第37話 お金ならあります
隊商のリーダーが紹介してくれたお店は、貴族向けの家具屋だった。
明らかに値が張りそうな高級感溢れるベッドやソファー、テーブルや椅子などを一通り眺めた後、エリスは店員に向かってこう告げた。
「ここにあるので全部ですか?」
「いえ、まだ倉庫に何点かございます」
「ではそれを含めて全部下さい」
「ぜ、全部でございますか!?」
「はい、全部」
「失礼ですが、こちらは全て非常に値が張る物ばかりでして、お支払いの方がとても高額になりますが...」
店員が怪しむのも無理はない。今のエリスの格好は、上下とも動きやすいジャージのような姿だ。おまけに所々汚れている。崖を切り崩していたのだから当然と言えば当然だが。とてもじゃないけど貴族のご令嬢には見えない。
金を持っていそうにも見えないし、さぞやうさんくさいヤツだと思われてることだろう。ひやかしだと思ってるのかも知れない。
「お金ならありますから心配要りませんよ」
店員の態度で察したのか、エリスは金貨の袋を次々とストレージから取り出した。店員が目を丸くする。
「た、大変失礼致しました! ただいま全てお持ち致します!」
「あぁいえ結構ですよ。倉庫に案内してくれれば。自分で運びますんで」
「へっ!? 運ぶとは!?」
「こういうことです」
エリスが目の前の大きなベッドを瞬時にストレージへ収納して見せると、店員は固まってしまった。カイは既視感あり過ぎるその光景に店員への同情を禁じ得なかった。
「わ、私、初めて見ました...これが収納魔法ですか...」
ようやく店員が再起動した。
「えぇ、いくらでも入りますので問題ありません。では倉庫に案内して下さいますか?」
「は、はいぃ! よ、喜んでぇ!」
高級家具店の店員が、どっかの居酒屋店員みたいになってしまった。
◇◇◇
その後もカーテンやら壁紙やら次々と買い占めたエリスは、涙を流さんばかりに感激した店員に見送られながら店を後にした。この店の過去最高売り上げを更新しただろうから無理もない。
「それにしても、こんな高級品を買い込んでどうするつもり?」
「ホテルの最上階をスイートにしようと思って」
「スイート?」
「うん、だから高級感を演出したくてね」
「宿泊費の値段を上げるってこと?」
「そう、ホテルの他の部屋と差別化して優越感に浸って貰う。その分を値段に上乗せするってこと」
「あ、だから隊商に頼んだ分は安くていいってことか...」
「そういうこと。ウチの街にある家具屋さんからも買うけどね。それでも圧倒的に足りないだろうから、隊商には何度も依頼することになると思うけどね」
「なるほど...」
「それよりお腹空いちゃった。なんか食べない?」
「いいけど何にする?」
「肉肉肉~♪」
「だと思った...」
カイはため息を吐いた。
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