼が辿り着いた石版の内容はこうだ。そこに示された座標にエネルギーの塊のキューブがある。人類が危機に瀕した時にはそれを使って復興するべしと言うもの。この謎のキューブはまだ発見されていない。もし石版の記述通りに見つかったらマロウは第一発見者として有名人にもなれるだろう。
そこまで妄想が膨らんだ彼は、道具一式を揃えてキューブの発掘に向かう。幸いな事に、石版の示す座標はマロウの住む街からそこまで遠いものではなかった。
「さて、掘るかぁ」
座標の場所は現在洞窟になっている。上手く行けば、その洞窟の中で座標まで掘り進める事でキューブを見つけ出せるはず。慎重に現在位置を確認しながら作業を続けていると、ついに埋まっているキューブを発見する。ただし、見た目は石で出来た直方体だったため、彼は大事にそれを持ち帰った。
自宅でこの1辺50センチの石の直方体の研究を始めると、そこには膨大なエネルギーが秘められている事が分かる。
「何だこれ! 古代にこんな技術が? まさにロストテクノロジー!」
この事実を知ったマロウは興奮して鼓動が早くなる。そうして直観した。このキューブがあれば世界はエネルギー問題から開放されると。
彼は情報を全てオープンにして世界中から協力を求め、キューブの解析を続ける。この話題は世界中を駆け巡り、多くの支援と協力を得た。マロウの元を訪れる本物の研究者も現れ始め、キューブは彼と共にもっと設備の整った研究所へと移動する。
最新鋭の研究所でキューブの解析は続いていった。その結果、このキューブは専門の装置でしかそのエネルギーを取り出せない事が分かってきた。そこからは、その装置の復元に取り組む事になる。
数カ月後、彼がその装置の復元のために古代遺跡の発掘調査に向かい、研究所に帰ってくるとキューブが消えている事に気付く。最新鋭の研究所でセキュリティも万全だったはずなのに。
「嘘だろ! もう少しで全てが明らかになるはずだったのに!」
調べると、研究データも全てが白紙になっており、ネット上の公開データも消去されていた。つまりこれは、そう言う事の出来る力のある組織が動いたと言う事になる。陰謀論で語られる世界を牛耳る勢力だ。確かにそう言う組織は、キューブのようなものがあると邪魔にしかならないだろう。エネルギー問題を使って人類を支配出来なくなるからだ。
キューブが奪われた事実を受け入れた時、彼は直観する。
「やばいぞ、このままだとキューブを巡って戦争になってしまう」
こう言う展開を、石版を残した存在は予想していなかったのだろうか。キューブが悪用された時に、それを止める方法も記されていたのではないだろうか。そう考えたマロウは、すぐに自宅に舞い戻った。幸い、組織はキューブにしか興味はなかったようで、石版は無事に発見される。彼はすぐに解析を始めた。
石版発見時には全く手のつけられなかったこの行為も、今では既に1人で何の資料もなくても分かるくらいに理解を深めている。やがて、石版の文字の羅列自体が暗号になっている事にも気付き、彼はそれに従って石版を操作した。
正しい順番で操作すると、石版から映像が浮かび上がる。立体ホログラムだ。
「やあ、ついに見つけたね」
「ええっ?」
まさかこんな展開になるとは予想外だったので、マロウは腰を抜かす。
「あはは。そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
「き、君は誰だ」
「僕は、そうだな……未来人だよ」
「石版は未来からきた? 過去ではなく?」
その自称未来人はまるで全てを見透かすように飄々としていて、マロウの質問にも気さくに答える。彼によると、石版とキューブはちゃんとした目的があって過去に送られたものらしい。
「君が見つける事も決まっていたんだよ。正確に言えば誰かが見つける事、だけど」
「でもキューブは奪われてしまった。単に封印するだけならいい。でも悪用されたら世界は……」
「そうか。良かった」
「え?」
キューブが奪われる事すら想定内と言う未来人の反応に、マロウは首をかしげる。納得の行かない彼の様子を見て、未来人は笑いながら種明かしをした。
「あれを奪う奴らはあれを独り占めにしようとする悪だよ」
「まさか……」
「そう言う悪を根絶やしにするために、この時代から送ったのさ」
つまりこう言う事だ。膨大なエネルギーを持つキューブは裏の組織内で争奪戦になる。この戦いは表には現れないものの、裏では大規模になり、結果的に無数にある組織はひとつを残して壊滅する事になる。残った組織がキューブをいじろうとした時、それが暴走して爆発。世界から悪の組織は一層される――。
「そこまで計算して?」
「そうだよ。だから君の存在には感謝してる。有難う」
この感謝の言葉の後、ホログラムは消えた。マロウは本当にそんな展開にあるのだろうかと半信半疑だったものの、数ヵ月後、世界で一番の大都市で大地震が発生する。彼はすぐにその地震がキューブの暴走だと直観した。
本当に世界はこれから良くなるのだろうか。マロウはまぶしい朝日を見上げながら明るい希望を信じ、今日も趣味の発掘を続けている。
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