KAC20213 お題『直観』

魔法少女あいす 3話 才能の差

 色々試したところで一向に魔法の使えないあいすは、居候のフクロウみたいな丸っこい生き物に不満をぶちまける。


「何で魔法が使えねんだよ」

「だから修行をするんだホ。ボクと一緒なら魔法が使えたんだから、素質がゼロではないって事ホ」

「ざけんなし。言われた通りにやってっけど、何も変わらねーじゃねーか!」

「そんな簡単には行かないホ。魔法はカップラーメンじゃないホ」


 魔法が使えるようになるには地道な努力が必要だと熱弁するトリに、あいすは愛想をつかす。やる気をなくした彼女は修行をせずにそのまま友人の家に向かった。あいすより少し背が低くて丸い眼鏡の似合うショートカットのその友人は、彼女の愚痴を何も言わずに黙って聞いている。


「葵、聞いてよ。私あいつが信じらんない。あんな修行とか意味あんのかな」

「意味はあるんじゃないかな。あいすは魔法少女になりたいんでしょ?」

「そりゃ、実際になれるって分かったらなりたいじゃん」

「じゃあ修行は頑張らなきゃ」


 友人の少女――葵は、正論をぶつけてあいすを黙らせる。場に沈黙の時間が流れ、気まずさは増していった。この沈黙を破ったのは葵の方だ。


「ねぇ、ちょっとステッキ貸して?」

「え、どうするの?」

「ちょっと試したい事があるんだ」


 あいすは言われるままに友人にステッキを渡す。受け取った彼女はまぶたを閉じて呪文を唱えた。その瞬間に魔法粒子が彼女の体を包み、あいすとはまた別の青を基調とした可愛らしい衣装に包まれる。


「へぇ、人によって服が変わるんだ……」


 ここまではあいすも想定内。何故なら、以前彼女に変身するところを見せていたから。彼女は、葵が変身呪文を唱えられたのはその時に自分の呪文を聞いたからだと思っていた。そう、あいすは呪文さえ知っていれば誰でも変身出来ると思いこんでいるのだ。

 変身した葵は、おもむろにステッキを上空に掲げる。


「マジカルレインボウレイ!」


 呪文と共に、彼女の握ったステッキから虹色のビームが発射された。いきなりステッキを使いこなせたその事実に、あいすは言葉を失う。


「嘘……一体どう言う事?」

「あ、えっと……ステッキを握ったら言葉が閃いて……」

「マジで?」


 頑張っても出来なかった事を速攻で成功させた友人の姿を目にして、ショックを受けたあいすの目から瞳孔が消えた。そうして直観する。これが才能なのだと。

 燃え尽きた彼女を見た葵は、変身を解いてステッキを返す。


「あ、あいすもすぐに使えるようになるよ」

「ウ、ウン、ソウダネ……」

「あ……」


 覇気をなくしたあいすはそのまま力なくトボトボと自宅へと帰っていった。その淋しそうな後ろ姿を見ながら葵はつぶやく。


「カミングアウトって難しいね」

「どんまいニョロ」


 彼女の影からニョロっとぬいぐるみのような丸っこい蛇が現れた。言葉を喋るその蛇は葵を慰める。彼女はその蛇を抱き上げると、その可愛い顔に頬を擦り寄せた。


「あいす、立ち直れるかな」

「向こうにはトリがいるニョロ、大丈夫ニョロ」

「うん、そうだね」


 一方その頃、自室に戻ったあいすは部屋の隅っこで膝を抱えてふさぎ込んでいた。その初めて目にする落ち込みっぷりを目にしたトリは首を傾げる。


「一体何があったホ?」

「葵が、友達が変身した上に魔法を使った。使えた……」

「そ、そうかホ」

「なんで? 何で私は使えんの? 何が違うの?」


 トリはいつもと違う雰囲気にどう対処していいか分からず、良い返事を返せない。その後もあいすの口からネガティブな言葉が次々に飛び出して、空気を読んだトリは説得をあきらめた。


「じゃあ、もう止めるホ?」

「やめない!」

「ホ?」


 予想外の答えが返ってきて、トリはさらに混乱する。どうやらさっきの言葉が彼女を奮い立たせたようだ。あいすは力強く立ち上がると、グッと拳に力を込めた。


「葵に出来るなら私にも出来る! 今までそうだったもん! 今度もきっとそうだもん!」

「じゃあ、修行再開ホね」


 こうして修行は再開され、今までよりも熱心に彼女は打ち込んだ。魔法の勉強をして仕組みを理解、魔法を使うための体力の強化。それらの成果が出たところで精神修養。頑張りに頑張ったおかげで、修行から3ヶ月後には初期魔法を使えるようにまでなっていた。


「いい感じホ。その調子ホ」

「でもまだまだ足りねぇんだよ。葵はビーム撃ってんだ」

「そ、それはかなりの高等魔法ホね……」

「だからまだまだ頑張んぞー!」


 この修行中、トリはあいすのために魔法の効果が強まる結界を張っていた。彼女が初期魔法を使えるようになったのも、実はこの結界のおかげ。結界から出たら彼女の実力ではまだ魔法は使えない。

 それを知っているからこそ、あいすはさらなる努力を厭わなかった。


 特殊な結界は独自の魔法的な匂いを発生させる。そして、魔物はその匂いを敏感に嗅ぎ分ける事が出来る。あいすの修行の度に結界を発生させていた事で、トリを狙う魔物がまた現れた。


「へへへへぇ……見つけたぞおおお!」

「わっ!」


 今回現れたモンスターは鎧を着込んだオークっぽいやつ。身長も2メートルを裕に超えたおデブちゃん。連日の修行でヘトヘトになっていたあいすは、この突然の来襲に体がうまく動かなかった。

 オークっぽいやつは、すぐに目に止まった彼女をギロリとにらむ。


「まずは邪魔な人間をころーす!」

「止めるホー!」


 オークっぽいやつは持っていた棍棒を思いっきり振り抜く。その殺気に気付いたトリがとっさに彼女を突き飛ばした。そのおかげであいすは助かったものの、トリは攻撃をダイレクトに受けてしまい、ピクリとも動かなくなる。


「あ、やっちまった。まぁいいか。コイツは死なんからな」

「トリーッ!」

「さあて、邪魔もなくなったし……」


 オークっぽいやつは視線をあいすに向ける。もう守ってくれるものはいない。あいすは逃げようとするものの、恐怖で足が全く動かせない。無傷のモンスターは悠々と歩いてくる。彼女は死を直観した。


「イヤーッ!」


 あいすがまぶたを閉じてしゃがみ込んで最後の時を待っていると、どこからともかく放たれた強力なビームがオークっぽいやつに直撃。モンスターは叫び声を上げる間もなく一瞬で消滅した。

 いきなり静かになったので視界を戻した彼女は、何が起こったのか分からない。


「え? どう言う事?」

「魔法の……ビームがアイツを倒したんだ……ホ」

「トリ、無事なの?」

「ボクは……あのくらいじゃ死なないホ」


 トリの無事を確認したあいすはすぐに近寄って抱きしめる。命をかけてかばってくれた相棒の無事が分かったところで、あいすは自分達を助けてくれた謎のビームの事とかはどうでも良くなっていた。

 遠くで2人の無事を確認した葵は、ホッとため息を吐き出して変身を解除する。そうして、何も言わずに去っていくのだった。



 4話

 https://kakuyomu.jp/works/16816452219019936314/episodes/16816452219131303710

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