第41話 具体的な話をします
昼食後、具体的な話を詰めていった。
「用地として考えているのはこの辺りです」
エリスは街の地図と山の模型を交互に見ながら説明する。その場所は山の麓付近だった。
「ここなら住んでる住民は居ませんし、誰の土地でもありませんから、安く提供出来ると思います」
そう答えたのは、この街の不動産担当者だった。
「となると、ここにホテルやその他の施設を造った場合、牧場へ通す道も誰も住んでない土地ってことになりますか 」
エリスがホテルの模型を指差しながら言った。
「はい、仰る通りです」
「誰も立ち退かなくて済むのは僥倖ですね」
エリスが破顔しながら言うと、一同も笑顔になった。
「あの、一つ良いですか? 山から温泉を引くための水道管? ですが、これはどうやって造るんでしょうか?」
そう聞いて来たのは、この街の土木担当者だ。
「あぁ、これは土を固めて造ります。内側を火で炙って強度を高めてあるんです」
エリスが水道管の模型を覗き込みながら説明する。
「なるほど...先程、これを街の地下に埋めると仰っていましたが、それって大工事になると思うんですが...」
「いえ、街の通行をちょっとだけ止めて貰えれば、一瞬で終わりますよ?」
エリスは事も無げに言うが、担当者は首を傾げるばかりだ。
「あの...それはどういう意味でしょうか...」
「こちらを見て下さい」
エリスは街のジオラマを指差す。
「このように山から真っ直ぐ水道管を伸ばすと、街のメインストリートにぶつかりますね? これは中央広場に真っ直ぐ繋がっていますから、通りの通行をちょっとだけ止めて貰えれば、私の魔法で一瞬にして地下に沈められます」
一同は再び静まり返ってしまった。
「ところで、中央広場付近に公衆浴場を造るためのちょうど良い場所ってありますか?」
沈黙を破ってエリスが問い掛ける。
「あ、それならちょうど良い場所があります。中央広場の目の前に以前の領主邸があるんです」
「領主邸が街にあるんですか? それなのにあのクズはあんな場所にわざわざ新しく屋敷を造ったと?」
エリスは呆れてしまった。
「えぇ、高い所に造って我々を見下ろしたかったんでしょうね...」
担当者が苦笑しながら言う。
「はぁ...どこまでもクズな男ですね...まぁでもそんな場所があるならうってつけですね。誰も住んで無いんですよね?」
「はい、空き家のままです。ただ...」
担当者の歯切れが悪くなった。
「何かあるんですか?」
「あぁ、いえいえ、新たにエリス様がお住み頂けると良いなと思っていましたので。やはり領主様は街に住んで頂きたいと思いまして...」
「街に住みますよ? 場所はまだ決まってませんが」
「良かったです...」
担当者はホッとした。
「ただあのクズの屋敷には住みません。クズを国に引き渡したらあの屋敷は更地にします。悪の象徴のような建物を残す訳にはいかないので」
エリスが毅然と宣言すると、一同も大きく頷いた。
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